ACT.10 「♪ ったぁましぃいのルフ〇ァァアアアン!! と叫び出したい衝動が人にはある」
懐かしき三人で過ごした夏の日。
「ひまわりの家」の裏山。
クワガタ獲りにいそしむ杏子、梓、陣の三人。
……ふと陣が歩みを止める。
地面の上に死んだ小鳥を見つけ、ジッとその死骸を見詰めている。
そこへ杏子と梓が戻ってくる。
杏子 「じーーん!! じん陣!! なに、陣。クワガタみつけた?」
陣 「……」
梓 「なになに? なになになに⁉ 陣くーん。……あ、鳥⁉ 見せてっ!! 」
陣の両脇に、自分たちも同じようにしゃがみ込む杏子と梓。
杏子 「鳥? 陣が、捕まえたの? 」
陣 「ううん。地面に、いたの」
杏子 「地面に?」
梓 「あ、昼寝だね。鳥、昼寝だね!! 」
陣 「全然、動かないんだ」
梓 「ぐっすり。爆睡だね。鳥、爆睡だね!! コラッ!! こんなとこで寝てたら、焼き鳥だぞっ⁉ 焼き鳥なんだぞっ⁉ ケタケタケタケタケタ」
自分の言ったことに一人でツボる梓。
杏子が陣の横顔をのぞき込みながら問いかける。
杏子 「もしかして……鳥、死んでるの……? 」
梓 「ケタケタケ……んん?」
おずおずと手を伸ばし、そっと小鳥の死骸を持ち上げてみる陣。
軽い。
そして冷たい。
なにより「生」の「柔らかさ」が失われている。
陣 「??? 」
顔のすぐ近くまで死骸を近付け、陣は、まじまじとそれに見入っている。
杏子 「カチカチ……だね。死んでるんだ……」
「死んでる」というワードに異様に怯えだす梓。
梓 「やだっ⁉ 死んで……死体だ!! 私、はじめて見た。恐いっ!! 」
どさくさに紛れて陣に抱きつこうとした梓の手を取り、その長身の身体を合気道よろしく勢いを利用してコロリと転がす杏子。
梓 「あいっっったぁ!! 」
地面に腰を打ち付け、涙目でプルプル震える梓。
そんな梓を尻目に、陣が真顔で杏子に問う。
陣 「この鳥、死体、なの?」
杏子 「だって動かないもん」
陣 「動かないのは、死体なの?」
杏子 「うーんとね、たぶん、タマシイが、なくなっちゃったんだよ」
陣 「……タマシイ? 」
杏子の当てずっぽうな答えに、真顔で返す陣。
梓 「なにそれ。タマシイ? え? 美味しいの? 」
腰をさすりながら立ち上がった梓が話に食いついてくる。
杏子はまっすぐに見詰めてくる陣の瞳に幾分ドキマギとしながら、当てずっぽうの答えを続けた。
杏子 「い、生き物には。みんなに、それが、タマシイ入ってるんだって。それがあるから生きてるんだって」
梓 「へぇ―――……で、それって美味しいの? 」
杏子 「食べる物じゃないよ」
梓 「違うのっ⁉ ツマンナイッ!! 」
杏子 「ほら、落ち葉なら沢山あるから。たんとお上がり」
その辺に落ちていた落ち葉をかき集め、手早く梓に押し付ける杏子。
梓 「野菜は、マヨネーズがないと……」
落ち葉を見詰め、悲しそうな顔をする梓。
そんな二人とは違って、なんだか少し考え深げに陣が呟く。
陣 「タマシイ……でも、なんで? どうしてタマシイなくなったんだろう?」
杏子 「え? うーん……」
杏子が大袈裟に腕組をして、首を後ろにのけ反らせて考える。
それをみた梓も、面白がって杏子のポーズの真似をする。
杏子「……ああ!! 」
梓 「え? ギャッ⁉ ……ぐうぅぅぅぅっ……」
杏子の発した大きな声に驚いて、梓が後ろにひっくり返る。
先程打ちつけたのと同じ腰の箇所を、再び強かに打ちつけプルプルする。
目を輝かせ、いかにも良いことを思いついたという風に杏子が陣に言う。
杏子 「きっと、タマシイだけで空に飛んでったんだよ!! 」
陣 「タマシイだけ? お空に……? 」
杏子 「そう。たぶん、忘れ物だ。この鳥、タマシイだけで飛んで行って、身体を忘れていっちゃったんだよ」
陣 「それは、うっかりさんだねぇ」
杏子 「ねぇ。梓みたい」
梓 「そんなごと、あいぼん……」
杏子 「あいぼん? 」
掌を少し傾け、軽いその小鳥を、少しもてあそぶようにして揺らす陣。
小鳥を見詰めながら、陣は杏子に再び問う。
陣 「ねぇ、杏ちゃん。この鳥のタマシイはどこに飛んでいったの?」
杏子 「え? それはね……うーんと……えと……あっちの方に……あは。ごめん。分かんないや」
もう限界とばかりに、杏子は曖昧に笑って誤魔化す。
陣 「そっか。……戻ってこれるのかな? 」
杏子 「え? 」
陣 「鳥のタマシイは、この鳥の身体に、戻ってこれるのかな? 」
杏子 「う――ん……」
再び腕を組み頭を捻って考え込む杏子。しかしいくら考えても良い答えが浮かばない。杏子の頭から知恵熱による煙が発生しそうになったとの時、唐突に梓が答える。
梓 「戻ってこれるよ、きっと」
杏子 「ふぇっ? 」
陣 「どうして分かるの? 」
梓 「だって行ったんでしょ? じゃ、戻ってこれるよ。行ったんだもん」
杏子 「ええ? 」
梓 「だから。行ったんだから、戻ってこれるよ。行ったなら、戻ってこれる。行ったから……戻ってこれる!! 」
ただ同じことを繰り返し言っているだけなのに、あんまりにも自信たっぷりに梓が言い切ったので、二人はなんだか妙に納得したような気持になった。
杏子 「……そっか。そうかもね」
陣 「……なるほど。そうだね、きっと」
梓 「そうそうそう。そうなんだよ、絶対」
杏子 「うん。行ったんだから、戻ってこれる。絶対そうだ。あ、でも……」
梓 「なに? 」
杏子 「もし、梓のタマシイがファ~って飛んで行っちゃったら、ヤバイ。ピンチ!! 」
梓 「なんで? なんでピンチ? 」
杏子 「絶対に迷う」
陣 「梓ちゃん、方向音痴だもんね」
杏子 「だよねーー」
小馬鹿にしたように笑う杏子。つられて笑う陣。
しかし梓は怒らずにフフンと鼻を鳴らして胸を反らす。
梓 「私は、大丈夫!! 迷わないッ!!」
杏子 「どうしてよ? 」
梓 「ふっふっふっ。それはね。杏ちゃんと陣くんのタマシイ、目印にして戻るから!! 」
両手の人さし指で、杏子と陣それぞれを指さしながら言いきった。
杏子 「ええ? アタシたちの? 」
陣 「タマシイを? 」
梓 「そ。目印。だって、ずーーっと一緒だもん」
「ずーーっと一緒」その言葉に杏子が目を輝かせながら同意する。
杏子 「それいい。それいい!! それならアタシたち、三人誰も迷わないね」
梓 「へっへーー。でしょ? 」
梓は得意そうに指で鼻の下をこすった。
おもむろに陣が歩き出す。
杏子 「陣? 」
陣はすぐ近くの、手の届く木の上に小鳥をそっと横たえた。
そこは日陰の涼し気な場所で、小鳥が眠るには快適そうに思えた。
陣 「……この鳥のタマシイにも、目印になるトモダチはいるのかな…?」
なんだか寂し気な陣の声。
杏子と梓は顔を見合わせ、すぐさま陣のそばに駆け寄っていく。
杏子 「いるよ、きっと。大丈夫だよ」
梓 「そうだよ大丈夫」
杏子 「アタシたちみたいな、仲の良いトモダチ、きっとこの鳥にもいるよ!! 」
梓 「うんうん!! 」
陣 「……だと、いいね」
空を見上げる陣。
つられて二人の少女も空を仰ぎ見る。
向こうの空には、とてつもなく大きな入道雲。
しばらくして、また突然に杏子が声を上げる。
杏子 「あ!! アタシ決ー―めた。タマシイ戻ってくるまで、この鳥のベット作ってあげよ~~」
その唐突な提案に、なぜか陣も乗り気になった。
陣 「いいね。いい。それ僕も。僕も作る」
梓 「じゃ、私も!私も!」
被せるように梓も同意を示す。
杏子 「よぉーーしっ!! じゃ、ベットの材料探しにいこーっ!! 」
握り拳を突き上げてはしゃぐ杏子。それにならって二人もはしゃぐ。
駆け出し、雑木林の中へとわけいっていく。
雑木林にいた無数の蝉たちが、急にスイッチでも入ったかのように一斉に鳴き声を上げ始めた。
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次話も本日中に投稿予定です!