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トップ ギア 前編  作者: ケイゴ
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6章 通院

フミ!先に車に乗っとくからね!」

 玄関で葉月が大声で言った。

「はーい。すぐ行くから!」

 文月は行く直前まではニュースを見てボーっとしているのに、いざ行くとなると、いつも準備が遅い。

 葉月はふぅっとため息をつくと、車の助手席に座った。

ぶんは?」

「なんか準備に時間がかかってるみたい。」

 葉月は前に手を伸ばして伸びをしながら言った。

 葉月はいつも時間の十分前には準備を済まして早く出る性格なのに、文月はいつも時間ギリギリまで動かない性格だ。

「お兄ちゃんも早く出るタイプだよね。」

「あんな時間にたたき起こされて時間が有り余ってたからな。」

 本当は、それだけじゃないけどな…

 すこしすると、文月はかかとを踏み潰した靴に足を突っ込んでバタバタと出てきて、後部座席に飛び乗った。

「よし、お待たせ!」

「お前はいつも早く起きるのに、なんでいつもギリギリなんだ?」

 誠が首をかしげながら言った。

「乙女にはいろいろあるのよ。」

「なんだ、せい…」

 誠が言い終わる前に、バチンと勢いよく葉月に頭を叩かれた。

「っつ!」

「お兄ちゃん最低!」

「そうだよ、そんなんだから彼女が出来ないんだよ。」

「童貞!」

「色情魔!」

「変態!」

「魔法使い!」

「ロリコン!」

「え、マジ!?」

「おまえらなぁ…」

 こいつら変なところばっかり息が合うんだから…

 誠はため息交じりにエンジンをかけると、父さんが車椅子に乗った母さんを押しながら玄関前のスロープをカランカランと下りてくるのが見えた。

 車の近くまで来ると、誠は窓を開けた。

「じゃあ行ってくるから。」

「誠。急いでてもスピード出すなよ。」

「分かってるって。てか、父さんよりよっぽど安全運転だから。」

「まぁそれならいいんだけどな。」

 そう言いながら父さんは大きな欠伸をした。

 父さんは今日も誕生日に三人で買った甚平じんべい下駄ゲタ姿だ。

 葉月と文が似合うからと、しゃれのつもりで買ってみたのだが、ずいぶんと気に入ってしまったようで、最近はいろんな種類を集め始めたようだった。

 細身の短髪なので確かに似合ってはいるのだが、下駄の音は近所迷惑だからやめてくれないだろうか…

「母さんも今日病院でリハビリがあるから、父さんと電車ですぐに病院に行くわね。

 葉月と文月をお願いね。」

「ん、まかせといて。」

 母さんはちゃんと服を着替えていて、ロングスカートとワンピースだった。

 昔はあまりスカートを好んで着る事は少なかったが、事故にあってからスカートを着ることが多くなった。

 どうにも細くなった足が見えるのがいやだと、ズボンを拒んでいるみたいだ。

 車輪に巻き込まれることもあるので父さんは嫌がったが、それでも、母さんの嫌なことを無理に押しつけたりはしなかった。

「葉月の話は聞けるけど、誠のCTの時間はリハビリとかぶっちゃうから、ちゃんと検査結果を教えてね。」

「任せといて!お兄ちゃんが隠そうとしても全部先生から聞いちゃうから!」

「中性脂肪もスリーサイズも体重も赤裸々に伝えちゃう!」

 それを知ったことで、いったい誰が得をするんだよ…

「事故後すぐには異常が無かったわけだし、念のためのCTだから大丈夫だって。

 行ってきます。」

「行ってきまーす。」

「いってらっしゃい。」

 誠は車を走らせ、バックミラーをちらっと見ると、父さんと母さんが手を振っていた。

 文月と葉月も窓から手を振り返していた。

「あれで将来、子離れできんのかねぇ?」

「兄ちゃんはちゃんと結婚して家を出れるのかねぇ?」

 うぐぐ…

「25にもなってまだ学生なんて、勉強が好きなんだね。」

「勉強好きなやつなんてこの世にいないだろ。」

「あはは。」

 そんな事を話していると、ちょうど駅の裏道、あの細く暗い道の前を通った。

「ここだよね、このまえお兄ちゃんが話してたバイクに突っ込んで吹っ飛んだ場所。」

「無茶するなぁ。お父さんはともかく、お母さんを心配させたらダメだからね。」

「大丈夫だって。お前らの花嫁姿見るまで俺は死なないから。」

 誠はへらへらと首を揺らしながら言った。

「安っぽい死亡フラグ立てないでよ。」

「大丈夫!このフラグお前らに結婚出来なかったら発動しないやつだから。」

「どういう意味!?」

「ふふふ、大丈夫だよ葉月。」

 文月は赤信号で止まるのを見計らって、後ろから誠の首をぎゅっと掴んだ。

「うわ!なになになに!?」

「ここで死亡フラグを発動すれば、私達が結婚出来るって事だから!」

「なるほど!」

 葉月がポンと相槌を打った。

「おかしい!お前らの感覚はどこかおかしい!」

 三人がそろうと、どこにいても騒がしくなってしまうな。

 そう言えばあの女医、柴崎だったっけか。

 なんであんなところを一人で歩いてたんだろう?

 ここら辺に住んでるのかな?

 今日の抜糸の時に会えたら聞いてみるか。

 けっこう美人だったよな…

「お兄ちゃん!」

「ん?ああ、」

 信号を見ると、赤信号が青に変わっていた。

「ぼーっとしないでよね。」

「まぁまぁ、フミ、お兄ちゃんもお年頃なんだよ。」

「え?」

「ね、お兄ちゃん。」

 葉月はニヤニヤしながら誠を見た。

 こいつは妙に人の心を読むよな…

「酔っ払いやらの介護が趣味のお兄ちゃんのお節介が、春を連れてくるかもねぇ。」

「!、まさかお兄ちゃん…。」

 文月が大げさに口をふさいで驚く。

「女の人に興味があったの!?」

「どういうことっ!?」

 思わず誠と葉月の肩がガクッと落ちた。

「いやぁ、毎回酔っ払いのおっさんばっかり交番に届けるもんだから、てっきりおっさんにしか興味がないのかと…」

「いくらなんでもマニアックすぎるだろ!!お前は兄を何だと思ってんだ!?」

「腐女子の大好物BLじゃないの?」

 いくら大好物でも、おっさんの絡みとか腐女子でも消化不良しかねんな…

「で、今日は終わるの1時くらいか?」

 誠は無理やり話を変えた。

「そう、そのとき伊東先生が移植の事とかいろいろ教えてくれるらしいから、一緒に話聞いてって。」

「俺10時から抜糸なんだけど…」

「いや、伊東先生も暇じゃないんだから、1時間もみっちり話したりできないでしょ。

 大体15分、長くても30分もかかんないってさ。」

「なら大丈夫か。」

 インフォームドコンセントか…

 学校の実技で問診をしたりもするから、話し方を聞いとくのも悪くないな。

 いままであまり気にせずに聞いてたけど、医者の話し方は時間制限ありの質問や説明だから、要点がしっかりまとめられている。

 伊東先生のようなベテランの先生ならなおさらだ。

「お兄ちゃん、青だよ。」

 視線を上げたら、また信号が変わっていた。

「文月さん、誠さんのこの行動、どう捉えますか?」

「そうですね葉月さん、二回も信号が変わったことに気付かないってことは、相当重症かと思われます。」

「まさにこれは…」

恋煩こいわずらい?』

 キャーキャー言いながら二人で肩をつついてきた。

 否定するとかえって逆効果になりそうだったので、勝手に言わせておいた。

 ああ、くそ、早く病院に着いてくれ…






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