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作者によって「純文学」という名前をつけられた作品たち

額縁の範囲

作者: 檸檬 絵郎

この作品に関しては、コメントいただくと調子にのって解説をしてしまいそうなので、感想欄閉じてます。芦からZOO!


 ある映画監督が、新作の短編映画を撮った。『出逢ってからの20分間 〜 彼が彼女に声をかけるまで 〜』というタイトルで、内容はほとんどタイトルのままだ。

 撮影場所は自然公園。ひとりの男が、犬を連れた綺麗な女の人を見かけて、話しかけようか話しかけまいか逡巡する。ツツジの花を眺めたり、池に石ころを投げ込んだりして時間をつぶし、やっぱり声をかけようと思い切ったときに、運悪く、女の人が携帯電話で通話を始めてしまったり……そんなこんなで、二十分。ラスト三十秒で、男にようやくチャンスが巡ってくる。そして、本編始まって以来はじめてのセリフを言う。


「あの ——」


 そして、女の人が振り向いて……、エンドマーク。

 素朴ながらも、自然公園の日常風景のなかにひとりの男の非日常的な感情を描ききった、魅力ある映画だった。



 私はその監督にインタビューをした。着想はなんですか、とか、いろいろと。

「『5時から7時までのクレオ』に惹かれて……」

「あの公園で撮りたいって、ずっと思ってたんです」

「ヒロイン役の彼女とはもう、それこそ運命の出会いで……」

 —— 彼は気さくに応えてくれた。


 ただ、最後に私が映画の感想を述べると、彼は怒ってしまった。


「それは僕の作品の感想じゃない!」


 私はただ、「男がなんと続けるのか、想像がふくらみますね」って言っただけだ。—— ほんとにそう感じたから、そう言ったんだ。

 けれど、彼は怒って言った。


「僕の作品は絵なんだ。画像や音声が集まってできた、ひとつの絵なんだよ。つまり、絵と一緒だ。わかるかい」

「はあ……」

「夕方の土手を描いた画家は、数分後に出てくる一番星を描かなかった。それにはちゃんと意味があるんだ。それと同じだよ」


 彼は息を荒くして説明してくれたけど、よくはわからなかった。

 ただ、彼の放ったことばはどこか魅力的で、私の一生のうち二度と聞かないと思えるような名言めいた響きを感じたんだ。


 私が唖然としているのを見て、彼は急に気まずくなったようで、席を立つときにはもう白い顔で肩身を狭めていた。まるで、私が彼にきついことを言ったみたいだった。

 そのギャップにやられてしまった私はしばらくぼうっとしていたのだけど、これは忘れないうちにメモしなければと、メモ帳を開いて、彼のことばをメモしたんだ。


「大事なものは、額縁の中にすべて描きこんだ。外にはなにもない!」






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