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エンカウント・トラブル

「獣とは違うみたいだけど」


 まだ向こうからこちらは見えていない。

 リューンは迎撃体制を整えるべく、狂化をかけ始める。

 対話可能な状況なら、理性は残しておくべき。

 強化操作を出来る限り冷静に行いつつ、ジリジリと近寄る気配を観察する。


「……急ぎ通信は切る。武運を」


「あんがと。また報告するから」


 そう言いつつ、あっさりと声が途切れた。

 ここでようやく相手が一人だと判明する。


 先手を打つべきか、打たざるべきか。

 リューンは僅かに思考を巡らせた後に、ここは撤退を決定する。


「(情報が足りねえ……。分からない以上、下手は打てない)」


 今城に居るのは、疲れてるカナリアと眠っているアネッサ。

 仮に自身に何かあって、城に襲撃。

 なんて事はあってはならない。


「(足場も狭くて、おまけに視野もこの暗闇で全然ダメだし)」


 再度情報を探るのは、城に帰ってある程度情報を共有した方が良いと判断した。

 ならば、とリューンは足に力を溜めて一気にここを抜ける。

 つもり、だった——。


「……は?」


 間抜けな声が出た。

 反射的に、リューンは腕を合わせて防御の姿勢を取る。

 眼前に現れ、闇に同化した黒い塊は、勢いそのままリューンに何かを繰り出した。


「っ、⁉︎」


 衝撃は大したモノじゃない。

 けれど、完全に不意をついた一撃。

 気配もなく、まるでそれは瞬間移動の様だった。


 何かが正面から衝突する。

 腕で庇ったものの、腹部への衝撃は押し殺せない。

 その衝撃で、肺から空気が漏れ出した。


「!」


 が、それだけではこの狂戦士は倒し切れない。

 少し後ろへ身体は弾かれたが、体勢は崩す事なく平然としている。


「……へぇ」


 それは少し甲高い女の子の声だった。

 咄嗟に防御したリューンに少し驚いた様子だ。

 ゆっくりと闇の中の影に目をやると、そこにはリューンより一回り小さい少女の姿が一瞬だけ浮かび上がる。


「っぶねぇ。何者だよ、お前」


 返答はないだろうが、一応問いかけてみる。


「……」


 まだ顔ははっきりしないが、闘気を全身に迸らせる様を鑑みる。

 これはもう逃げられないな。

 覚悟を決めた後、リューンは手から飛んでった魔道具を拾うのを諦めた。


「シッ!」


 短い発声の後に、不可視の空気の塊が、容赦なくリューンの横腹を掠めた。

 魔法か、それとも武術か。

 訝しむもやはり暗闇、そして繰り出されるまでが速すぎて、正確に読むことが出来ない。


「勘が良いね」


「うるせぇよ、……ッチ」


 風が切る様に、リューンの頬を切った。

 浅い傷だ。

 指で右頬の傷をなぞって、出処を確かめる。


「姿くらませの魔法か? しみったれた魔法使いやがって」


「どうかな」


 音はなく、また距離を詰められた気配もない。

 けれど、その声は耳元で聞こえる。

 思わずリューンは虫を弾く様に、右手を振るう。

 が、ヒットした様子もなく、ただ何もない宙空を薙ぐ。


「……姫ちんを返せ」


 問いかける声には、先程盗み聞きしていた会話と違い、怒りが滲んでいた。


「姫ちん? 姫ちんとやらは知らねえよ」


 黒狐を追ってきてるのか、それとも違うのか。

 下手に情報も与えたくない。

 リューンは顰めツラしながら、魔法破りの左手をただ準備している。


「そう。なら用はないよ」


 その間も不可視の攻撃が、リューンを狙い続ける。

 ただ、それは勘なのか。

 初撃以外はまともにヒットしていなかった。


 そうやって避け続けるリューンに痺れを切らしたのか、一歩詰める音がした。

 明確な接近、チャンス。

 自身の体に意識を巡らせて、


「捕まえたぞ、テメェ」


 魔法破りの左手で、リューンは己を狙った拳を掴んでいた。



 ☆



 カナリアは部屋に戻っていたが、やはり何故か様子が気になって黒狐が眠る部屋へ。

 手には傷薬と濡らしたタオル。


「入りますよ?」


 念の為に確認を取って、ゆっくりと扉を開ける。

 キギィと古い扉特有の音を鳴らし、扉は城の主人を受け入れた。


「……あ」


 その音で黒狐は目を覚ましたらしく、薄目でカナリアを確認する。


「申し訳、ありません。意識を、失っておりました」


 まだ途切れ途切れではあるが、黒狐は少し話せるぐらいには回復しているらしい。


「構わない。……見ておくから休んでいて」


 カナリアはタオルを黒狐に乗せると、先ほどまで兄が座っていた椅子に腰掛けた。

 狐は何か言いたそうに、咳き込みながら大きく息を吸った。

 カナリアは急かす事もなく、発せられるであろう言葉を待つ。


「……いきなり、申し訳ないのですが。どうか、私たちを助けてください」


 その声は痛みと懇願で、あまりに痛々しかった。

いつもありがとうございます。

よければブックマークよろしくお願いします。

うとうとしながら編集してたので、明日再度見直して編集します。

よろしくお願いします。

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