表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/39

狐の看病と夜の徘徊

 黒狐を空いてる部屋へ移動させた後、リューンは部屋にある椅子に腰掛けていた。

 あれから少し経ったが、呼吸も発見時に比べればだいぶましになっている。


「水持って来てくれて、ありがとな」


 そう言って、リューンはカナリアの頭を撫でた。

 柔らかい金の髪がゆっくりとほぐされていく。

 それでも少し不安げに、カナリアは黒狐を見た。


「……この子に、何があったのかな」


「さてな。事情は分かんねえが、とりあえず起きるまで待つしかないだろ」


「そう、だね」


 無理して笑うカナリア。

 リューンは何となくカナリアが思っているだろう事が分かった。


「(まぁ、明らかに人為的な傷だもんなぁ。カナリアちゃんも、こういうの見るのは初めてだろうし。……人との関わりってのを考えるよな)」


 リューンが直接話した訳ではないし、カナリアもあえて口にはしていない。

 が、この狐はどこからどう見ても『人』に襲われている。

 その上安易に大丈夫だ、なんて口が裂けても言えなかった。


「……とりあえず俺は少し城周り見てくるから。カナリアは心配せずに、寝ておきなさい! たくさん寝ないと大きくならないぞ」


 多少明るくリューンが取り繕う。

 そうして手を引くように、部屋からカナリアを連れ出した。

 あまり長居させても仕方ない。

 疑問は黒狐が目を覚ましてから、確認すれば良い。

 今何を考えても、それは所詮憶測でしかないのだから。


「またね」


 カナリアは部屋を出る時、そう言いながら黒狐を見た。

 サイズ的には森にいる動物と大差はない。

 “付けられた”であろう傷が、再度脳裏をよぎった。


「っ、ぐ」


 ベッドの上で、今も苦しそうに呼吸をしている。

 人と、それ以外は、やはり相容れない存在なのだろうか。

 カナリアはそんな事をふと思った。


 ☆


「……近くにいるかもしれねえ」


 リューンは手に持つ魔道具で辺りを照らしつつ、城周りを歩き始めた。

 血の跡は門前のみ。

 不思議と何も見つからなかった。


「冒険者? いんや。わざわざこんな所まで足運ばないよなぁ」


 人に襲われている可能性がある以上、リューンも警戒せざるを得ない。

 万が一この森で、あの狐を狙っている奴等が居るとするなら。

 それは城に住むカナリアやアネッサに、直接影響を及ぼす。

 カナリアも明らかに沈んでたし、どうしたもんか。

 そんな事をぐるぐる考えて歩き続けていると、リューンは突然動きを完全に止めた。


 魔道具の灯りも消して、身を縮める。

 整備もされてない森で、何か声がするのだ。


「……さが……し……だから……」


「あ……で、あの……」


 数にして二人程だろうか。

 音の数を聞き分けようと、ゆっくりと足を音の方へ向ける。

 声は微かだが、その場を動いている様子はなかった。

 じっとりとした汗がリューンの背を伝う。


 あの狐が魔獣だと仮定したら、それを痛めつけれる程の実力。

 魔獣と違い理性ある者が何よりタチが悪いとリューンは知っている。

 決して油断して良い状況ではない。

 リューンは己を落ち着かせるように、ゆっくりと呼吸をしつつ動向を探る。

 音が鳴らない様に身を屈め、一歩ずつ前に進んだ。

 灯りは消えているかを、再度確認する。


 ふと喋る声が大きくなった。


「だから、……はどちらに行ったかと……いる」


「分から……だって、あの状況なら……」


 なにやら話し合いでもしてるらしい。

 リューンは暗闇に慣れてきた瞳を、声のする方へ凝らした。

 もう少し距離を詰められるなら、クリアに聞こえるのに。


 もどかしい気持ちを抑えながら、一歩一歩距離を縮める。

 そこでようやく、声がはっきりと聴こえる位置まで届いた。


「……やっと、逃がせたと思いましたが。これは我らの失態です」


「焦んない焦んない! 姫ちんなら、多分大丈夫でしょ」


 頭に残る狐の絵と、会話の内容が急に線で結ばれた。

 けれど、断定するには、まだ情報が足りない。

 声は聞こえてるのだが、姿が闇に紛れて全く見えない。


「にしても、この森……。厄介ですね、探知魔法が効かない上に、方向感覚まで狂わせる」


「……だねぇ。ね、それより転移魔法まだ使える? 姫ちんを直接——」


「使えます。が、貴女達が居る、その森の座標が特定出来ない。結論今からの転移魔法は無理です。例え直接座標を読み取ったとしても、複数人の同時転移は不可能」


 おいおい、それをさらっとやってた奴がいるぞ。

 ウチにいる元魔王とかいう奴なんですけど。

 リューンは会話を聞きながら、そんな事を思った。


「(良かった。多分あの狐も、会話の主もここに無理やり転移してきて、迷い込んだだけだ)」


 リューンの気が緩んだその刹那。

 太めの枯れ枝を、誤って踏んでしまった。


「……待って、誰かいるみたいだよ」


 一気に空気が張り詰めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ