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インザリバー!

 快晴、いつもよりも強い日差しを手で遮る。

 直射日光は身体を蝕み、汗を噴き出させた。


「あづーい」


 リューンの妹である真祖の吸血鬼、カナリアにとっては日差しは天敵。

 とまでは言わないが、引きこもってることが多いのでやはり苦手は苦手らしい。

 金の髪を白の麦わら帽子で隠しながら、でぇっと舌を出しつつ兄の手を掴んでいる。

 暑ければ離せば良いのだが、どうもそれは嫌なのか、ぎゅうっと力いっぱい握っていた。

 絡み合う手は自身の汗で湿っているのだが、そちらは別に気にならないらしい。

 実に変わった話である。


「……どうもこういうの虫や日差しは苦手のようです。兄さんなんとかなりませんか?」


 もう片割れの妹である魔王アネッサは、脳天を抑えながら歩いていた。

 どうも黒の髪は光を吸収しやすいらしく、さっきから兄の影に隠れている。

 時折手を繋ぐか迷っている様子が窺えるが、カナリアに比べると乙女ではあるので、手汗というのが気にかかり積極的には行けてない。

 

 ジッジッジと虫が鳴き、深緑の葉が風に揺れた。


「俺にお日様をどうこうする力はねえよ……にしても、やっぱ暑いな。カナリア、帽子ちゃん被っとけよ」


 暑いと言いながらも汗一つ流していない男がリューンだ。

 引率しながら、ただ前を向いて上流へ向かっていく。

 町などに比べると幾分マシではあるが、それでも暑いといえば暑いはずだが、本人はケロッとしているのがまた何とも言えない。


「どうして転移魔法を使わせてくれないんですか。そっちの方が楽ですよー……」


「楽して川に入れると思うなッ! というか、折角作った俺の地図を活用しろ!」


「お兄ちゃんの作った地図、正直心許ないけどね」


「ぐっ……方向音痴だからこそ作ったんだっての!」


 方向音痴には理由がある。

 頭には今日の夕食は魚だなとか、そんなことを考えながら歩いているから目印を見逃すのだ。

 だから、本日もカナリアに「お兄ちゃん、地図と違うところに向かってる」何度か怒られていた。

 これで本人は安心しろ、なんて言うものだから誰も安心出来ない状況になっている。


 そも、何故出かけているのかと言うと、「川で魚を捕って、飯の調達をしたい」というリューンの目的が、暑いから涼しいところに行きたい(兄さんに着いていきたい)アネッサと、一人で留守番は嫌(買った水着をお兄ちゃんに見せたい)なカナリアと見事にマッチングした結果だ。


「おっ、そろそろポイントに到着するぞ! 間違ってない? 大丈夫か?」


「そんな心配なら自分で見ればいいのに……ん、地図によると大きなバッテンが書かれてるから大丈夫だよ」


 川と言っても、どこでも良い訳じゃない。

 ちゃんと魚が捕れて、かつ水浴びができる程度には広くないといけない。

 ようやく水に浸かれるのか、カナリアが安堵した時だ。


 アネッサが驚愕の声を上げた。


「……あの、兄さん」


「どうした?」


「私たちはどこで着替えたら……?」


 アネッサが川を指しながら、素朴な疑問をぶつける。

 確かにどこを見ても、隠れられそうな場所はない。


「しまった、忘れてた。タオルで着替えたらって……小さいヤツしかねえけど、まあ大丈夫だな!

 取りあえず使い終わった水着は……捕った魚と一緒に入れて良いか?

 下着は取りあえず服の上に置いてたら汚れないか」


 そう爽やかな笑顔で、さらっと頭の悪い発言をするリューンに、


「そうですか。やはり、兄さんはそういう目的だったのですね。えっち、鬼畜えっちです!

 見て欲しくないし、下着とか! 色々女の子にはあるんですよ! 水着も魚じゃないんですからね。布なんですよ!」


 アネッサは照れながらも抵抗をする。


「えっちって……お前らの下着洗ってんのは俺だぞ! 今更その程度で興奮しねえよ!

 水着だって着た後なんだから魚と一緒で良くないか?」


 何度か古城ではリューンのデリカシー問題を取り上げられたことがあったが、まさかここまで臆面なく下着の話をするとはアネッサも思っていなかった。

 いや、確かに身の回りの世話をしてくれているのは助かってはいるが、そう堂々と「俺が下着洗ってます宣言」されても困るのが本音。

 アネッサはこういう時同意してくれるカナリアに助けを求めた。


「カナリアだって恥ずかしいと思ってますよ! ねえ!」


「……最早お兄ちゃんにデリカシーを求めても仕方ないかなって思ってます!」


「そうだ! 諦めろアネッサ! 俺のこれはカナリアに叩かれても治らん、一種の病らしいぞ!」


「誇らないでくださいっ!」


「はぁ……お兄ちゃんのことだからそんな事だと思って、私がタオルとか諸々持ってきました」


 自分の荷物を広げて、アネッサが安心できるように中身を見せた。

 有能な妹である。


「ほう、俺の行動パターンを読むとは流石はカナリアだ!」


「流石っていうか私も学習するからね。

 私が何回お兄ちゃんにデリカシーの話をしたか、アネッサ聞きたい?」


 カナリアが変にこわばった笑顔でそんなことを言うのだから、反射的にアネッサは首を横に振る。


「いえ、今回は、はい。……川遊び楽しみたいと思います」


 アネッサは諦めたように、遊ぶことに頭を切り替えるのだった——。

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