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どきっ! 妹たちとの闇のゲーム!

「そんな……アネッサ、本気で言っているのか?」


「本気も本気。大マジですっ」


 昼も過ぎ夕時に差し掛かる頃。

 カナリアの居城、『古城』の大広間に広げられた紙を目の前にリューンは汗を流す。

 アネッサは高らかに勝利宣言を。

 カナリアは先ほどから黙りこくって、ただそのやり取りを横目に眺めていた。


「この悪魔めッ! 私を裏切ったなっ……!」


 糾弾するカナリアの声は怒りの色を込めており、その射貫く視線はアネッサに向けられていた。


「裏切るも何も私は初めから私の勝利の為に進むとお話をしたはずですが」


「カナリアまで、加担していたのか? お前も裏切者だっ!」


「違う、お兄ちゃん聞いて!」


 バラバラになっていく三人。


「……計画通りですっ!」


 にやりと魔王は口角を吊り上げてリューンを追い詰めていく。

 退路は断たれた、最早そこに残っているのは『行動』するだけ。

 リューンは膝を抱えながら、突き刺す地獄の視線に目を背ける。

 ——どこで、選択肢を間違えたのだろうか。

 それでも、男としてもう退くことは出来ないと、立ち上がりアネッサの手を握る。


「……あ、あ、愛している。アネッサ、結婚してくれ」


「はい、喜んで!」


「ふぎゃぁああああああああああああああ! お兄ちゃんのばかぁああああああああああああ!」


 影が舞い、リューンの身体が打ち上げられた。


「カナリアちゃん、容赦を——ぶへっ」


 どうして、こうなったのか。

 時は数刻前に遡る——。


 ☆


「昼食は美味かったか?」


「うん、やっぱりお兄ちゃんのご飯が一番好きっ」


「そうか、そうだろう、そうに違いない!」


 昼も終え、すっかりとうとうとし始めるカナリアの頭を撫でながらリューンは満足げに頷いた。


「ちょっと、どうして私だけ洗い物なんですかっ! カナリアも手伝いなさい!」


「ダメ、アネッサは古城を破壊しようとした。これは天罰。家の主からの怒りの雷」


 古城は二人の時よりも更にうるさくなっていた。

 魔王であるアネッサはガシャガシャとわざと音を鳴らして、抵抗を見せる。


「っ、ただ私は浴場を広くしようとしただけなのに!

 利便性を求めた結果が、このような仕打ちとは許せませんよ!」


「あれは利便性じゃねえだろ。なんだ、あの水を吐き出すライオンは。

 風呂にモンスターを配置するのは、ただの嫌がらせだろ!」


「あれは風呂ライオンといって、常に新鮮で美しいお湯をですね——」


「違うね、ありゃゲロ吐きライオンだね。水嘔吐獅子だ!」


 がやがやと机を囲みながら、ただ無駄な会話続ける。

 アネッサはあーだ、こーだ言いながらも嬉しそうに生活していてた。


「げ、ゲロ吐き! みず、おうと——兄さんっ!

 言っても良いこと、悪いことの分別もつかなくなったんですか!」


「ライオンのせいでお兄ちゃんは溺死しかけたのに」


「ぐぬぬ! ちょっと加減を間違えただけでしょう!」


「加減間違えて濁流起こすヤツがどこにいんだ! お陰で城が水浸しになったんだぞ!」


 何より『良かれ』と思ってすることがことごとく裏目に出るのも、ここ最近では当たり前になっている。


「分かりました。分かりましたよ。そこまで言うなら兄さん、ゲームで決着をつけましょう」


 そして、誰よりも俗世に塗れているのも「悪魔王」アネッサであった。

 カチャカチャと洗った食器を水切りラックに掛けると、びしっと指差して宣戦布告を行う。

 これもここ数日見慣れた光景だ。


「アネッサはすぐ負ける勝負をしたがるんだから。

 けれど、その勝負乗った」


 そして、そのゲームに乗るのは真祖の姫カナリアであるのもいつも通りだ。


「今日は、今日だけはぎゃふんと言わせてやりますから!」


「ぎゃふん」


「カーナーリーアー! またそうやって揶揄って——こら、待ちなさい!」


 アネッサはエプロンで手を拭きつつ、すぐさまカナリアを追いかける。

 そんな二人を見つつ、リューンは残りの後片付けを行いながら安堵するのだった。

 なんだかんだで相性が良い二人は、随分と楽しそうで、まるで本当の姉妹だ。

 微笑ましくも、なんだか時折割り込めない空気になるのが、たまに悲しくなるがそれはそれ。

 リューンは紅茶のお湯を沸かしながら、「怪我すんなよー」と声をかけた。


 熱したカップとお茶を入れたお盆を持って大広間に行くと、既にそこには大きな紙と手のひら大のサイコロが用意されている。

 アネッサはリューンを見ると、すぐに目を血走らせて席に案内した。 


「今日はですね。こちらになります」


 すっかり大広間が遊びスペースになっている。

 何せアネッサの魔法のお陰で、遊びと言っても広範囲に広がることが多くなったからだろう。

 カナリアはブランケットを既に持ってきており、準備万端で待っていた。


 リューンが紙を見ると、マスに言葉が書かれている。

 そう来たかと頷きつつ、アネッサに尋ねた。


「……双六すごろくか。これまた随分と凝ったヤツだな。作ったのか?」


「自作です。えっへん!」


「そういうとこは素直に凄いと思うわ。で、アネッサのことだから、なんか細工してんだろ」


 じとーとした目で見ると、アネッサは視線を慌てて逸らして「ナ、ナニモナイデス」と棒読みで言うのだから、怪しさしかない。

 すると、珍しくカナリアがアネッサを援護した。


「お兄ちゃん。物事は全て楽しむ努力をすること、だよ!」


「カ、カナリアが、前向き……だと!?」


「どんな風に私を見てるのかな、お兄ちゃんは……」


 ともあれ、カナリアが率先してやる気を出しているのは良いことだ。

 そう思いリューンも着席する。

 椅子、というよりは座布団に近いものを尻にひき、ゆっくりと紙を眺めた。


「ん? なんか——」


「に、にに兄さん! 順番を決めましょう!」


「あ、ああ。誰から行く?」


 アネッサとカナリアが目を合わせて頷きあった。


「では、兄さんからで」


「お兄ちゃんからでいいよ!」


「俺からで良いのか? まぁ、遠慮なく行かせてもらうが」


 ……違和感しかない。

 が、協調するのは良いことだ。

 リューンはどうせ悪戯でも仕込んでいるんだろうと、ゆっくりと賽を持ち上げて、振りかざす。

 出目は『三』、与えられた人形をスタートラインから動かした。


 『このマスに止まった者は、他のプレイヤーの頭を撫でる』


 しまった——、リューンが思った時にはもう遅い。

 はっとして、カナリアとアネッサを見た。

 魔王と真祖の眼光が淡く輝き、獲物を捕食したように笑うのだ。


「……ルールを伝え忘れていましたね、兄さん。この双六はマスに止まった命には『絶対遵守』です」


「でね、お兄ちゃん。この双六は、優勝者が負けた人に何でも命令していいの」


「くっ、お前ら俺をハメたなっ?!」


 立ち上がり、咄嗟に逃げようと体に力を込めた。

 が、空間が固定されており結界が薄く何重にも重ね掛けされていた。

 これでは破るのに時間がかかりすぎる。


「もう遅いですよ。……ここは鳥かご。

 私は反省しました。結界を破られるなら、結界を百重にすれば良いじゃない、と」


「お前馬鹿かぁああああああああ! 誰も出れないじゃねえか!」


 何という魔法の無題遣いだろうか。

 ここまでの大魔法を惜しげもなく、使うのは世界を見渡してもアネッサぐらいだろう。

 おまけに、カナリアの「影」がぐるぐると巡回しており、仮に結界を破壊しても影に捕縛される。

 観念したようにリューンは顔を歪めながら、席に戻る。


「さぁ、兄さん」


「お兄ちゃん」


「「闇のゲームの始まりですよっ」」


 闇のゲームはここに開幕した。

 兄は己の尊厳を怯えやかされ、妹たちは己の欲望の為に突き進む。

 そうこれは『闇の双六』なのだから——。

闇のゲームといえば遊戯王を思い出しますね。

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