表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/39

真祖の姫、兄の為に本気出す

 止められなかった。

 垣間見ることさえなかったモンスターの頂点に君臨する者の戦いに興奮しているのも否定出来ない。


「何をしているんだ」


「言っておきますが、町一個吹き飛ばすなんてそう難しくないんですよ。

 ——なので、転移魔法を使います。カナリアさんも宜しいですか?」


「構わないっ」


 魔法陣が赤く、紅く、広がっていく。

 膨大な魔力量を肌に感じながら、リューンは手の疼きを抑えられなかった。

 痺れるような感覚に、思わずカナリアは大丈夫なのかと、横顔を見た。

 真っ直ぐに魔法陣を見つめ、慌てることもなく、ただ魔力に身体を委ねる。

 芯の通った凛々しい表情をしながら、来るべき時を待っている。

 買ったばかりの黒のフレアスカートが、上空に吹き上げる風に揺れた。


 ——あぁ、もうどうしたって止められないんだな。


 先のやり取りを思い出すと、こうなったカナリアを説得するのは中々に骨が折れる。

 ただ、どうしても素直に送り出せない懸念事項があった。

 リューンは、カナリアが戦っているところを見たことがないのだ。

 もしかして、自分はとんでもないことを許してしまったのではないか。

 今からでも止めて、自分が戦う方が良いのではないか。

 そんな思考が渦を巻いて、脳を駆け巡る。


「なぁ、カナリア——」


 いっそ手を引いて逃げてしまえば、カナリアが傷つくことはない。

 でも、そんなリューンを見透かすように、


「大丈夫だよ、私が勝つから。

 お兄ちゃんは絶対に渡さない。——渡せないの」


 そう言って、花咲くように笑うのだ。

 温かい笑みで、包み込むように、まるでこれから始まる戦いを意に介していないかの如く。

 そして、いつものように手を握る。


 何故だか、ひんやりした妹の手を握ったら安心してしまった。

 妹が全幅の信頼を寄せるように、また兄も妹を信用しないといけない時がある。

 それが、今だ。


「分かった、お前に任せる」


 それだけ言うと、小さい妹の頭に手を乗せた。


「えへへーっ! うん、やっぱりお兄ちゃんは凄いなあ。なんだかすっごく気合が入った!」


 さっきまで真剣な表情をしていたのに、今は目を細めて指の感触を楽しんでいるカナリア。

 止めると、見上げられるので、リューンはまたゆっくりと髪を撫でてやるのだった。


 ☆


 転移魔法の陣に、身体が吸い寄せられる。

 そう体験出来ない感覚に、足元がおぼつかない。

 手先の血液が絞らられていくのを感じながら、浮遊感に身を任せた。


 リューンが次に目を開くと、そこは何もない、本当に何もない広い荒野が飛び込んできた。

 あるのは大地だけで、風すら感じない。

 空は青空だが、気温という概念が死んだみたいに、暑いも寒いもない。


「ここは、どこだ」


「魔王の城が築かれている、終わりの大地と言われるところです。

 勿論地図にも載っていない、秘匿の中の秘匿。ここなら全力でも問題ありませんからね」


 簡潔に説明すると、アネッサはリューンを結界の中に閉じ込めた。


「どういうつもり?」


「狂戦士はモノです。つまり、大事な賞品ですから。怪我でもされると困ります」


「お兄ちゃんはモノじゃない!」


「今は、でしょう。……さて、真祖の姫様。始められますか?」


 パキパキと身体を鳴らして、アネッサは準備を整える。

 彼女とて、頂上種と戦うのは初めてだ。

 生まれながらにして王女として君臨するアネッサに逆らう者は居なかった。

 だが、ここに勇者とは別の対等な者がいる。

 最強の力を持つと言われる真祖。

 禍々しい真紅の目、黄金と間違えそうになるぐらい美しい金髪。


「——問題ない」


 底知れぬ深い闇からの答えに、アネッサの全身が総毛立つ。

 ついぞ、真紅の目が輝き始めた。


 臨戦態勢は万全のようですね——。


 空間が揺れ、大地に真祖の力が伝播する。

 それを見た魔王に、一切の油断と隙はない。

 同じく蒼炎の目を光らせ、魔力を放出し始めた。


 悪魔王、通称デーモンロードは技巧に優れた種だ。

 多彩な魔法を完璧に駆使しながら、自身が生み出すモンスターを使役する。

 魔法に於いては他の追随を許さず、他種にはない高い知性を以って場を制す。


「なんだ、なんなんだよッ!」


 結界越しにリューンが見たのはそんな覇を唱える二人の魔力のぶつかり合いだった。

 恐ろしい程の衝撃波が結界の中まで届く。

 たかが決闘、されど決闘。

 しかし、妥協は一切ないのは種としての本能だろうか。


「…………むっ!」


 先に動いたのは、真祖のカナリアだった。

 距離をゼロにする高速移動を行い、背後から生み出した影をアネッサに叩きつけた。

 だが、空間をも削る一撃は空振りに終わる。


 ——瞬間移動、だ。

 使われている魔法や、こんな高速の攻防まで見えているリューンもまた異常であった。


「追って!」


 カナリアが指示を出す。

 指示を受けると、質量を持たないはずの影は、姿を変え、形を変え、轟音を放ちながら敵を殲滅する為に追撃する。

 絶え間ない連続攻撃(ラッシュ)は、確実にアネッサを捉えていた。

 圧倒的な破壊力を前に、アネッサは反撃に転じられない。

 が、すんでの所で巧みに躱している。


「「ッ!」」


 バッとお互い距離を取って、ひと段落——。


 すぐさま魔力を練り上げながら、再び睨み合う。

 まさに息もつかせぬ攻防であった。

改めまして、日間ランキングに載ることが出来ました。

これもひとえに皆様が数ある小説の中からアクセスしてくれているお陰です!


更新速度落とさず頑張りますので、お付き合い頂ければと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ