レーダーを作ろう。そして方針変更
しかし食料か。
「選択肢は二つ、か。食べられる動物を探すか、食べられる植物を探すか。ひとまず動物で検討してみるか」
『困難は分割せよ』と言ったのはアインシュタインだったか。頭の中で細かくステップに分解してみる。後々、それぞれの解決策を考えるのだ。
1.みつける。
2.おびき寄せる。
3.捕まえる。
4.無力化させる。
5.さばく。
6.調理する。
7.後始末。
「……いや、できるのかこれ」
特に4は精神的に、5は生理的に結構無理じゃないか。6は純粋に知識的に無理かも知れない。
「ま、まあ、やってれば思いつくかも知れないじゃないか。まずは簡単なステップから」
まずは手を動かす。技量があれば、それで思いつくこともあるのだ。プロトタイピングは嫌いじゃない。ひとまず作って見通しが立ったなら、それを破棄して一から作り直すもの悪くないし。
「では、まず、1の『みつける』からだな」
今俺にできることはオブジェクトを作ることだけ。オブジェクトにできることはないか、『マニュアル』をパラパラとめくってみる。
「……『オブジェクト内部の状態を調べよう』か。これかな?」
読むと、オブジェクト内部の状態を、自身や別のオブジェクトから参照できるらしい。参照できる情報の中には、磁気や温度の分布なども含まれている。
「熱感知……これなら」
巨大な、半径1000メートル、高さ3メートルの円筒形オブジェクトLange1を作る。これは自分を中心に位置を固定し、物理干渉を一切しない。それと同じ円筒形で、半径1メートル、高さ3ミリのオブジェクトLader1を作る。これは物理的に動かせるようになっているが、触れても視覚には影響をしない。そして肝は温度分布の表現である。Lader1は定期的にLange1を参照し、その内部の熱分布を取得して、それを自身の内部に縮小して表示するのだ。参照する温度は摂氏で35度から42度にした。多分、野生動物ならそれくらいの温度になるはずだ。この世界の動物が地球とそう変わらない、と言う前提だが。
「さぁて、結果を御覧じろ、と!」
Lader1オブジェクトのタイマーメソッドの中のソースコードを、エンターを力強く弾いて決定する。さっとLader1を振り向くと、真っ暗なLader1の中に、ポツポツと赤い光の固まりがいくつか蠢いていた。
「おー。成功かなこれは」
赤い光を見る。この固まりがさらに群れになって一方向に動いているのは、狼の群れだろうか。それと、少し大きな固まりがゆっくり歩いている。熊かなんかだろうか。
観察しているうちにふと思い立って、Lange1の大きさを半径100キロ、高さ300メートル、100倍に拡大してみた。すると。
「……なんか変だな」
遠く、つまりLader1の端っこにある赤い固まりが、地面にめり込んでいるように見えたのだ。
「……あっ、地球の丸みを忘れてた」
Lange1は完全な円筒形だが、あまりにも大きくなると、端っこの方が大地から浮いてしまっていたのだ。今の状態は、地球の上に丸い板が置かれたようなものだった。
そこで、Lange1の形を「帽子型」に変更し、曲率を大きさから自動的に地球の表面に沿うように変更した。これ以降は大きさを変えれば、自動的に地球に貼り付くように曲がるだろう。Lader1は形を変えず、参照のソースコードに座標変換のコードを加えた。さーて、これでどうかな。
Lader1の端っこの方にも、同じような赤い固まりが表示された。だが、見つかったのはそれだけではない。
「……ビンゴォー」
狼よりも大きく、熊のように縦長だがそれよりも小さい赤い固まりが、数百以上集まっている場所があった。これはつまり、人間の都市だ。
「何も自分で全部やる必要はない。人にやってもらえばいいんだ。よし、まずは情報収集だな」