『コンソール』と『リファレンス』
「再構成って、本当にそのまま再構成したのかよ……」
尾生は自分の体を見下ろした。くたびれたスーツと革靴。死んだ時そのままの服だ。鏡はないが顔も体格も多分変わっていないだろう。とは言えこれも逃避だ。眼を上げると、尾生がいるのは小高い丘の上のようで、周囲の様子が見渡せた。……ひたすらに原生林が広がるばかりだった。その現実を受け入れるのは辛かった。
不規則に風が吹付け、暑くもなく寒くもなく。木々と土の入り混じった複雑な匂いが鼻腔に入ってくる。視界の上半分は雲の少ない青空で、直視はできないが太陽があるのはわかった。下半分は広葉樹の原生林が地平線の彼方まで続いている。地平線があるってことは、大地は丸いってことだ。……それに何か意味があるかどうかはおいおい考えるとして、だ。
「人間、本当にいるのかここは……」
遠くから(多分)狼の遠吠えが聞こえてきた。それでびくっとして、すぐにその意味するところがわかってもう一度びくっとする。襲われるかも知れないじゃないか俺! 人間なんて野生の中では最下層の餌でしかない。
慌てそうになる自分を、大きく深呼吸して無理やり落ち着かせる。そこでさっきの管理者の言葉を思い出す。
「『コンソール』と『リファレンス』だったかな……うわっ」
何もない空中に、モニターと仮想キーボード(馴染み深いQWERTY配列だ)、それに本が浮かび出た。AR(人工現実)とかホログラムとか言う技術にそっくりだった。
「あー……まあ、これなら俺なら扱えるのかもな」
とは言え、得体の知れないものをいきなりいじる気にはならなかった。まずはマニュアルを読むことにした。