宇宙港に向かえ! スペースキャプテン プリムラちゃん
「ねえ、プリ様ぁ。これは、私の気の所為なのかも知れないんですけどぉ……。」
宇宙港への道を、スペースバギーで進みながら、スバル隊員が、気の抜けた声を出した。道は想像以上に悪路で、運転に夢中のプリムラちゃんは、後部座席に座るスバル隊員を、振り返りもせずに言った。
「いま、いそがしいの。すばるたいいん。」
「ええ……。でもぉ。」
「なんなの なの?」
「一人多いような気がするんですぅ。」
そう言われて、プリムラちゃんは、キキッと、バギーを止めた。
「そんな ばかな なの。すばるたいいん でしょ? まいきちゃん でしょ? まいきちゃんの ひざのうえに さっき たおした ようじょがたうちゅうじん でしょ……。」
ひ、一人多い。しかも、敵!
「き、気付かなかった。」
叫ぶ舞姫に「膝の上に乗せているのにかい。」と、プリムラちゃんとスバル隊員は、心中で突っ込んでいた。
「ばれたら しょうがない。わたしも うちゅうこうに つれていく のだ。」
「ななな、何で生きているんですかぁ。あんなに、完膚なきまでに破壊されたのに。」
「かんたんな こと。わたしたちの ほんたいは おーばーまいんど なのだ。からだが はかいされたら、べつの『あいして あいされ にんぎょう』に、のりうつれば いいのだ。」
それでは、愛して愛され人形がある限り、こいつらは倒せないのか?
プリムラちゃんと舞姫は、戦慄を覚えた。
「それなら、着せ替え人形とかにも、乗り移れるのですかあ?」
スバル隊員が、事態の重大さを全く理解していない、暢気な声を出した。
「むろんだ。この うちゅうで さいこうの せいめいたい。それが おーばーまいんど なのだ。ふかのうは ないのだ。」
それを聞くと、スバル隊員は、ニマッと笑った。
「じゃあ、ちょっと、外に出て下さい。」
スバル隊員に促されて、幼女型宇宙人は、素直にバギーを降りた。
「えい。最大出力ですぅ。」
躊躇わずにビームガンの引き金を引くスバル隊員。愛して愛され人形は、跡形も無く消し飛んだ。
うげっ。こいつ、えげつない……。プリムラちゃんと舞姫は、その呵責なき攻撃に、ちょっと引いた。
『なにを するのだー。』
みんなの心の中に、幼女型宇宙人の念波が響いた。
「大丈夫ですぅ。これに乗り移って下さぁい。」
スバル隊員は、宇宙服のポケットから、着せ替え人形を取り出した。
「うふふふ。私の小さい頃からのお友達、ジョミーちゃん人形が、お喋り出来るようになるなんて。感激ですぅ。」
「わたしは おもちゃ じゃないのだ。」
「あっ、本当に喋った。可愛い〜。」
宇宙人の言う事を全然聞いてない……。
プリムラちゃんは、今やジョミーちゃん人形型宇宙人となったオーバーマインドに、軽く同情していた。
そうこうしているうちに、宇宙港が見えてきた。
「なんか、うちゅうこうは あまり こわれて ないの。」
「彼女達、宇宙港は利用するつもりで、攻撃しなかったみたいです。キャプテン・プリムラ。」
と言う事は、施設は無事なのか……。プリムラちゃんの目が光った。
「えーと、えっちてぃてぃぴぃ すら すら……。」
「プリ様ぁ。何してるんですかぁ? 早く乗り込みましょうよぉ。愚図なんですかぁ?」
「うるさいの。すこし まつの。」
急かすスバル隊員を叱ると、泣きながら抱き付いてきた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。嫌わないでぇ、プリ様。」
「あっー、もう。きらわない から、おとなしく してるの。」
その二人の様子を『何だか大変だな。』と、思いながら、舞姫とジョミーちゃん人形は見ていた。
「ああっ、いやん。もう、許して……。」
一方そのころ、宇宙港の管制塔内では「お姉様」が色っぽい声を出していた。
「ふふっ。さすがは、おいろけたんとうね。いい こえで なくわ。」
「誰がお色気担当なのよ。」
後ろ手に縛られ、首輪を付けられて、リードで引っ張られていた「お姉様」は、苦しくなって、つい、泣き言を言ってしまったのだ。
「こんな所に私を連れて来て、どういうつもりなの?」
「おまえに みせて やろうと おもってな。きゃぷてん・ぷりむらの さいごを。」
首領オクが、パチンと指を鳴らすと「お姉様」は、リードを引いていた幼女型宇宙人に、グッと顔を窓に押し付けられた。
『はにゃああ。変な顔になっちゃう……。』
「お姉様」が、そんな事を考えていると、宇宙港にスペースバギーが近付いて来た。
「きたか。きゃぷてん・ぷりむら。」
オクはニヤリと笑って、手に持っていたリモコンのスイッチを押した。果たして、バギーの走っている地面に埋めてあった爆弾が爆発し、バギーは木っ端微塵に吹き飛んでしまった。
「ああっ。キャプテン・プリムラ! 舞姫ちゃん!」
「あっーははは。これで ゆいいつの きぼうも なくなったわね。」
ガックリと膝を折る「お姉様」。その弱った「お姉様」を嬲る様に、大勢の幼女型宇宙人が「お姉様」に、むしゃぶりついた。
「ままぁ。」「まま、あったかい。」「まま、すきー。」
瞳に虚無の色を浮かべた「お姉様」は、もう、抵抗もせず、為すがままになっていた。
「あっははは。とうとう、こころが おれたわね。あなたは、これから、わたしたちの どれいおかあさんよ。わかった?」
嫌なお母さんだな……。と思ったが、絶望した「お姉様」は、涙を零して「はい……。」と頷いた。そして、ママ、ママと、甘えついて来る幼女型宇宙人達を「はい、はい。ママでちゅよー。」と言って、あやし始めた。
その時、管制塔のドアが、バンッと、勢い良く開けられた。
「まつの、『おねえさま』。ぜつぼうは おろかものの けつろん なの。」
ああっ、誰あろう。そこに居たのは、正しく救世主。キャプテン・プリムラ!
「なっ……、きゃぷてん・ぷりむら。どうやって、あの『しのわな』を だっしたのだ?」
「そんな こと、わたしが しるか、なの。」
驚愕して問い掛けるオクに、乱暴な答えを返したプリムラちゃんは、彼女に向かってビームガンを放った。間一髪、避けるオク。
「本当は、危険を察知したプリ様が、囮として、リモコンでバギーを操っていたのです。」
プリムラちゃんの後ろから、ヒョッコリ顔を出したスバル隊員が、誰にともなく説明した。
「お姉様〜。」
「ああっ、舞姫ちゃん。無事だったのね。」
舞姫が「お姉様」に駆け寄ろうとすると、それに気付いた幼女型宇宙人が、一斉に近付いて来た。
「ままだ。」「もう ひとりの ままだ。」「ままぁ。」「ぎゅっとして、まま。」
更にスバル隊員にも、
「ままだ。」「ままが ふえた。」「しんままだ。」「ふええん。ままぁ。」
と、抱き付きに行く始末。
「しゅ、しゅうしゅうが つかないの。」
「うわっははは。みたか、きゃぷてん・ぷりむら。われわれに さからうものは みな『まま』に されて しまうのだ。」
「どうして なの? どうして、おまえたちは そんなに『まま』が ほしいの?」
彼等は、アンドロメダ星雲の片隅の太陽系の、とある惑星で発生した知的生命体だった。そして、進化の次の段階に入る時、繭としていた母星を潰し、オーバーマインドとなって、大宇宙へと旅立って行った……。と、ここまでは良かったのだが。
アンドロメダ星雲を旅し尽くした彼等は、調子に乗って「ちょっと隣の天の河銀河に行ってみようぜ。」と、思っちゃったのだ。よせば良いのに……。
「ぎんがと ぎんがの あいだは、とおかった……。そして、くらくて、さむかった。」
そう、暗くて、寒くて、単調な旅を何万年と続けるうちに、すっかり幼児退行してしまったのだ。
「あまのがわぎんがに たどりついたとき われわれは けっしん したの。この ぎんがけいを あまねく われわれの おかあさんで みたして やろうと……。」
「いみが わからないのー。」
叫ぶプリムラちゃんに、オクは不敵に微笑んだ。
「まず、てはじめは、おまえたち ちきゅうじんるいだ。」
むうう。ここで負けたら、銀河全ての女性が、こいつらのママにされてしまう。
考えながら、やっぱり意味が分からん、とプリムラちゃんは思っていた。
頑張れプリムラちゃん。我々の銀河を、オク達のママの巣窟にしてはいけない。
戦えプリムラちゃん。銀河を救うのだ。
続く。
次回こそは完結予定です。
壮大なんだか、矮小なんだか分からない展開になって来ました。
一つ言えるのは、アーサー・C・クラークのファンの方には、絶対に見せられない作品だという事です。
そんな本作も、次回こそ完結予定です。