大怪獣を倒せ! スペースキャプテン・プリムラちゃん
怪獣は、口から火を吹いて、透明ドームを壊し、基地内に侵入しようとしていた。
「どうしてぇ? どうして、あの怪獣は、真空中で炎を吹き出せるんですかぁ。」
スバル隊員が、堪り兼ねたかの様に、叫んだ。
「おちつくの、すばるたいいん。あれは ぷらずま なの。ぷらずま という ことに しておけば、あらかた せつめいは つくの。」
「炎だけじゃありません。何で、こんな空気も何も無い星に、あんなにデッカイ生き物がいるんですかぁ。」
「それは たぶん、この ほしに せめてきた、うちゅうじんが つれてきたの。」
いつの間にか、宇宙人が攻めて来た事が、既知の事実の様に語られているわ。
と、スバル隊員は頭に疑問符を浮かべた。
そんな情報や証拠が、何処かにあったかしら? そもそも、怪獣についてだって、まだまだ、突っ込み足りないんだけど……。
「あの……。」
「すばるたいいん、ちょっと しずかに するの。いま こんぴゅーた『なつ』と れんらくを とるの。」
忙しそうにしているキャプテン・プリムラを見ながら、スバル隊員は考えた。
『あんまり、細かい事柄に拘っていたら、面倒臭い女の子だって思われて、プリ様に嫌われてしまうかも……。そんなのイヤイヤ。スバルはいつだって、プリ様のスィートラブラブエンジェルでいたいもん。』
全く「細かい事柄」ではないと思うが、プリムラちゃんに嫌われるくらいなら宇宙がひっくり返った方がマシ、という思考形態なので、とりあえず、スバル隊員は、怪獣や宇宙人に関しては棚上げした。
そして、本能の赴くまま、プリムラちゃんに抱き付いた。
「あ〜ん、プリ様ぁ。大好き、大好き、大好きー。」
「びびび、びっくり したの。すばるたいいん、いきなり ほっさを おこさないで ほしいの。」
「ナツと連絡を取って、如何するのですか?」
「ぴっぴっさんだるごうを えんかく そうさ して もらうの。そうび している じゅうりょくぶらすたー なら、あんな かいじゅう いちげき なの。」
ピッピサンダル号にも、小型のコンピュータは搭載されている。だが、所詮「呼べば来る。」ぐらいの芸当しか出来ない。
敵への攻撃など、複雑な操作は、アステロイドベルトの武威参号宇宙ステーションに残して来た、ナツに頼むしかないのだ。
「そんなに遠くから、ナツは如何やって操るんですか?」
「ちょうこうそく たきおん ねっとわーくを つかうの。」
超光速タキオンネットワークとは、人類が進出し、棲息しているエリアの宇宙ならば、ほとんどゼロカウントで情報の遣り取りが出来るシステムだ。
どんな原理で構築されたネットワークなんですか、と聞かれても、遠い未来のオーバーテクノロジーなので説明出来ません、としか言い様がない。
「ええっと……。えっちてぃてぃぴぃ すら すら わーるど わいど うぇぶ……。」
一生懸命、腕に付けた小型発信器を操作するプリムラちゃんを、スバル隊員は、ウットリとした表情で眺めていた。
『真剣な表情のプリ様、可愛過ぎですぅ。でも、最新鋭のネットワークの割には、旧態依然としたアドレスなんですぅ。』
そんな彼女の考えは、キャプテン・プリムラの「しまったの。」という呟きに破られた。
「どうしたんですか? プリ様ぁ。」
「きちの あんてなが こわされて いるの。つうしんが できないの。」
超光速タキオンネットワークとか言っている割には、アンテナで送受信するんだ。
と、スバル隊員は思った。
「って、一大事じゃないですか。どうするんですか? 私達、食べられちゃうんですかぁぁぁ。」
「おちつくの、すばるたいいん。ぷりが やっつけて やるの。この びーむがんと さーべるで。」
キャプテン・プリムラが取り出した、幼女の小ちゃなお手手に合わせたミニサイズのビームガンと、同じく幼女用の小ちゃなサーベルを見たスバル隊員は、絶望に目の前を真っ暗にしていた。
「ぷりに おまかせなの〜。」
そう叫ぶと、プリムラちゃんは、背中に背負ったロケット装置を噴射させ、迫り来る怪獣に向かって飛び出した。
「きゃあああ。プリ様〜! 危ないですぅ。」
「だいじょうぶなの〜。」
怪獣は、自分の周りをウロチョロ飛び回るプリムラちゃんを不快に思い、なんとか叩き落とそうとしたが、素早く飛行する彼女に触れられなかった。
「くらえ なの。」
バリバリと怪獣の頭に当たるビーム。しかし、怪獣は当たった所を少し撫でただけだった。あまり効いてないようである。
それどころか、ビームを撃つために滞空していたプリムラちゃんに向かって、火球を吐いた。
プリムラちゃんは間一髪逃れたが、数撃ちゃ当たる方式で、ガンガン火球を吐き始めた。そのため、いくつか残っていた基地の施設も、次々と破壊されていった。
『まずいの。ちかに いく えれべーたーまで こわされちゃうの。』
もし、地下に生き残りがいたとしても、このままでは、そのまま生き埋めになってしまう。
「いいかげんに するの!」
怪獣が火球を吐こうと、口を大きく開けた瞬間、キャプテン・プリムラは、最大出力のビームをその中に向けて放った。
ビームは、未だ口内に残っていた火球と反応し、大爆発を起こした。さしもの大怪獣も頭を吹き飛ばされ、膝を折って崩れ落ちた。
「きゃあああ! プリ様、プリ様〜!! 強い、強〜いぃぃぃ。」
地上のスバル隊員は狂喜乱舞。降りて来たプリムラちゃんに熱烈な抱擁をした。
「さあ、ちかに いくの、すばるたいいん。ひとびとが たすけを まっているの。」
ニカッと笑うプリムラちゃん三歳。男伊達であった。幼女だけど。
『ああっ。格好良過ぎですぅ、プリ様ぁ。スバルは、もう、蕩けちゃいますぅ〜。』
エレベーターに向かって歩き出したプリムラちゃんの背中を、熱い眼差しで見詰める、スバル隊員であった。
と、その時、背後でブクブクという何かが泡立つ音がして、スバル隊員は振り返った。果たして其処には、頭部が泡の様に膨らんで、再生しようとしている怪獣の姿があった。
「プリ様、プリ様、プリ様〜! 怪獣が復活しようとしていますぅ〜。」
最早、パニック状態のスバル隊員。
「頭を吹っ飛ばしても蘇る怪獣なんて、どうやって倒したら良いんですかぁ。」
絶体絶命の四文字が、彼女の頭をよぎった。
「すばるたいいん、あきらめたら だめなの。うちゅう ぱとろーる たいいんは、どんな ときも きぼうを すてないの。」
スバル隊員を励ましつつ、プリムラちゃんは、サーベルを抜いた。
「プリ様……、この後に及んでサーベルなんて。私、プリ様と一緒なら、もう、ここで人生が終わっても……。」
二人は抱き合いながら、怪獣に踏み潰されるの。ああ、なんてロマンチック……。
スバル隊員が、ウットリと倒錯的な愛の結末を思い浮かべている間に、プリムラちゃんは、怪獣に向かって、突っ込んで行った。
「ひみつへいき『れとろうぃるす で ぽん』なの〜!」
プリムラちゃんが雄叫びを上げて、怪獣の足の指にサーベルを突き立てたのと、頭部が完全に修復されたのは、ほぼ同時だった。
怪獣は、サーベルで刺された痛みなど、歯牙にも掛けず、足元にいる小ちゃなプリムラちゃんを、一息で踏みにじってやろうと、凶悪な眼差しで彼女を睨んだ。
危ない! プリムラちゃん!!
あまりの残酷なシーンに、目を覆うスバル隊員。
しかし、怪獣は突然苦しみ出し、ひっくり返って、のたうち回った。
「何がどうなったんですかぁ?」
「さーべるの さきっちょ から『れとろうぃるす で ぽん』を注入したの。」
説明しよう。「レトロウイルスでポン」とは、レトロウイルスのRNAで、怪獣のDNAを逆転写させ、書き換えてしまう、恐るべき細菌兵器なのだ。
自分でも何を言っているのか良く理解していないので、決して詳しい突っ込みなどはしないで下さい。
怪獣は暫く悶絶していたが、やがて「ポン!」という音と共に、濛々たる煙を出して、弾け飛んでしまった。その煙の中から……。
「ウニャ〜。ニャニャニャ。」
背中に翼を生やした、真っ黒な仔猫が、パタパタと飛び出て来た。
「かわいくなったの!」
プリムラちゃんは、手を伸ばして、仔猫を招き寄せた。仔猫も大人しく、プリムラちゃんの腕の中に収まった。
「みて、みて、すばるたいいん。かわいいの。」
「い、いやいや。おかしいですよ。あんな全長三十メートルはあったデカブツが、こんな身長十三センチくらいの仔猫になっちゃうなんて。質量保存の法則は……。」
まくし立てるスバル隊員の唇に「みなまで いうな なの。」とばかりに、キャプテン・プリムラは指を立てた。
「みるの。かいじゅうの いた ばしょが、おはなばたけに なっているの。」
プリムラちゃんの指差す所は、一面お花だらけになっていた。
「虎は死して皮を残し、怪獣は死して仔猫とお花を残す、ですね。」
「そうなの。」
プリムラちゃんとスバル隊員、そして仔猫は、お花畑に駆けて行った。二人と一匹は、其処で「キャッキャ、ウフフ。」と戯れた。
いや、戯れている場合ではない。早く地下に行って、生き残りの人々を救うのだ、キャプテン・プリムラ。
続く!
スカパーの「キャ◯テン・ウ◯トラ」を見ていたら、突然スペースオペラを書きたくなって始めてしまった、衝動的連載「幼女スペースキャプテン プリムラちゃん」の二回目です。
相変わらず、浅い知識をネットで補強した、張りぼて考証で書いてます。でも、私、文系だし。そんな私に、ちゃんとした科学考証を求める方が間違いですよね?
ではまた、気が向いた時に続きを書きます。一週間後なのか、一ヶ月後なのか、はたまた、半年くらい放置されて、エタったかな、と思われた時にピョコンと更新するのか……。気長にお待ち下さい。