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ワクワクすること見つけました。

作者: 佐倉 真利

小さい頃

世界はキラキラと輝いているように見え、毎日が楽しかった。

背も低く、見える世界が少なかった僕は見えない世界に憧れた。

この塀の裏にはどんな風景が広がっているのだろう。怖いおじいさんの家?それとも優しいおばあちゃんがお茶飲んでる?もしかしたら猫たちの集会場所かもしれない。例えばこの棚の上には何が乗っているのだろう。お母さんの隠しているお菓子があるかもしれない。未だ使ったことのないおもちゃが置いてあるかも。

そんな些細なことを考えるだけで胸が踊った。ワクワクした。


しかし、幾日もの月日が流れ、自らの背が伸びてくると、ワクワクする日々は終わりを迎えた。塀よりも目線が高くなり、裏側が覗けるようになると、そこはただの空き家であることがわかったし、棚の上には普段掃除をしないから埃がたまっているだけ。小さい頃に想像したたくさんのワクワクは現実には存在しないものだと知った。


それは僕が世間の現実を知ったからかもしれない。テレビで眺めていた政治討論も内容がわかるとそんなに面白いものでもなく、大人たちのドロドロした腹の探り合いだとわかったし、周りの奴らと話しても一番盛り上がるのは、愚痴や自分たちの不安などだ。どこに遊びに行くにもお金がかかり、付いていけないのは振り落とされ、愚痴の対象となる。対象になりたくないから、無理をしてどんどん心に影を作って行く。それが人間だと、大人なのだと知ってしまった。確かに、大人になってからもドキドキすることやワクワクすることはある。しかし、子供の頃のような純粋にワクワクするなんてことはなくなってしまった。

このまま大学を出て、就職して、企業でも周りの目を気にしながら付いていけるかどうかの不安を抱えながら生きて行くのだろうと考える毎日。


そんな時だった。

大学からの帰り、バイトもなく、家で寛ごうなどと漠然と考えている時、ケータイがメールを受信した。

なんでも、父親の再婚相手との顔合わせの日にちが確定したらしい。

幼い頃母親が亡くなってからというもの、父親が男手一つで自分を育ててくれていた。数年前から、お付き合いしている女性がいることは知っていたし、反対もしていない。何より、大学生である自分はそこまで新しい親とも関わることがないだろうとも考えていた。

ようやく籍を入れるのかと思いながら、相手について父親が言っていたことを思い出した。

相手にもお子さんが居るらしく、自分よりも年下らしい。なんでも会社の関係で知り合った二人だが、父親が自分の育児体験を元にアドバイスをして言ったことから交流が始まったらしい。


指定された日時になり、メールに書かれた場所に向かうとすでに相手方は先についていたらしく、父親が笑顔で話して居るのが見えた。


父親と話しているのが新しい母親で……その子供は……

っと探すと、母親らしき人の裾を小さく握って居る女の子がいた。


(相手の子供ってこんな小さいのかよ……)


女の子はどう見ても中学生以上には見えず、勝手に自分と年が近いのだろうと考えていた俺は面食らってしまった。


「達也、来たな!お待たせしました。こちらが息子の達也です。」


「初めまして、幸恵と申します。この子は亜希。これからよろしくね達也さん」


「初めまして。これからよろしくお願いします。今、◯◯大学の2年生です。」


自己紹介が終わり、食事の流れになった。大人達の会話から仕事は双方続けていくつもりらしく、共働きという形になるらしいとわかった。

二人の話を聞きながらも食事を続けていると、緊張している様子の亜希が見えた。


「亜希ちゃんは何年生かな?」


「……4年生」


「そっか!これからよろしくね。いきなりで戸惑うかもしれないけど、何か困ったことがあったら俺に言ってね」


「…………」


亜希との初会話はお互い気を使う感じで終わった。


_______________________________________


幸恵と亜希が我が家に越してきて早1カ月。

俺と亜希との間に会話は存在してなかった。

もちろん、おはようやおやすみなどの挨拶はするが、必要以上の世間話などはなかった。

俺も、初めてできた兄妹に戸惑っていたというのもあった。

ただ、このままではいけないと感じ始め、こちらからいろいろ話題を振ることのした。


「亜希ちゃんは、何の科目が好きなの?」


夕食時、帰りの遅い両親を置いて二人でご飯を食べている時に亜希に問いかけた。正直、1カ月の間、二人いるにもかかわらず毎日静かな夕食は俺の体に応えたというのもある。


「……!算数」


「算数か!今どんな問題やってるの?」


「……分数のかけ算」


亜希も最初はびっくりしたような表情をしたが、こちらの問いにもしっかり答えてくれた。

それからというもの、俺は亜希に対して、今日1日あったことを話してもらうようになっていった。


「今日は何か楽しいことあった?」


「……給食の時間に健二君が牛乳をうどんの汁の中に落としてた」


「健二君災難だな……」




「今日は何か楽しいことあった?」


「……由美ちゃんの音読がお芝居みたいだった」


「由美ちゃん将来は声優さんかな」




「今日はなんかあった?」


「…久美ちゃんが箸壊した」


「橋壊した!?久美ちゃん力すごすぎるだろ……」



「今日は面白いことーー」


「今日は無かったよ。でもーー」




そんな会話を1ヶ月ずっと続けてきた時、俺は気づいた。

夕食の時の会話が毎日待ち遠しくなってることに。

もちろん、何もない日もあったが、それでもお互いの間で会話が成立してきていた。

亜希自身も、俺に対して緊張がなくなったのか、毎日笑顔で話してくれるようになったし、たまに自分から話してきてくれるようになった。

亜希と暮らすようになるまで、毎日を陰鬱とした気分で過ごしてきたが、いつのまにか笑顔で過ごす日々が増えてきた。

確かに、自分一人ではワクワクすることは見つからなかった。しかし、亜希からの話は面白い。未だあったことのないクラスメイトの顔を想像しながら、亜希の話したことを頭の中で想像すると面白い。

その様子を見ていた亜希のことを想像するのも楽しみだ。笑っているのだろうかか?それとも、大人しいから静かに見ているだけかな?


亜希のことを考えると楽しい。亜希のいろんな顔を見たい。そんなことを考えてたら、亜希と出会って半年以上が過ぎた。


「達也さん。実はね、亜希今週の日曜日が誕生日なのよ」


「そうなんですか!?じゃあケーキを用意しなくちゃですね。」


平日の朝。たまの休日をもらい家でゆっくりしていた幸恵と、講義が遅いため父や亜希よりも遅く起きた達也は二人で遅めの朝食を食べながら話をしていた。


「そうなの!達也さんが亜希と仲良くなってくれてよかったわ。それでなんだけどね、当日二人で遊びにいってくれないかな?私たちで部屋を飾り付けしてサプライズパーティをしたいのよ。亜希にとっても初めての家族全員揃ってのお誕生日だから心に残るものにしてあげたいのよ」


幸恵は、当初あった時は『できる女性』のような雰囲気を出していたが、暮らして行くうちにお茶目な部分があることがわかった。今回のもそういう性格から考えらされたものだろう。


「いいですね!ただ、今回は遠慮させていただきます。亜希ちゃんとは、お母さんが行ってください。たまの二人で出かける機会ですし、僕たちが家で待ってたほうがサプライズになるでしょう?」


「あら!……確かにそっちの方がサプライズかも!!でも、お料理とかどうしましょう……」


「料理なら僕に任してください。僕も父がいなくて一人の時が多かったのである程度作れますし、ケーキもなんなら作りますよ!」


「あら、そうなの。じゃあお願いしちゃおうかしら」


「任してください。亜希ちゃんの好きな食べ物を中心に作りますね。確か、煮込みハンバーグとカレーと天ぷらですよね?」


「あらあらあら!そんなことまで二人で話してたの?」


「えぇ。お母さんの好きな食べ物も聞いてますよ。カレーとふきのとうの天ぷらですよね。嫌いなものは確か、ピーマンでしたっけ?」


「亜希ったら思ってた以上に話しているのね。そんな仲良くなってるなんて思わなかったわ。達也さんがいいお兄ちゃんでよかったわ」


「いえいえ。俺もお母さんや亜希ちゃんのような家族ができてよかったですよ。では当日は任してください!ケーキはチョコですよね」


二人で当日の流れを確認していく。当日に渡すプレゼントなどは何にしようか?どんな顔になるかな?想像するだけでワクワクする。


そして当日、朝早くから二人は出かけて行った。亜希には男たちはそれぞれ予定があるため一緒に行けないとあらかじめ伝えてある。二人が出かけた後から、俺と父はお互いが指示を出しあいながら作業を進めて行く。父も、可愛い娘のためということもあり張り切っているのがわかる。


帰宅予定の時間にあわせて、料理を並べ終わった頃、父のケータイに連絡が来た。


「後5分くらいだってさ!」


「ほーい……」


二人でクラッカーを持ち、電気を消した玄関前で準備。

手をつなぎながら楽しげに幸恵と話す亜希の姿が小窓から見えて来た。

幸恵が、鍵を渡し開けるように頼んでいるのがわかる。


さぁ早く開けてくれ。このクラッカーを鳴らした時、亜希はどんな顔をするだろうか。驚いた顔?もしかした悲鳴をあげちゃったり?その後笑顔になったらいいなぁ


ドアが開かれーーーーー









この後のことは、想像で(笑)

以下簡単な各キャラのプロフィールになります。ちょっとした設定ですがよろしければご確認ください。



達也(主人公)

大学生。昔から想像力は豊かな方であり、小さい頃は、わからないことを想像することで自己完結させてきた。例えば、国会中継を戦隊ヒーローを影で操る組織と勘違いしていたり、陽炎はもう一つの世界が写っているなど想像して楽しんでいた。しかし、歳を重ねるにつれて本当のことを知ってしまい、何もかもがつまらないと思うようになっていった。

亜希と話すようになってからは、亜希を中心に考える生活を送っている。そこに恋愛感情はないが、想像させてくれる亜希に対して、世界に色を取り戻してくれた子として、多大な感謝の念を持っている。


一言で彼を表すなら、妄想バカ



亜希

小学生。人見知りの女の子。慣れるまでに時間がかかるが、慣れると本来の明るい性格をだす。達也の事は、はじめどのように接すればいいか分からなかったが、現在ではなんでも話せるお兄ちゃん。家の中で二人でいることが多いため、最近では一番話す間柄になっている。最近の悩み事は、達也と遊びに行きたいけど誘うのが恥ずかしくてどうしようということ。


この娘、慣れると甘えん坊です。




幸恵

亜希の母。とてもクールなキャリアウーマンといった容姿だが、実際は、サプライズ大好き、お笑い大好き、冗談大好き、と色々な面を持っている。常に亜希のことを考えており、達也の父とであったのも亜希に対する育児の悩みを社内にいるという同じ境遇である父に聞きにいったことから。

勿論父のことも愛しているし、達也のことも好き。達也をさん付けで呼ぶが息子と思っていないわけではない。むしろ、会社では、亜希の自慢に加え、最近では達也の自慢も加わった。その時は密かに「ウチの息子の達也が……」と話している。


ただの親バカです。うん。




達也の父。達也を大学生になるまで何不自由させることなく育て上げた人。正直、最近の達也に対していつまで厨二病拗らせているのかと心配になっていた。新しくできた娘である亜希に対しては可愛すぎて、どう接するか未だに決めかねている。話す事は少ないが、亜希のために一眼レフを購入してたり、幸恵を経由して自らが買った洋服などをプレゼントしている。


父、尊敬したいけどなぜかできない残念系




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