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Ⅵ 一年という年月

 週末、悠真は地元にある市民体育館に向かった。

 ここで高校生のバスケットボールの大会が行われている。この大会に母校のバスケットボール部も出場している。このことは後輩に確認を済みだ。

 川端は顧問だから、必ずこの会場に来ているはずだ。多少忙しくとも、一言二言話をするくらいなら可能だろう。


 母校であるとはいえ、部外者扱いを受ける高校へは行きづらい。それに比べて、大会の会場は出入りが自由なので、気兼ねなくいくことができるのだ。


「先生」


 会場に入るなり、入り口付近に立つ川端の姿を見つけた。

 川端は驚いた表情を見せると、「後でな」と手で合図をして競技場の中へ入っていった。

 これから試合が始まるのだろう。悠真は急いで二階にある観戦用の席へ向かった。




 試合は僅差で後輩たちのチームが敗れた。

 競技場の入り口まで降りると、選手たちが出てくるのを待った。


「おつかれ」

「あ、センパイ」


 一人が声を上げると、全員が悠真を見た。中には見知らぬ顔も多く、卒業してから一年も経たないというのにひどく時間が過ぎたように感じた。

 試合に敗れたことを気にしているのか、後輩たちは苦い顔をしていた。


「バタセンは?」

「まだ中っす」

「さんきゅ。練習がんばれよ」


 同じチームで活動していたのは半年に満たない期間だったが、かわいい後輩であることに変わりはなかった。

 後輩たちを見送ると、悠真は柱にもたれかかって川端が変わられるのを待った。

 川端は市内の他の学校の監督たちと談笑しながら現れた。


「先生」


 川端を呼び止めると、川端は「ああ」と声を漏らした。


「そうだったな。悪い」


 悪びれもせず、監督たちの輪から抜け出した川端が歩み寄る。ただの雑談だったらしく、他の学校の監督たちはすんなりと川端を見送った。


「それではまた」


 川端は他校の監督たちに頭を下げ、悠真と並んで歩き出した。


「何の用だ、こんなとこまで来て」

「『リィ』さんという女性を探しています」


 悠真の言葉に、川端の眉がピクリと動いた。


「先生の妹さんですか?」

「俺の妹は佳乃よしのだぞ」


 川端はぎこちなく答えた。目は泳ぎ、手が耳たぶに触れた。川端は隠し事をしている時に必ずこの仕草をする。

 悠真は、わかりやすい先生が顧問でよかった、と心の中で呟いた。


「じゃあ誰なんですか。千穂さんは、先生と会った日の日記に『リィの話が聞けなかった』と書いてたんです。先生なら『リィ』さんが誰かわかりますね?」


 悠真に詰め寄られ、川端は一瞬ためらってから口を開いた。


「知ってたら何だって言うんだ」

「会います。会って話が聞きたいんです」


 ――怒られるだろうか。


 とんでもない話を切り出したことを考え、悠真は川端の表情をうかがった。

 川端は少し悩んだ後、どこかへ電話をかけ始めた。

 しばし問答をしていたようだが、「ああ。頼む」と言って電話を切ったところを見るに交渉成立のようだ。


「明日、三時に駅前の喫茶店だと。行けるな?」

「行けるも何も、行くしか選択肢がないじゃないですか」


 苦笑しながらうなずくと、悠真は礼を言って会場を後にした。

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