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大根

作者: コウマ

 親戚から立派な大根が届いた。

 白と薄緑で彩られた、まるで立春を思わせる容姿。

 手に持てばズッシリと重く、叩けばまるで打楽器の様に張りのある音が鳴る。


 煮つけにしようか霙鍋にしようか悩んだ末、一回誰かを殴ってみることにした。

 凍ったバナナで釘が打てる世の中だし、人の頭ぐらいは何とかなると思う。


 懐に大根一本忍ばして、咥え煙草の迷惑オヤジの後を付ける。


 平和ボケした世の中、こんな恐ろしい物を持っている奴がいるなんて想像できるだろうか?

 多分出来る。大根だし。


 人気のない場所にやってきて、思いっきり振りかぶる。大根を。


 振り下ろしたそれは吸い込まれるように、オヤジのオゾンホールに大激突!

 膝から崩れ落ち、頭頂部抱えて呻きだした。


 良しいける!

 あと3,4発叩き込めばいける!

 事が終わればこの凶器を腹に収めて、翌日便器と言う忘却の彼方へ流せばいける!

 胸にこみ上げる、真夏の様にギラギラした何か。

 

 それを確信すると、大根を握る手に力が入った。

 不思議と手に持つ大根が軽く感じる。


「なん……だと!?」


 それもそのはず。

 だって大根がバックリ割れてるんだもの。物理的に重量が半分以下になっていた。


 やがてのっそりと、禿げた頭に白く輝く大根片をのせたオヤジが起き上がる。


 程無くして右頬にゴツゴツした拳がめり込む。

 その一撃で口の中を切り思わず吐き出した紅い紅い血液はまるで、立秋を思わせる。


 遠のく意識の中、顔やケツに靴底がめり込む感覚。

 目が覚めるとね、もう頭からつま先まで痛い痛い。

 特に後頭部が痛い。関節が動かせない程に痛い。わき腹がズキズキと痛い。


 今日得た教訓が二つ。

 人の頭は大根より堅い。

 食べ物を粗末にすると、必ず痛い目を見る。


 なんか身体が真冬を過ごしているように、冷たくなっていく気がした。

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