Special episode.Ⅳ
(牙月side)
牙月。それが俺の名。主は旭ヶ原桃千。
前世。俺は山風優輝。あいつは宮野真琴。
つまり…俺と桃千は、前からの幼馴染みだったってことだ。
初対面の筈なのに、桃千とはどこかで会った気がしていたが…
ハッキリと思いだしたのは、あの日の事だ。
―10年前―
いつものように、桃千と蓮花を傍で見ていた。
ただ、何故か俺の事をやたらと一緒に遊んでと蓮花が誘うから渋々付き合っていた。
桃千「ごめんよ牙月。蓮花が…」
牙月「気にするな。…この年の子供は遊び盛りなんだろ」
桃千「…そうだね」
ボールを蹴って遊んでいると、ボールが木の枝に引っかかってしまった。
──とりゃー!あ。
──あー、木に引っかかっちゃったか。
──とってくるー!
──お、おい…
…どこかで似たような光景を見た気がする。
蓮花「わたちとってくゆー!」
桃千「あ、蓮花…」
牙月「…桃千。何か嫌な予感がする」
桃千「…やっぱり?」
顔を上げると、蓮花が既に木に登ってボールに手を伸ばしている。
…嫌な予感がする。
そう思った瞬間、蓮花は足を滑らせた。
牙月「蓮花!」
俺は蓮花の落下する位置まで来て、咄嗟に飛び上がって蓮花を抱えた。
…が。
──麻奈美!!…うわあ!!
──優輝!
──う…おにいちゃん?…?
──っぐ…うぅ…
──優輝…?…優輝!?
とんでもないことを、こんなタイミングで思い出してしまった。
俺は、前世。真琴という幼馴染みと一緒に麻奈美っていう妹と遊んでいた。
ある日、木から転落した麻奈美を守ると引き換えに、両足の自由を失った。
そして…今、同じことが起ころうとしている。
…なら、俺はまた──
桃千「──牙月!『今の君は』狼だろ!!」
桃千の声でハッとした。
そうだ。俺は、人間じゃない。
もう、『あの時と同じことを繰り返さない』。
牙月「いってー」
桃千「ヒヤヒヤしたよ!」
牙月「悪いって…」
俺は軽く足を捻挫した程度で済んだ。
我ながら丈夫だなと思う。
桃千「まったく…」
牙月「…あのさ、ひとついいか?」
桃千「何?」
牙月「…また会えたな…」
桃千「…そうだね…」