Episode.16 鬼蓮
(夕陽視点)
「いつまで頭を下げてるんだい。女子少年」
ヒカルが再度俺達に頭を下げた時、入り口から声が聞こえてきた。
黒いチャイナドレス。
赤いストール。
紫色の扇子。
銀色の長髪を、よく見るとベルトで髪をまとめている。
…教師?いや違う…
暁美「……に、兄ちゃん」
小声で俺を呼ぶ暁美。
…?
暁美「……あの人、…全然生気を感じない…」
夕陽「…何だって?」
……確かに、感じない…。…幽霊みたいな者か?
ヒカル「え、えっと…?」
「……連中への用は済んだのかい?」
ヒカル「えっ…」
「れ、連中って…」
…今のはラトナか。
「まったく、ここの連中はお人好しだ。ちゃんと謝ればコイツらは許す。
そうだろ、紅玉リーダーちゃん」
ルル「……え?私?あー…うん、まぁ…」
「ほら、さっさと行きな」
ヒカル「ちょ、ちょっと」
「…アンタが行きたいのはあのカメラ兄ちゃんの傍。やることやったならさっさと行きな」
ヒカル「え…は、はい」
ヒカルの背を押し、部屋の外へ出した。
…ヒカルは、ジャーナリのことを心配していたのか。
ルル「…あのー、ところでアナタはいったい…?」
「…アタシかい?」
一度背を向けていた女性は再び俺達の方を向く。
…いつのまにか煙草を口にくわえてる。
「…火怒炎虎、名は鬼蓮。
主の影を映す、火炎の虎の鬼の蓮さ」
カドエンドラ…キレン?
聞いたことない…
鬼蓮「…ふぅん、どうやら俺が何者か分かってないらしいな。
特に…分からなくて驚いてるね、『坊や』」
夕陽「……坊や?」
……?
…いや、まさか…
夕陽「……お前、まさか……月火か?」
ルル「へ?」
鬼蓮「……正解、だが半分不正解」
ルル「えっ?……えぇ!?」
ラトナ「どっ…どういうことだよ!?」
リュー「……なるほど」
夕陽「…」
ラトナ「…理解してるのが二人だけなんだが」
ブレイズ「…なんか、負けた気がするんだけど…」
リュー「…年の功。かな」
ラトナ「…って年変わんねえじゃねえか!!」
リュー「あはは。…肉体としては、ね」
ラトナ「…え?」
ブレイズ「…リューがこういうこと言うと、納得できるのは何故なんだろう…」
鬼蓮「戯け。…黙らぬか」※扇子ごし般若面(目から上のみ)
三人「「はいすいませんでした(即答)」」
暁美「あ、二回目だ」
…やはり、月火なのか。
…と、その前に…
夕陽「…あの」
鬼蓮「なんだい」
夕陽「……喫煙はちょっと…」
ルル「あ、それ気になった」
鬼蓮「…安心しな坊や。これ、菓子だから。
一応は未成年だし、第一あんな煙くて体に悪いのなんか吸えるか」
夕陽「…はあ」
鬼蓮「…一応言っておくけど、敬語なんていらないから。
こんな青年の姿でも、年はお前さんらと変わらない。いや、ほぼ同じか」
ルル「…わけがわからないよー」
ヒナ「ルル、それアウト」
…鬼蓮は月火の席に腰か…ん?
……え?…そ、そこは…
夕陽「…あの、そこ俺の席…」
鬼蓮「知ってる」
夕陽「…え?」
…気を取り直して、鬼蓮は俺の席に腰かけると、俺達にある話をし始めた。
鬼蓮「…いきなりだけどある話をしよう。
あたしとあの子の関係、あの子の知らない物語。…というより、全部忘れた、か。
聞く覚悟があってもなくても、勝手に話させてもらうよ。
所詮はただの…忘れ去られた物語を語るだけさ」