Episode.14 「己の愚かさを思い知れ、戯け者ども」
「戯けが。愚か者どもが。…調子に乗りやがって」
その声とともに、出てきたのは…
「ルル!夕陽!」
ルル「…皆!」
ラトナ「…!?おいなんだよあれ…」
夕陽「…月火」
月火蓮花。彼女で間違いない。
…だが…
赤茶だった髪は黒く染まり…毛先が赤い。
髪をまとめていた筈の髪止めとサンパイザーがなくなっていて、前髪が左目を覆うように垂れている。眼に関しては…元々赤いんだが、鮮血のような赤へと変わっている。
…まるで、別人のようだった。
「…やってくれたな。嬢ちゃん」
夕陽「!」
いつの間にか、俺とルルの背後に奴…ジャーナリがいた。
…掠り傷?
蓮花「戯けが。…本気で俺を怒らせた恐ろしさ、理解できぬとは。
まったく哀れなものだ」
(ラトナ:…中二病?)
(ブレイズ:…違うだろ)
(リュー:うーん俺的に君のほ…)
(ラトナ:あ゛?)
(リュー:あはは怖い怖い)
蓮花「戯け。黙らぬか民衆」
三人「「はいすいませんでした(即答)」」
…もはや別人だ。
…眼力が凄い。下手すればこっちにも怒りの矛先が…
蓮花「…坊や。安心しな、俺は基本的に目的の奴以外に手は出さない」
夕陽「……坊や?」
…なんだこの睨み合い。
…ん?
「はいはい。どいたどいた」
…この声は…
ルル「あ、夜咲先生だ」
ネート「ホントだー」
夜咲「…まったく、世話が焼けるねぇ。君は」
蓮花「…フン」
夜咲「ま、さっき理事長から許可はもらったよ」
夕陽「…許可?」
夜咲「ふふん…武道場の使用許可♪」
「「…え?」」
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──武道場。
そこは普段、授業ぐらいでしか使わない場所だ。
…まあ、使用許可と最低でも一人教師いれば生徒でも自由に使える。
夕陽「…旭ヶ原先生。いったい何がしたいんですか?」
夜咲「…なんだろうね?」
…正直、この人は苦手だ。
何考えてるか全く分からない。リューも同じだ。
…あの飄々とした態度がどうも…
夜咲「はいはい夕陽君、俺へのコメントはいいからナレーションしてー」
夕陽「ナレーションとか言うのやめてください。あと勝手に読心しないでください」
…クッソ…ホント何なんだこの人は…。
…というか、さっきから月火のくわえてるのって…煙草に見えるんだが…
夜咲「武道場内での飲食は禁止だよー」
蓮花「…チッ」
夕陽「…あれ煙草じゃないんですか」
夜咲「ん?アレ?アレねー、煙草に似たラムネ菓子。一応魔力の補充品かな」
夕陽「…そうですか」
ジャーナリ「…で、こんなところに移動させてたのは何ですか?」
夜咲「うん。二人とも喧嘩しそうだったから」
ジャーナリ「……は?」
なんだその理由は…
夜咲「えっと…規則上、外か武道場のどちらかで、教師が最低でも一人ついていればバトルは可能。
…っていうのがあるんだけど。…あれ?皆知らなかった?」
知らないから。そもそもここの規則はどこにあるんだ。
ジャナーリ「…そういうことらしいな」
蓮花「…面倒だ。さっさと終わらせた方が身の為か」
ジャーナリはまだ左手にカメラを持っている。
…あの中に、ルルの弱みを握られた写真があるのか…
……対する蓮花は。…って…
「…おい、どういうことだよ?」
「ジャーナリに背を向けてるぞ」
「しかも目を布で覆ってるわ」
夕陽「…どういうことだ?」
夜咲「あらら……」
ジャーナリ「…どんなマネだ、嬢ちゃん」
蓮花「…これは“蓮花”の『修行』だ。まあ、俺自身どうでもいいがな」
…月火の修行?…俺自身どうでもいい?
…どういう意味なんだ。
夜咲「…」
夕陽「…?」
…旭ヶ原先生の目が変わった?
蓮花「…さ、かかってこい。俺はこの状態だからいつでもいいぞ」
…これがもし、俺がコイツをあいていていたら徴発されてるとしか思えない。
現に、ジャーナリは…
ジャーナリ「──!」
…え?
蓮花「…刹那狩」
夜咲「はい、そこまでー」
…いったい何が起きたんだ…?
ルル「…?」
リュー「…カメラ、どこいったんだろうね」
夕陽「…カメラ?」
…そういえば、ないな…?
暁美「兄ちゃん兄ちゃん、さっき映像撮ってみたんだけどさー」
夕陽「…撮ったのかよ。それで、どうだったんだ」
暁美「はいこれ」
暁美の撮った映像をスロー再生して見てみると…
月火は…何かを四方八方に飛ばすと同時に物凄いスピードでジャーナリの前まで移動し、ジャーナリが手に持っていたカメラを蹴りあげた。そこで元の位置に戻って回し蹴りをして風を起こし、ジャーナリを壁まで吹き飛ばした。
…肝心のカメラは映像に映っていないが…
「えっとー?これどうすれば見れる?」
「あー、これはですねー…」
…なんとなく、予想はできた。
リュー「…という感じで操作すれば、ほら」
夜咲「…これはちょっと見逃せないかなー」
ルル「なんで夜咲先生がカメラを持ってるんですか?」
ネート「夜咲先生は機械操作とか苦手なんだねー」
夕陽「…(そういう問題じゃないと思うぞ)」
…ん?
何かが落ちている…カード?…俺の足元にも一枚あるな。
夕陽「…そういうことか」
あの蹴りあげたときにカメラは、旭ヶ原先生の手元に飛んでいた。
…つまり、月火は…
夕陽「……計算済みだった、ということか」
蓮花「…己の愚かさを思い知れ。戯け者が」
ジャーナリにそういったかと思えば、目隠しを外し月火は俺達の方を向いた。
そして…
蓮花「…民衆も民衆だ。他人の弱み付け込んで、罵る。皆がやっているから自分も…ってな。
──ふざけんじゃねえよ有象無象どもが!!それでいいと思ってるのか!!
こんな写真ばらまいたコイツが悪いだが、お前らの方がよっぽどタチが悪いんだよ!!
テメーらはそんなこともわからねぇガキか!!
アイツらがどんだけ苦しんだのかわかってんのか!!自分の身になって考えてみろ!!
そんな簡単なこともわからねぇのかよ!!あぁ!?」
…月火…。
『そこまでにしときなさい。蓮花』
蓮花「!…うっ…」
突然、月火の影から“影”が飛び出した。
そして、月火の頭を軽く叩いたかと思うと…月火が倒れた。
ルル「…レンゲちゃん!!」
夕陽「月火!!」
俺達が駆け寄ると“影”が月火の影に戻った。
どうやら眠っている…姿もいつもの月火に戻っている。
…ん?何か握っている…
夕陽「…これは…?」
…黒紫の石…?
夜咲「んー、夕陽君ー。どうかし……!?」
その石を見た途端、旭ヶ原先生の顔が変わった。
…どうやら危険な物らしい。
夕陽「…渡しておいた方がいいですか?」
夜咲「…その方がいい。あと、カーラ君と月火ちゃん。太陰君も…いや、おそらくチーム・PJ全員気絶しているだろうから、医務室に運んでしばらく安静にさせておいてくれる?
…おそらくこの石がついてる可能性もあるだろうしね。見つけた場合は俺達教師に渡すように」
夕陽「…えっ?」
夜咲「…俺は、コレについて調べないといけないことになる。
…頼むよ」
夜「あ、彼は私が…」
「…蓮花ちゃんは、私が運ぶ」
ルル「…えっと…どなた?」
「…人間バージョンの旭だよ?」
ルル「えっ」
…俺たちは、ルームDにいるはずの彼らを運ぶとするか。
…それにしても、あの石は一体……過去に、どこかで見た気がする…
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(?side)
「…フゥ、世話が焼ける。レンゲといいフレアガーディアンズといい…
暴走そうしていたとはいえ一度に全員を正気に戻すとは…I was really surprised」
…おっと、いけないいけない。
ついクセが。
「…さて。力を使って気配を消しているとはいえ、そろそろ去らないと。エレメントは案外勘が鋭い子もいるみたいだし」
本当、姿といい性格といい…レット、あの子とそっくりだ。
…なーんてね。
「僕は『エオル』として、レンゲをサポートする。…あの子と、会わせるまで」