†Offstage story†
「…あいったたたた…」
「…」
「こんなところにあるんですかねー」
「さっさと進めるぞ。…長居は、無用だから」
黄昏の城・書庫。
本来、この場所に入るのは城の主であるブラッドぐらいなのだが…。
ヘッドセットを頭に付けている少女、眼鏡をかけ本をもった少女、人形のようなもの、その人形をもった少女。
少女が四人、書庫にいた。
「ふーい、【作者人形】の人手不足とは言え…普段からこういう仕事に慣れてる【事後処理】と【サポート】はともかく、【語り部】と【記録】にはどうしても慣れませんよねー。こういう作業はホント。でしょーキロクちゃーん」
「誰がキロクちゃんですか。私は[Ⅰ-109]、貴方は[Ⅱ-109]という番号しかありません。現時点で名があるのは我々の上に位置するⅢの中でも、[Ⅲ-056]アイミィと[Ⅲ-086]マイのみです」
「さびしいこと言わないでよーぉです…リベちゃんショックーです」
ヘッドセットの少女は自らをリベと呼び、眼鏡の少女をキロクと呼ぶ。そして二人を役職で呼ぶ。
眼鏡の少女は、逆に彼女らをを識別番号で呼ぶ。
【語り部】「むむむ…こうも本が沢山あると、ついついナレーションしたくなるというのが職業病なのかです…」
アイミィ「しかたないよでーす。そういうインプットをされているからです」
【語り部】「あ、そう思う?です」
【記録】「口を動かさず手を動かしなさい」
二人「「ふーい」」
マイ「……」
アイミィ「…マイちゃん、大丈夫?です」
マイ「…ああ」
【語り部】「ふーん。『心』っていうのは、面倒なものですねー。ま、【悪事処理】が[機能停止]してからは【事後処理】がその役を担いでるようなもんですからねー。あ、【ロスト】とか面倒なことしないで下さいよー」
マイ「わかっているさ。…俺が、兄貴の役をやってるのは…ただの俺の、気分だ」
アイミィ「マイちゃん…」
【記録】「[_-___]…旧[Ⅲ-096]クロウのことですか。貴方が彼をどう慕うか勝手ですが、私達【作者人形】には兄弟なんてありもしないので。その点は踏まえてください。
それと、[Ⅲ-056]、[Ⅲ-086]。貴方方は、仕事がありましたね」
マイ「……作者。俺らの主から直々の仕事がな」
アイミィ「昔、作者様が【作者人形】ではなく、この空間で生きる生物でありながら、『こちら側』に近い存在を生み出した。それらの…生存のサポート。です。
そしてもう一つは…今現在進行中の、魔道書【ナイトメア】の回収。です」
【記録】「前者の方は完全とは言えませんけれど、報告書をあとで提出してください。『破壊の火炎姫』と、『血月の火炎姫』。双方の過程を一つも漏らすことなく」
アイミィ「はーい…です」
【語り部】「…あ」
ヘッドセットの少女が、声を発した。
何かを見つけたらしい声。
【語り部】「あったです」
彼女の手には、真っ黒な本。魔道書【ナイトメア】があった。
【記録】「…魔道書【ナイトメア】。世界によってその呼び方は様々…。世界によってはその名を出すだけで呪われるなんてところもあるらしいですし。
とはいえ…そこの世界であろうと、共通点は全て『本に触れた為に闇に感染』…『心』があるから、闇に感染する。なら、逆に『心』を持たない私達ならば正常なまま、本を回収すことが可能」
【語り部】「えーっと確か。
針鼠一族のどこだったけなぁ…です。まぁんでその後…影の王、黄昏ノ魔女、月の魔女に星の魔女。そして、科学者、黒龍。妖狐、狼一族の亡霊少女…そして、今回。吸血鬼の少年」
マイ「…一人、忘れないでよ」
アイミィ「クロウもです。クロウも、少なからず…被害者なのです」
【記録】「そうですか。
…さて、それでは【そちら側】に戻りましょう。これは、彼女を止めるのに必要なので」
回収した本を持って、彼女達は一瞬でその場から消えた。まるで、最初からそこに誰もいなかったかのように。
数分くらいして、書庫の扉が開かれた。ブラットとブラックだ。
ブラッド「…あれ?」
ブラック「ん?どーした」
ブラッド「…あの本がなくなってる」
ブラック「は?…んなわけあ……った…?」
二人は困惑したまま、ただ、あの発端となった魔道書があった筈の場所を見ていた。