続・転生魔王の憂鬱
生きとし生ける全て者どもよ、我に従うがいい。絶対無比なる力を持つ我に敵う者など、最早、存在しない。矮小な貴様らの心次第で、絶対王者として全てを破壊することも、神の慈悲を与えることも出来るだろう
『第265代ヴィルヘルム陛下による偉大なる名言集』より
うわぁ~~~っっっ。しょっぱなから恥ずかしい!穴があったら入りたい!!こんな名言集を勝手に出版されて、今日も絶賛憂鬱中の俺だよ。冷酷残虐すべての悪の象徴の、魔王様だよ。この名言集は、この間来た勇者一行を倒した記念として出版されたんだとさっ。俺の許可を取らずに無断でね!!俺はこんな恥ずかしいことを言ってたのかーーーー?!と生きていくのが辛くなるくらい恥ずかしかったので、1年くらい部屋に篭ったよ。1年は魔族にとって、そんなに長い時じゃない。人間の感覚で言うところの、一週間くらいかな?まぁ、何でかイルーシュカが俺が籠ったことに半狂乱になって、任せていた政務が処理されなくなって、魔界が大混乱したことはいい思い出かな♪
暗黒名言集といえば、勇者!そう、俺はなんと勇者一行を退けたんだよ!俺様すごい、さすがチート魔王!!って言いたいんだけど、実は俺の手柄じゃない。っていうか、俺はほぼ何もしないで全てが終わった。…町に被害を出したくなかった俺は、勇者が来る前からいろいろ準備していた。なんせ、前魔王の時は魔界が破壊しつくされたからね。だから勇者が魔界に一歩足を踏み出したあたりに、勇者にしか反応しない転移魔法陣を張って、直俺の所に来るようにしたわけ。勇者とその一行のレベル上げなんてさせないんだからね!!というのもあった。俺の可愛い魔族や魔獣の犠牲を極力出したくなかった。だって、勇者の目的は魔王だろ?死ぬのは俺だけでいい。
いきなりラスボスが目の前に現れたらびっくりするよね。俺だったら完全に気絶するね、絶対チキン野郎でスマソ。自分たちがいざ魔界へ!と意気込んだところで俺が現れたものだから、勇者一行はかなり動揺していたみだいだけど、さすが勇者。じっ、と俺を凝視したあとおもむろにズボンのポケットから紙を取り出し、読み上げた。しかも棒読みで。
「えー、生きとし生けるものを恐怖に突き落とす魔王め。世界を己がものにせんとして、破壊の限りを尽くそうとしているのを見逃すわけにはいかない。この、異世界から召喚されし伝説の勇者であるイチロー様がお前を成敗する………って誰だよこんな恥ずかしいセリフ考えたの。いまどき成敗!って。ないわ~」
どうやら勇者はやる気がないらしい。俺ラッキー♪召喚された、って聞いたから絶対チート勇者じゃん、俺死亡決定じゃん?!と思ってたけど、もしかしなくても生き残れるかも!
「俺勝手に召喚されて強制的に魔王討伐に連れ出されただけって言うか~、魔王殺さないと元の世界に戻さないし、今この場で殺す、って脅されたし~、ぶっちゃけやる気ないんだよね。魔王を殺した暁には、王女を嫁にくれてやろう、って言ってたけどブサイクじゃん。正直イラネー。それに俺、血とか無理だし。グロいし、キモい。」
「なっ?!勇者殿!?」
「おのれ魔王!!勇者様に、何をした!!」
え~、勝手に仲間割れが始まったと思ったら、なんか俺のせいにされた。いや、俺のせいと言えなくもないけどさー。
「俺、魔王に一目ぼれ。赤い糸と糸が繋がったって感じ♪勇者と魔王って、設定から絶対惹かれ合う運命じゃん。そーゆーことで、お前らは帰っていいよ。俺ここで末永く幸せに暮らすよ、魔王を嫁にもらって。」
なんか勇者が勝手に怖いこと言いだした!止めてくれるはずの勇者の一味は呆然として役に立たないし、イルーシュカと四帝は勇者をタコ殴りにしてるし。チートの勇者は、殴られても蚊に刺されたくらいにしか感じないようで、はあはあ言いながら俺に迫ってくる。ひーっ、なんか変態が来る!痴漢される女性の気持ちがよくわかるー!!勇者男で、俺も男じゃん!っと、殺されるのとは別の恐怖を感じた俺は、勇者とその仲間たちを、永劫の迷宮送りにしてやった。
永劫の迷宮、っていうのはその名の通り果てしない迷宮。でも危険な魔獣とか、魔族とは別にいるわけじゃない。お腹空いた、と思えば食事は出てくるし、水が飲みたければ飲めるし、と至れり尽くせりな場所なのだ。心に邪な思いがなければ、出てこれるだろう。魔王殺す!!な、ある意味純粋な人間たちは出てこれるだろうけど、変態勇者はどうかな?っていうか、一生出てくるな!
そんな俺は今、優雅に空の散歩を満喫中。いろいろなことがあって(変態勇者とか変態勇者とか名言集とか)、憂鬱な俺を見るに見かねて散歩でもしてきてください、と魔城から出されてしまった。また引きこもりにでもなられたら大変だと思っているらしい。俺は車(大型の漆黒色ドラゴン。名はヘル)に跨って、人間たちを恐怖に陥れている。なんとヘルに人間の城に突っ込んでもらって、お姫様を誘拐してきちゃいましたーーーー!!やっと、やっと、魔王らしいことが出来ました!!魔王と言ったらやっぱりお姫様を誘拐だよね♪
「お前たちがこの娘をいらぬのならば、我が貰おう。命が惜しくないものは、我が城まで取り返しにくればいい。ただし、お前たちの勇者はもういないがな!!」
素敵な捨て台詞まで言い残しちゃった♪やっぱり魔王はこうでなきゃな!言い訳させてもらうと、空の散歩を満喫していた俺は久しぶりに人間たちの暮らしを見たくなったので、人間界の中でも二番目に大きいワレーヌという国に来ていた。城の周りの人間たちを見ていた時、身内で殺し合いなのか?している奴らが目に入ったのでピンチに陥っていたお姫様を助けた、ってわけ。
それにしても、魔王人生初の女だーーーっ!長かった…この300年長かった……。勇者にいつ、殺させるか怯えて過ごしたけど、これって俺へのご褒美と考えてok!?いいよね、魔王だし?お姫様、手籠にしちゃってもいいよね?男性向けの同人18禁未満お断り、みたいなことしちゃってもいいよね!??
…でもさっきから、な~んか変なんだよね。お姫様、超静かだし。普通騒がない?だからと言って、気絶してないみたいだし。それに、お姫様めっちゃ背が高い。俺185以上あるけど、ほぼ目線一緒。それに抱き込んでる体、硬いし。それに、人間にしては何か複雑な力のを感じる。人間にも魔力はあって、力をかりる神によって、その名称は変わる。例えば、神族だと神力、とか。このお姫様から、神力と微かに精霊の力が混ざり合った気配を感じる。………あ、なんかやな予感。
結果から言いますと、男の娘でした。なんでも、複雑な事情から女として育てられ、複雑な事情から殺されかかっていたらしい。超キレイだったから、てっきり女だと…思って………。期待を裏切られた俺の気持ちはどん底だよ。憂鬱どころの話じゃないよ。そんな時に限って面倒なことが起こる。なんと、勇者を除く全員が迷宮から出てきたのだ。すっげぇ早っ!もう何もかも面倒になった俺は、お姫様改め、王子様と勇者一行を放置しました。俺は、女と魔界にしか興味はない!だって、帰れ!とやつらに言っても、帰ってくれなかったのだ。なんでも、貴様をこの世から消すまで帰らん!とか、帰ったら殺されるからここにいる、とか。勇者は?と聞くと、あいつは変態だから諦めた、とのこと。そっとしておこう。
奴らを真名で縛って、魔界で破壊行動が出来ないように制約を施し、俺の魔力でマーキングして俺のモノだ、と印をつけた。これで奴らは魔界の奴らからも殺されることはないだろう。俺のモノに手を出すバカはいなのだ。
それから俺は初恋が終わった(お姫様に対してゲスなこと考えてたけど、やっぱりあれは初恋だった!めっちゃキレイで可憐だったんだもん(泣))心の痛手を負って憂鬱になり、またお姫様を誘拐したことで、いつ第二第三の勇者が俺を倒しに来るか気が気じゃなかったので、いつ勇者一行とお姫様改め王子が人間界に帰ったのか気付かなかった。
人間界では王子と勇者一行により、大革命が起こった。腐敗した王族や貴族を一掃し、法を整え、貧しい者も豊かな者も平等に教育が受けられるようになった。平民からも王城勤めが出来るようになり、より国民は政治に興味を持つようになった。そこに至るまでに多くの血が流れたが、ワレーヌという国は人間界一の大国となった。その裏に、魔界で法や教育を学んだ王子と勇者一行がいた。今では王子はこの国の王となり、勇者一行も王子の側近となり国民によく尽くしている。魔界と人間界の諍いはなくなったわけではないが、融和への第一歩を人間たちは足を進めた。
永劫の迷宮にいる勇者はどうなったか、というとまだ彷徨ってます。これも魔王の愛の試練だ!と勘違い野郎は思っています。永劫の迷宮では年をとらないので、勇者は死にません。いつか魔王が気がついたときに、回収されるのでは?