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5話 解紋の儀


コーリィは5歳になった。

5歳になって初めてこの世界にも家名というものがあることを知った。

文体では何度か見覚えがあったのだが文脈の一部だと勘違いしており、

ホーリィへこの文字の意味を聞いたことで家名であることが判明した。


コーリィの一家は家名が『サスウェイ』となる。

コーリィ()サスウェイ(家名)が名前の形式になる。

さて、サスウェイ一家には近日中に一大イベントがあった。


コーリィの5歳上の兄マルクスが本日付けで10歳になる。

10歳は解紋の儀が執り行われるのだ。


解紋の儀はラギルスの町で行われる。

その旨の通知は7日前にサスウェイ一家のもとにも届けられていた。

ラギルスの町はコーリィの住んでいるラータ村から馬車で4時間程

の所にあった。


木造の家が多いラータ村とは違い、レンガ造りの家が多かった。

さらに個々の家は特徴を持ちながらも全体を乱さない均一の立地・高さ・色彩が

考慮され、風景を阻害しないように工夫がされている。

その風景は夕日が落ちる頃に色を変え、1日の終りという哀愁を漂わせる。

こうやって感受性が養われていくのかと思える光景だ。


なぜそういった表現ができるのだろう。

実は家族総出でプチ旅行とでも言うのだろうか。

サスウェイ一家は今ラギルスの町にいるのだ。


明日午前にマルクスの解紋の儀を控えていたので

前日には町についていなくてはならなかったのだ。


町についた瞬間からセシリアから厚いおもてなしを頂き、

気づけば日がくれる時間になっていたという訳だ。


コーリィはセシリアと別れ、泊まっている宿屋へと戻る。

その途中住宅街の道を通るのだが、色様々に光る街灯が灯っているのだ。

町に光を消さぬよう、皆が安全にこの道を歩けるようにと

そういった暖かな親切心というものが感じとれた。


電気の技術がまだ無いであろうこの世界に街灯は

町の人々が各自、自分の家にある外のランプに夕方になれば火を灯す。

これは、この町で起きた家族愛の物語が発端

となっているとセシリアが言っていた。


そういった話をされた後に通ってみると感情が揺さぶられ、

1つ1つの街灯が己の喜怒哀楽を表している様に見える。

余計、帰り道の寂しさというのが直に伝わってくる。

昔、友人と別れた後、町が赤く染め上がった道を我が家に向かって

歩く足どりに似ている。


『もしかしたらさっき別れたけどあいつらも

また戻ってきているかもしれない。』


そんな事ないとわかっていながらも考えてしまう。

そして家が見えてきたらそんな事忘れて今日の夕御飯なんだろうと

思いながら家に向かって走りだす。


そんな少年時代だった。

だからこそ今を噛み締めてしまう。感情が溢れてしまう。


少し泣きそうになりながらも、なんとか耐え

コーリィは宿屋へ戻った。


部屋では解紋の儀の予行練習を行なっているマルクスと付き添うの両親がいた。

この予行練習、朝からずっとやっているのである。


確かに解紋の儀に参加者自身の作法というのは存在するのだが

卒業式の卒業証書授与の動作とほぼ同じだ。


この事から我が兄は相当な心配性なのではないのだろうか。


そして、息子の帰りに気づいた我が父コミットが

兄の予行練習に飽き飽きし、丁度帰ってきたコーリィに

救いを求めるかの如く絡んできた。


「おかえり、コーリィ。デートはどうだったんだい?ちゃんとエスコート出来たかな? 」


セシリアの事はホーリィ経緯で聞いているらしい。

当時コミットは「僕がコーリィと同じ年の頃は女の子って概念すら持ってなかったよ。 」

その言葉にホーリィが「だから私との最初のデートを終始挙動不審になれたのね。滑稽だったわよあなた」と

言葉を返し一家みんな笑いあったとそういった経緯があった。


「出来たと言うよりもされたよ。向こうの押しが強い強い」


「ハハハ、女の子にしちゃ珍しいね。こりゃコーリィが婿に行くのも時間の問題か」


冗談交じりに話しているがコミットの目はなぜか遠くを見ていた。


・・・


解紋の儀当日


ラータ村の数倍はあるだろう広場に大勢の人たちが集まっていた。

都からの使者も何人かいる。元素の紋章が出た時の対処だろう。

皆、解紋の儀の出席者であるのだろうかと疑問を抱かざるえない。


そして、我が兄はカッチコッチに固まっていた。

そんなマルクスを見て指さして爆笑しているアキメの姿があった。

マルクスはなんとか強がってはいるものの足が震えているのがバレバレだ。

いつもの女の子をとっかえひっかえしている余裕のある男とは思えない光景。

動画にとって村中にばら撒きたい気分に駆られたが、そんな前世文明の利器なぞ

ないので村へのみやげ話として記憶に留めておくことにした。


そして、儀式が始まった。

どうも、黒魔術的な血塗れた儀式を想像していたのだが、

どこかで行われた式典と何ら変わりない。

どこぞのお偉いさんから開幕の言葉から始まり

次々と人が入れ替わり壇上へ上がり何か言葉を発しているが

こういった式典に10歳の子供が興味を示す筈もなく、あくびをかく

子供すらいる。気持ちはわからんでもない。


それから数時間が経過した、

長々と続いた式典もどうやらメインイベントに入ったらしい。

一人ひとりが呼ばれ個室内に入っては20秒くらいで出てくる。

腕にはれっきとした紋章が浮かび上がっていた。


しかし、そのまま自分の席へ戻る子供と

別に用意された席に座る子供と分かれていた。

あれはなんの席なのかコミットに聞いてみた。


「あれは、元素の紋章が出た子専用の席なんだ。 」


確か元素は都から徴兵される紋章のことだ。


あたった親は複雑な心境だろう。

そして、アキメの順番に回ってきた。

颯爽と個室に入っていき、何か新しいものを手に入れた

好奇心にありふれた顔をして出てきた。

戻った席は自分の席だった。


そして次はマルクスの番である。歩き方に不自然さを感じざるえない。

なぜか両手を交互に振るのではなく両方同じタイミングで出しているのだ。

会場からも少々笑いの声が聞こえた。

両親も呆れ顔である。


そして、個室に入り、30秒後でてきた。やはり緊張したから

少し手間取ったのだなと思ったが、その考えは間違えだと気付かされた。

マルクスは自分の席には戻らず、元素紋章の席へ座った。

俺も、両親も、先程まで紋章ばかりを見ていたアキメですらその光景に

驚かされた。


・・・


式が終わりマルクスが両親の元へ駆け寄る。


「いやぁ、まさか元素が来るとは思わなかったよ。 」


そう言いながら、マルクスは解紋した紋章の説明をする。


マルクスが持つ紋章は元素の風を操る紋章

5元素のうちで汎用性がある紋章らしい。


コミットがそれよりも気になることを

質問した。


「マルクス、いつから都に行くんだ。」


マルクスが喜んでいる顔をもとに戻す。

笑い話では語れない事だというのは

理解できているらしい。


「10日後には村をでないといけない。 」


元素の紋章が現れたら都への徴兵がこの国の法で定められている。

期間は5年。その間の衣食住、教育・医療全ての費用、施設を国が提供し、

さらに、両親家族への年4回面会が用意され、村から都へ、都から村への往復の

資金を全額提供するといった大盤振る舞いな対応がなされる。

もちろん、旅の護衛は国から優秀な兵が派遣される。


5年経てば徴兵は終わり、村へ帰るのもしかり、

そのまま兵として名を挙げるのもしかりである。

待遇は大いに良く、あたったことを喜ぶ家族だっている。

しかし、徴兵の5年の間に戦が始まってしまったらと考えると

気が気ではなくなる。

家族間のつながりが強いサスウェイ一家だからこそ

そういった不安が出てくるのだろう。


「父さん、母さん。俺頑張るからさっ!応援よろしく! 」


マルクスは無理やり作った笑顔で笑ってみせた。

コミットもホーリィももちろんわかっていたがそれに合わせ口角をあげた。

すかさずコーリィーが


「兄さん、都にいる女の子可愛いからって声かけまくっても、結局田舎者にしか見てくれなくて

 そのまま素通りされるのがオチだからそこは頑張らなくてもいいからね!  」


一家4人に本当の笑い声が響いた。


それから10日後、護衛の兵に連れられ、兄は都へと旅立っていった。


「またなっ!」


コーリィはマルクスが見えなくなるまで手を振り続けた。

またの再会を夢見て。


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