3話 はじめてのおつかい
3歳になった。
この世界の日常会話程度なら話せるし理解できる自信もついていた。
そろそろ家の外にも興味を向けていい時期かと考えていた。
そこへ、母ホーリィから近くの商店への買い物をお願いされた。
外を覗けるちょうどいいタイミングだ。
とりあえず買い物するものが記されたメモとお金を…おか・・・ね?
ホーリィから手渡されたのは球根植物だ。
この世界はこの球根植物一つが単価として計算されるのかと
一瞬思ってしまった。
手渡した後にホーリィは続けて口を開く。
「このマッシュー草をメモと一緒に商店の人に渡してね。
途中で食べちゃだめよ」
この球根植物は商店の商品と交換する物であるらしい。
どうやら俺の生まれたった世界はまだ経済が動いていない、
もしくは辺境の村であり、物々交換のほうが効率的に良い土地
でなのだろうかと仮説を立ててみる。
「ママ、お金とかは使わないの?」
俺は疑問をぶつけて見ることにした。
するとホーリィは少し驚いた顔をしたが
すぐに笑を浮かべながら答えてくれた。
「よくお金の事知っていたわね。
お金はね、この村から出た時に必要になるのよ
この村はすっごく遠いところにあるから
お金より物と交換したほうがみんな幸せになれるの」
やはり辺境の村かとコーリィは納得した。
「それじゃあママ、行ってきます」
「いってらっしゃい。コーリィ」
コーリィは外への扉を開いた。
転生後、初めての世界を見た。
空が高く広く青々しい。
陽の光が木々の緑を際立たせ、時折吹く風が
葉擦れを奏でる。
いつかみた少年時代を思い出した。
景色は違えど再度このような体験ができるとは
思いもしなかった。
コーリィは感動し、転生した事を
少しだけ感謝した。
コーリィの自宅は村の端にあった。
商店は村中央の広場にある。
距離にして500mほどである。
まっすぐ商店に向いながらも
道端に生えている良くわからない草や
前世ではネットの世界でしか見たことがない
本物の剣や弓を身に着けている人物を見つけ目を輝かせた。
幾度か人とすれ違っているが、この世界には人種があるのか
長耳や獣耳、尻尾といったふうに人形ではあるが何か少しだけ
違和感のある人物と数名通り過ぎた。
帰ったらホーリィに聞いてみようと考え商店へ足を進ませる。
広場に出たところで声が聞こえた
「いらっしゃいませー、今日は葉重の実がおやすくなっていますよー! 」
赤毛のポニーテールがよく似合う女の子が客引きをしていた。
それよりもコーリィはこの世界にもポニーテールはあったのだなと思いながらも
その世界を超えた偉大さに感動していた。
どうやらホーリィの言っていた商店はあの娘がいる所だろう。
赤毛の娘へ話しかけてみる事にした。
「あの、買いたいものあるんですが。」
「おっ!ありがとうございます!何がほしいの? 」
コーリィは母からもらったメモとマッシュー草を差し出す。
赤毛の娘はメモを読んで笑顔でメモを返した。
すぐさま商店の中へ入り、キャベツをもってきた。
「はーい、マッシュー草と葉重の実の交換ね。」
どうやらこの世界でキャベツは葉重の実というらしい。
赤毛の娘はキャベツを渡すついでのように話しかけてきた。
「そうそう、誰かに似ていると思ったんだけどマルクスの弟? 」
「うん」
「1人でお使いえらいね!私は君のお兄ちゃんの同級生のアキメっていうの覚えといてね」
「うん、僕コーリィ…です。」
「よろしくね!コーリィ」
「うん」
「マルクスにいじめられたらすぐにお姉ちゃんに言うのよ、こてんぱんにしてあげるからね」
「うん」
「マルクスが私以外の女の子と一緒に遊んでいるのを見たらお姉ちゃんにいうのよ、こてんぱんにしてあげるからね」
「うん……うん?」
「それじゃぁ、気をつけて帰るんだよ。寄り道とかしちゃダメだからね。」
「うん」
キャベツを持ってきた道を戻る。
頭の中は大反省会だった。
8歳くらいの女の子にしゃべりかけられ挙動不審とは
我ながら情けない。
そう思うと同時に、すでに尻にしかれる予兆を見せている我が兄マルクスを
哀れと内心思ってしまった。
そして、個人的に聞きたかったことを聞くのを忘れていたことに気づく。
お金のことだ。この世界の通貨はどういったものなのか、あの商店でも
物々交換が主だったが野菜別で数字の羅列らしき板が貼られていのを思い出した。
見ているのにも関わらずテンパりすぎて流されにみを任せている自分はおいおい直していかないといけない
今後の課題と考え帰路についた。
帰路の途中でマルクスが同い年らしき女子と仲良く遊んでいる光景をみた。
俺は、進路方向を180度変え、再度商店へ向かった。
・・・
商店へ戻ってきた。
戻ってきた俺に何か忘れ物したのと聞いてくるアキメ
「ちがうの、質問、お金使えるの? 」
個人的な疑問を解決したかった。
マルクスの件は口実に過ぎない。
とりあえず、テンパッてはいるが、先程よりマシだ。
カタコトだろうが会話のキャッチボールを続けよう
「ん?お金の事知ってるんだ!すごいね君。うん、うちでも使えるよ」
「僕、いろんなお金知りたい」
アキメは少し悩んだ後に口を開いた。
「コーリィにはちょこっとだけ難しいかもしれないよ。大丈夫?」
「うん」
コーリィが頷くとアキメは一度商店の中に入っていった。
しばらくすると出てきてこちらへ手招きしていた。
中に入ってこいということだろう。
コーリィは商店の中へ入っていった。
商店の中は多くの薬草・果実・肉・工芸品などの商品棚が2階に渡って並んであった。
その中でアキメが接待用の部屋へ案内してくれた。
接待室は実に簡素。装飾品などはなく、テーブルと椅子のみの部屋だった。
席についたアキメは4つのコインを取り出し机に横一列で並べた。
「それじゃ、はじめるね」
「うん」
「まず、お金の種類は6つあります」
あれおかしい、並べられたのは4つだけだ。
「4つしかないよ」
「まぁ、順をおって説明するからもう少し待ってね」
「うん」
「それじゃ、まずいちばん左端のやつから説明するよ」
「おねがい」
それからコーリィは4つの硬貨の説明をうけた。
まとめるとこうだ
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鉄貨 =最小単位硬貨
銅貨 =鉄貨10枚分の価値
銀貨 =銅貨100枚分の価値
金貨 =銀貨10枚分の価値
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アキメの話は更に続く。
「この硬貨ってやつの他に紙幣ってのがあるわけ」
机に並べられた硬貨の銅貨と銀貨の間に鳥の絵が描かれている紙幣を
金貨の後に樹木の絵が描かれている紙幣を加えた
「この鳥はフニっていう平和の象徴である鳥よ。この絵が描かれている紙幣は
銅貨50枚分の価値があるわ。
あとこの木、ユグラっていう伝説の木らしいんだけどこの絵が描かれている紙幣は
金貨5枚分の価値があるわ」
まとめるとこうだ
---------------------------------------------
鉄貨 =最小単位硬貨
銅貨 =鉄貨10枚分の価値
フニ紙幣 =銅貨50枚分の価値
銀貨 =銅貨100枚分の価値
金貨 =銀貨10枚分の価値
ユグラ紙幣=金貨5枚分の価値
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「っと結構難しい話になっちゃったな。流石に君の年で覚えられる内容じゃないよね」
「ううん、覚えたよ、鉄貨が一番低くてユグラ紙幣が一番高いんだよね。
銅貨と銀貨は価値の差がありすぎるからフニ紙幣を後で出してこの差を埋めたんだよね。
だとするとユグラ紙幣は金貨がもっと世の中に回るようにということで発行された紙幣
どこかで金の山でもみつけたの?」
アキメは口をあんぐりと開けてコーリィを見つめていた
「あ、あれ、そんなに見つめると…恥ずかしい…」
テンパりまくりでどもるからやめてくれ
「っあ!ごめんね、君の飲み込みがあまりにも早いもんだから
驚いてしまったよ」
「ごめんなさい」
「いや、怒ってないんだよ、褒めてるんだよ」
「そうなの?」
「うんそう、君ってば頭の出来は良いみたいだね、将来いい商人になるよ」
そう言いながらアキメはコーリィにちいさな拍手を贈った。
・・・
アキメにお礼を伝え、商店を去る。
青々とした空はいつの間にかオレンジ色に空を染めてた。
そのオレンジもだんだんと色を暗く染め夜の訪れを知らせていた。
結構な時間をとってしまった。母も心配しているはずだ。
コーリィは、なぜか2個に増えたキャベツを抱えながら家路へと急ぐ。
急ぐ途中、思考の中でフッと、アキメへ最後に口実であるマルクスがほかの女の子と
仲良く遊んでいた件の報告を入れたが、アキメは苦笑していたのを思い出した。
もしかしてあれは冗談混じりで言っていたのを俺が真に受けて本当に報告しちゃった
感じなのだろうかと少し不安になった。
思考は更に続く、今回お金の種類を覚えられたのは大きな収穫だった。
これからほかの国に出かけるときも金は必要になるだろう。
あとはこの国の食べられる野菜・薬草・製肉の種類、調理方法を覚え自炊ができるようになれば
いざというときに困ることはないだろう。
…さて疑問に思うのが、この世界の人間は魔法が使えるのかどうかだ。
前世では科学技術という魔法が使えたがこの世界での魔法は一体どういうものなのか
興味があった。
確か2階は書籍倉庫になっていただろう。
多少の文字を覚えたこの年なら、初級魔法の本だったら読めるものがあるはずだ。
善は急げという、帰ったらすぐ2階へ上がって調べてみよう
そう考え、自宅玄関の扉を開けると母ホーリィが仁王立で待ち構えていた。
「あっ・・・・・」
その前に覚悟しないと行けないことを思い出し、2階の件は早々に諦め
静かに母からの熱いスキンシップを受けるコーリィだった。