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女になるには

大変なことになってしまった!


どんな格好をしたらいい?ファッション!コンセプトは?

旅行というのは行く場所によってファッションのコンセプトがあると思う。


美術館に行ったり、パーティに行くなら、それ相応の服装があるように、スイスで登山するの、ニースで海に入るの、というのとでは全く持っていくものが違うじゃない?


しかし!


そんなことよりもっと大きな問題がある。


そう、相手がいる。それも拓己だということ。


普段は黒子のように、ウロウロちょろちょろとダサく、限りなくオバさんぽくしていればいいからラクだった。


がっ!


ここに来て「女しなきゃ」となるとどれ程大変なのかを思い知らされた。女を演るのは、お金もエネルギーも時間さえかけないとなれないモノなのだ。


ううううう


こんな時でもあたしは相談する友達もいなかった。お門違いと知りつつ、社長に依存しているあたしがいた。


ドラマや小説というものは、全くこういったことがおざなりに進んいくけど、ホントはすごく大変なこと。


―ある意味楽しいんだけど、楽しみを超えると負担になってしまう。しかし、それくらい我慢しよう。相手は拓己なのだから。あたしの美意識の芸術品なのだから(しかし、芸術品なんてあたしも相当ひどいよね。コレクター性格かしら?)


ひとりだけ電話できるスタイリストの水野さんを思い出した。彼女にアドバイスしてもらおう‥‥いや、ダメだ‥‥


ちょっとやそっとでは拓己や社長の美意識は分からない!!! 


あたしひとりで用意するしかない!!!ダテに何ヶ月も拓己の衣装を見立ててきたわけじゃないもの。頑張れ、頑張れあたしっ!!!!




「優奈ちゃん。用意は出来たの?」

オフィスに帰ると社長が聞いてきた。今日は飛び立つ3日前。


「はい。なんとか。 私、海外はじめてなんでスゴイ緊張します!」実はまだ完璧じゃないけど、もうよく分からなくなってきていた。大体お金だって買い物のためスゴイ使ったと思う。


「あのね‥‥ 拓己は向こうで休むつもりだから、あんまり出かけないと思うわ。…だから、おしゃれな部屋着と上質な素材のカジュアルな服が一揃えもあれば十分だと思うわ。‥こんな事私が言うのも何だけど、下着と基礎化粧品とサプリメントにお金をかけなさい」

「下着?サプリ‥‥ですか?」

「ええ。言っている意味は分かるわね」


はい‥‥ つまり素肌に近いものに力を入れろ、と言うのだ。ソレってすごくない?‥いいんですか?事務所の社長がそんな事言って?


「あ、あの‥‥ 私ぜんぜん分からないんです。服はいっぱい見てきたけど、こういうの初めてで…」


はあ〜


あきれたようにため息をつく広海社長。

「はじめてのお泊り、なんて、今どきのコはもうとっくに経験していると思った!」

そんなの意味ないですよ、社長。相手が拓己だったらどんな経験も意味ないんです。

…とも言えず。


「分かったわ‥‥ とっても理不尽だけど、私の知り合いでイイ人紹介しましょう。ちょっと年いってるけど頼りになると思うわ」社長は電話をとった。


-----------------------------------

「ほら、荷物貸して」

「いえ、あたしが持ちます!」

「何言ってんだよ。もう仕事じゃないんだから、荷物はオレが持つんだよ」


シャルル・ド・ゴール空港で私用に変わった位置にとまどいを覚えながらも、あたしは見知らぬ土地に不安が隠せなかった。


あれから社長から紹介してもらったマダムに、色々と用意するものや、旅行中の美容方法を教えてもらった。あたしは言う事を聞くのに誠一杯で旅行自体の予想をしていなかった。


「行こう。大丈夫だよ。オレが着いてるから」

肩を抱かれて急に拓己が人間に見えた。今まではスターで商品であたしを人間と認めてない立場の人だったから。もちろんそんな事は拓己はしないけど、あたしが勝手にそういう立場にいたのだ。それが落ち着く位置だったから。


タクシーを走らせて、パリの郊外へ向かう。モンマルトルに近い通りから少し入ったコテージ風のホテルだった。


やっとパリに来た!今日まで大変だった。


今は嬉しいというより見知らぬ都会で拓己とふたりぼっちになってしまった心細さのほうが大きくなってきていた。





朝の淡い日差しが、ベットの私を目覚めさせた。激しく夢を見ていたらしく、一瞬ココがどこだか分からなかった。


スイート・ルーム。


同じ部屋でありながら、別々のベットルームが使用出来るのは何て快適なつくりなんだろう。男性に楽屋裏を見られなくてすむことは女性には、とても嬉しいものだ。


あたしと拓己は別々に休んだ。


ここでの決まり。お互い干渉しないこと。廊下を使えば部屋からそのまま玄関に出られるのだから、外出も自由に出来る。話がしたければ部屋をノックすればいい。居れば返事をする。訪ねられた方は気が向けば話をすればいい。


ただ、今日は初日なので拓己が近所の案内をしてくれる約束だった。


「これが世にいうオープン・カフェね♪」

「うん。」

「パリパリ、カフェオレ、しるぶぷれ〜」

「やっと、笑ったよ〜 よかった… パリに来てからずっと面白くなさそうだったからさ、さえきさん」


秋だというのに強い日差しの中で、向かいに座った拓己は微笑んだ。ちょっとショッキングなシャツがパリの町にすごく似合っていた。


「そんな面白くなさそうだった?」

「うん。なんか自殺旅行してる人みたいだった」

「そぉお?そんなに?」

「そおだよ。オレはらはらしたよー」

「拓己くんがぁ? そんな風には見えなかったよ」

「さえきさんが気づいてないだけだよ」


「あのさ"さえきさん"てのふたりの時には止めてよ」

「じゃ、何て呼ぶ? 優奈さん、優奈ちゃん?」

「優奈っていうのは?」

「ダメだよ。年上の女性に呼び捨てになんか出来ない!」

ちょっと驚いた。こんなにハッキリと言われるとはね。それも年上ときたから、ちょっとコンプレックス…


「あ、違うんだ。これは年上だからとか年下だからとかは関係なくって、信念の問題なんだ」

「しんねん?」

「そう。恋人同士だって夫婦だって別の人間だからさ。自分のモノみたいに呼び捨てにするのは嫌なんだ、オレ」


‥‥‥


分かってきたぞ〜 紳士道ならぬ、広海道!!!

しっかり根付いているじゃない!社長の信念。


「そお。なら好きに呼んでください!」

「ゆうな‥ちゃん? かな?」

「くすっ‥ゆうなちゃん…か ‥うん…」

「だめ?」

「…うん…いいよ…」


なんだかすごく幸せな気分だった。


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