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家族のひみつ

知らない間に家までたどり着いていた。

普段は家に帰るのは吐き気がするほど嫌なのに、今日はボーとしたまま玄関先に着いていた。


そうだ!

大棟社長の名刺を取り出して、携帯電話に登録する。万が一を考えて数学のノートの一番後ろにも連絡先を書き写しておく。そのまま、名刺はビリビリに破って捨てた。


「ただいま…」

覚悟を決めて家の戸をあける。


「どこ行ってたんだ!こんな時間まで!年頃の娘が出歩く時間じゃないだろう!?男といいことをしてきたんじゃないのか?!」


父親の和行がもう家に帰って待っていた。まだ8時を過ぎたばかりだというのに、出世コースからはずれた彼は毎晩7時まえには戻ってきて、家族を監視している。


うんざりしながらあたしはそのまま自分の部屋に閉じこもった。

母が後ろで「優奈、ごはんは?」と聞いていたが無視した。


『どうして、男といいこと、なんていう言葉が出てくるんだろう?汚らわしい発想!』


いつのまにか眠っていた。


荒い息づかいで目が覚めた。

「優奈、声だすな…」

和行だった。

「やだ、止めてよ、お父さん!」

あたしの拒絶など無視して、彼は自分の下半身をあたしに押し当ててきた。


「なにを今さら…はぁ‥ 今日は門限を破ったから特に許さないからな‥はぁ」

抵抗するあたしの両手をつかんで自由を奪うと、無理やり入ってきた…

ビクンと体がする。そのまま、彼は動き始めた。いつものように。


恐怖と嫌悪とおかしな感覚に揺られながら、もうひとつの声が私の中に響いてきた。



やめて、やめて、やめて、やめて、やめて!!!!


「やめてえ!」


そのまま、父を突き倒した。


あたしは走って逃げた。






「あの、あの‥‥ あたし、佐伯優奈って言います…今日社長さんと倉田さんにお会いして、あの…」


オフィス・カサンドラのインターフォンに向かって私は、支離滅裂に話していた。制服のまま眠っていたので持ち物は携帯電話だけだった。パニック状態のためマトモに話せない。


「ちょっと待ってね」


その声は社長だった。セキュリティのドアが開いて昼間よりもくつろいだ格好の広海社長が現れた。驚いた様子だったけど、決して拒絶するような感じはない。


「どうしたの?こんな遅く?」

「すみません!……」

言葉が出てこない。何を話せばいいの?


「とにかく、入って。どうぞ」

何も聞かずに社長はあたしを事務所に入れた。オフィスには誰も残っていないようで、社長ひとり残って仕事をしていたようだ。もう12時前だというのに。


「何飲む?ビール、チューハイ?あ、ブランデーもあるわよ」

社長はイタズラっぽく笑った。あたしが18歳だと知っていて、こんな風に言う。心の痛みに年齢はない、ということなのか。


「ビールお願いします」


ひと息ついて

「今夜、泊まるところないんでしょう?」

「…はい」

「家、出てきたの?」

黙ってうなずく。


「‥‥社長‥‥わ、私、何でもします!付き人でも、掃除でも、ご飯作るのでも。何でも!!…社長の言うこと何でも聞きます。だから、私を雇ってください。お願いします!お願いします!」


頭を下げると急に涙が出てきた。もう、あたしには何もない。いや、今までだって何もなかった…ただ、怖かったのだ。


「顔あげて…」

社長はあたしの肩に手を置いて、ティシュの箱をくれた。涙と鼻をふく。


「大丈夫よ。大丈夫。心配しないで私に任せておきなさい。優奈ちゃんは今までとても頑張ってきたようね…」


そんな事言わないで‥‥余計涙が出てきた。


「今日はもう休みましょう。うちにいらっしゃい。ホテルがいいなら用意するけど、どうする?」

ひとりになりたくなかった…

でも、社長が私とじゃ休まらないというならホテルをとってもらったほうがいいのだろうか?


「どちらでもいいです… 差し支えなかったらお金のかからない方で…」

小声になってお願いする。


「じゃあ、帰りましょう。大丈夫?立てる?」

「はい」

少し気が抜けたというか、安心したというか‥‥


「優奈ちゃん、電気消して。あ、そこよ。ふふ、スタッフは電気代もちゃんと考えないといけないのよ!」


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