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旅立ちは接近へ

「フォースのチケットきた?」「きたー!あたしなんてスタンドFだよー、さいてー」


ファミレスでは向こうに座った女子高生が集まってきゃあきゃあ言っていた。


あたしはひたすら勉強をしている。


事務所に就職してから、芸能人も受け入れ高校に転校してたあたしだったが登校日数もぎりぎりで、学業をおろそかにしていた為、卒業条件はきびしいものだった。


4月の渡航までには、絶対に高校の卒業資格を取らないといけない。そのうえ、留学に向けての勉強と用意、手続きでかなりキツイ状態だった。


事務所は休業扱いになっていた。


3000万円‥‥


拓己があたしに振り込んでくれた金額は法外なものだった。






「社長!拓己の居場所を教えてください!」

あたしは通帳を見て驚き、拓己に連絡を取ろうとした。が、彼にはどうしても連絡がつかなかった。


「教えられないわ。」

めずらしく無表情で社長は答えた。


「どうしてですか?!」

「だって拓己が優奈ちゃんには連絡先を教えるな、って言うんですもの」

「‥‥‥」


どうしよう‥‥ どうしよう‥‥


あたしだってこんな大金でなければ、会いたくないと言う拓己に無理に会うなんてことはしない。でも、これは、どうしても何とかしなければ!


「‥‥社長‥‥ これは‥報告しておかないといけないので言います。あたしは拓己にお金を借りました。頼んだのは300万円です。でも、拓己はあたしに3000万ものお金を振り込んでいるんです。

…これは何かの間違いじゃないでしょうか?振り込むとき桁を間違ったんだと思います」


「間違ってないわ。」

社長はきっぱりと言った。


「だって‥」

「彼は3000万どうしてもいる、て私に言ったんですもの。本当は秘密にしておきたかったみたいだけど、急いでるから用意がむずかしい、って。あの子は未成年だからね」


「そ、そんな!おかしいです!こんな大金要りません!」

「‥‥‥‥‥」


「優奈ちゃん…」

社長は今まで見たことないくらい優しく微笑んだ。


「お金は必要よ。確かに3000万円は必要ないかもしれない。でも、海外では日本よりリスクが高いわ。何があるか分からないのよ。……持っていきなさい」


あたしは急に泣きそうになった。


「生き金、死に金、という区別があるなら、あなたにかかる学費なんかは完全に生き金になるの。それが正しいお金の使いかた。拓己でなかったら私が出していたわ。


……それにね、この世の中には死ぬまでお金に困らない人がいるのよ。本当にいるの。だから、そんな人たちから、3000万円ぽっちもらったって気にする必要なんかないわ。車や宝石に使われるより有意義でしょ?」


社長は笑った。


「きて」

少し両手を広げた形で広海社長はあたしを呼んだ。


どうして、断る理由があるだろう


そのまま、優しくあたしは社長に抱かれる形になった。甘い香り‥‥でも、センシュアルな印象のある香りが、あたしのコロンとよく似ていた。


「しゃちょう‥」

「‥ん」

幸福感と満足感に陶酔としながら、あたしはどうして彼女に愛を伝えたらいいか分からなかった。


「‥今まで、ありがとうございました」

「うん…… 体に気をつけてね。」

「はい」

「待ってるからね‥‥」

その先を、社長は何かを言いたそうだった。でも何も言わなかった。


そのままおでこにちょことキスをして

「またね!」


そう言った。





青い…


どこまでも澄んだ青空がこれから向かう地にも続いているのを予感させた。


これからあたしはミネソタに旅立つ。何とか高校を卒業したあたしは、向こうの新学期9月までは語学学校に通うことになっていた。


心細さと不安を振り払うため、ギュッと目を閉じてから目をひらきゲートをにらんだ。


「優奈ちゃん!」

ふり向くと拓己の姿があった。サングラスに目深帽子だったけど確かに拓己だ。


「どうして…?」

「優奈ちゃんのお母さんに電話して聞いてたんだ… 出発の飛行機…」

「…そう…」対峙する形で向きあった。やはり愛しい気持ちがあふれてくる。


「あの… お金、ありがと… がんばって返すからね…」

「いいよ、返さなくって。これはオレの社会投資だから、素敵な人が増える活動の投資なの。なーんて言うとカッコイイけど違うんだ。


…コンプレックス‥ 昔、助けられなかった友達の代わり‥そんな事で悪いんだけど優奈ちゃん、受け取ってくれる?」


拓己はその時見たこともない悲しそうな顔をした。何があったか知らないけど大きな悲しみがあたしに伝わってきた。


あたしはうなずいた。


「だからこんなことで引け目を感じられたらオレ困っちゃうよ」

ひと呼吸おいて

「…それより、がんばってね!」

「うん」

言葉が……


「拓己くんも。」

「うん」

「無理しないでね…」

「それは、どうかな」笑いながら拓己は答えた。


「社長のことだから、鬼のように働かされそうだよ」

「ふふふ、そうだね」


嬉しかった。ふたりで社長のことをこんな風に言い合える空気が。


「じゃあ‥‥ いくね」

「うん」

あたしたちは見つめあった。言葉とは裏腹にどうしても行く決心がつかなかった。


「優奈ちゃん」


おでこにキス


そのままギュと抱かれ


「またね!」


―それは3ヶ月前社長とお別れした形とおんなじだった



そしてあたしは旅立つ。


広海社長や拓己のように素敵な人間に近づくために。


色々な試練があるだろう、恋もするかもしれない。でも、彼らと出会ったことは決して色あせることはないだろう。



あと10年たったら、あたしはあのふたりの前にどんな姿で立つのだろうか?


それを考えるだけでもドキドキだ!


(完結)

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