「愛ある家族」
見上げた夜空には雲一つ無く、満天に星が輝いています。秋も深まって、夜になれば気温もグッと下がるのでとても肌寒く感じられました。だけど、空気がとても澄んでいるのでいつもよりも星々が輝いて見えます。私が夜空を見上げていると、手を繋いで横に立っていた妹のハナは、眠そうにして右手の甲で目を擦っています。
「ねぇ、おねえちゃん」
「なに、ハナ?」
「おかあさんは?」
ハナは不安そうな顔をして、辺りを見回しながらそう言いました。私は思わず涙ぐみ、声を詰まらせてしまった所に、ちょうどお父さんがやってきたので、ハナはお父さんにも、お母さんのことを訪ねたのです。お父さんは少し困った顔をして、私の方をチラッと見てから、ハナの後ろにしゃがんで抱き寄せると、小さなハナと同じ視線の高さに合わせ、夜空を指さして言いました。
「お母さんはね、お星さまになったんだよ」
そんなお父さんの言葉の意味を、まだ理解できないハナは、夜空を見上げてどこのお星さまがおかあさんなの?と、私に聞くのです。いくら私が小学五年生であるとは言え、人が死んだらお星さまになるとかと言う話を本気で信じているほど私はお子様ではないのです。
「そうだなぁ、あの辺かなぁ」
私が答えに困っているのに気が付いたのか、お父さんはそう言って夜空を指さしたのですが、まだ五歳になったばかりのハナには、深夜とも言えるこの時間に起きているのは難しい事のようで、お父さんにもたれかかり、立ったまま天使の様な顔でいつの間にか眠っていたのです。お父さんは器用だなぁと笑って言うと右手でハナを抱き上げ、左手で私の手を取ると、みんなの所に戻ろうかと言ったのです。
お父さんは血の繋がったお父さんではありません。血の繋がったお父さんの記憶はありませんし、写真も見たことがありません。今のお父さんは、お母さんと去年の暮れに再婚したお父さんなのです。でも、お父さんはとても優しくて、人見知りの激しいハナもすぐになついて私たちをとても大切に、そして愛してくれたのです。でもそれとは正反対にお母さんは私たちを嫌いになっていった様です。
「いやらしい娘だよ!!母親から男を取るなんて!!」
そんな風に言われたこともあり、お母さんはいつの頃からか住んでいるアパートに帰って来なくなったのです。そんなお母さんが死んだと知ったのは今朝のことでした。久しぶりに帰ってきて、お父さんとこれからのことについて話し合っているうちに死んでしまったそうなのです。
「終わったんで俺たちもう帰るけど、杉村さんはどうするの?」
みんなのいるところに戻ると、その中でお父さんと仕事の付き合いがあるというおじさんがそう言いました。
「今日は本当にありがとうございました」
お父さんは頭を下げてそう言いました。私も一緒に頭を下げました。
「いいってさぁ、これくらい。杉村さんには儲けさせてもらっているからな。俺には理解できない趣味だけどな。じゃぁ、帰るけど、何かあったら言ってくれ。対応するから」
おじさんはチラッと私の顔を見ると、少し哀れむような顔をしてから車に乗り込み、車は去っていったのです。
「俺たちも帰ろうか」
お父さんが言いました。私たちは車に乗り込み、お母さんの埋まっている深い森の中の林道を、車はゆっくり走り出しました。私は後部座席で眠っているハルを抱きしめて乗っています。運転しているお父さんが言いました。
「さっきのおじさんがね、また二、三本頼むって言うんだ。好評みたいでね。それだけあれば暖かいところで家族三人が新しい生活を始めるくらいのお金にはなるんだ」
「うん。でも痛くしないでね」
私はそう言いました。
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