破壊者の忠告
「こう…かな」
俺とミラネ、結城は実習場の端でこっそりと練習をしている。
どうして俺ともあろう者が隅にいるか…その原因は結城にあった。
結城はクラス2だ。雑用として呼ばれたが、俺の我が儘で魔法の練習をしている。
教員に見つかれば叱られるだろう。まあ叱られたところで痛くも痒くもないし、言い負かすことも出来るのだが、馬鹿の相手をするのは面倒だ。
ミラネは嫌々ながら俺の近くに友人として立っていた。
時折、結城の腕を掴んでは、魔法陣の書き順が違うだの何だの、結構乗り気で教えていた。
魔法陣の生成に関しては、ミラネは俺に勝つかもしれない。
魔法陣線も作れない分際だが、彼の引く線は美しい。
どちらかと言えば魔法ではなく魔術を得意とする俺とは、タイプが違うのだろう。才能だ、彼の魔法陣生成スキルは才能だ。
ふとミラネの手元を見ると、魔法陣精製携帯型装置がない。
「ミラネ君、グラフはどうしたんですか?」
「…貸出中だ」
結城がグラフを細い手首に着けていた。
魔法陣線は通常、一年生は精製出来ない。二年生もたいして変わらないが。
そのため、アドラス魔法魔術学園では入学時に、グラフが支給される。
「結城、まさかグラフ、クラス2には配られていないのですか?」
「…はい。そろそろ支給されても良い時期なのに」
またクラスによる差別か…迷惑だ。
ミラネのグラフを貸し借りしてもいいのだが、そうするとどちらかが練習しているとき、どちらかが練習できない。
結城も“噛む”つもりだったが、まだ先になる。それまではやはりグラフが必要だ。
ミラネは契約をしても、なかなか覚醒をしない。ガゼットブラッドが合わないのかもしれない。
だとしたら、ミラネがグラフを手放すのはもう少し先になる。最悪、一生手放せないかもしれない。
覚醒しても…だ。
そういうタイプもいるのだ。いくら魔に長けていようとも、魔法陣線だけは精製出来ないタイプ。
万能な悪魔とは違い、人間には不完全がある。
不完全を持つが故に、俺は人間が愛おしい。そして憎い。
悪魔は不完全を持たない。不完全は欠点ではないことを俺は知っている。
「僕のグラフを譲りますよ」
「え?」
俺は左手首についているグラフを外し、ミラネのグラフと取り替えた。
ミラネのグラフは持ち主に戻す。
「でっでも、ガゼットさんのが!」
不安そうな結城に見せるため、俺は何も着けていない右手で魔法陣線を精製してみせた。
「す…凄い」
「僕には必要ありませんから」
「でも…こんなによくしてもらうわけには…」
「ならば対価を貰えますか?」
隣でミラネがビクリッと体を震わせた。
何を勘違いしているのか…俺が対価として、無理矢理結城と契約するとでも考えているのか?
そんな刃向かう友人作りをしなくとも、結城は近いうち、自分から求めてくるだろう。
非力は力に憧れる。
「僕をガゼットと呼んで下さい。それが対価です」
結城は表情を明るくさせて喜んだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
魔棟から出る直前、俺はミラネの耳元に口を寄せ、息を吹きかけるようにして呟く。
「…俺が結城に噛み付くとでも思ったか?」
「……」
「…余計な手出しはするなよ」
「っ!…何のことだ」
「結城に同情して、俺から護ってやろう…などという要らぬ考えを捨てろ。そんなことされると、僕、悲しいですから」
クラスメートが寄ってきた為、言葉遣いを変える。
最後に忠告の笑みを浮かべると、俺はミラネから離れて、クラスメート共の中に混ざった。
…頬が痛い。
訂正しました。
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