破壊者の最終手段
「…友情?…突然噛まれて、縛られて、こんな状態でお前と仲良く友達しろ…と?」
「駄目か?」
威圧的に笑う。それをみたミラネの顔に、僅かに恐怖の感情が過ぎった。
「…怖いか?」
「…くそっ、猫かぶりが!…友情って、何が望みなんだ?」
降参した様子のミラネを見下ろし、俺は左手の人差し指をミラネの首筋に向けた。
「…何を」
「貴様はどうやら俺の正体を信じていないようだからな」
本人は気づいていないが、ミラネの首筋には赤い点が二つ並んでいる。
爪をそちらに向けた。魔力震波を放つ。
首筋にある赤い点。
その周囲にさっと不可思議な紋章が広がった。
痛みを伴うそれに、ようやくミラネも首筋の穴に気づいたようだった。
噛まれた事実と関連付け、俺を睨みながら堪える。
「…ぐっ…お前!」
「契約は完了している。貴様は俺と…悪魔と契約した。力を与えよう…その代価として不可拒否命令が出来る」
つまり力を得る代わり、俺の命令には逆らえない…ということだ。
「ふざけっ…ぐ!」
「逆らえば死ぬぞ」
「…!」
「安心しろ…不可拒否命令は最終手段。多用する気はない。貴様は俺の狗でありながら…僕の友人でいてくださればいいんです」
ニッコリと微笑んでやった。
…頬が痛い。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
いきなり意味が分からないことになってきた。
…あいつは何なんだ!
苛立ちながらミラネは廊下を歩いていた。ガゼット・エルゲロ・レージュスタ・サロ…近くに彼の姿はない。
あの後あっさり解放してくれたが、今も不快感は消えない。
「…友情だと?…くだらない」
そもそも信用出来ない。ガゼットがどこまで真実を言っているのか分からない。
…悪魔…邪神?
馬鹿馬鹿しい。魔導の発達した世界であっても、悪魔や神様の存在が実在するわけではない。
魔導はあくまで数学に近いものだ。
魔力については解明されていないが、魔力という力をどのように使うか…それを指示するのが魔術であり魔法だ。
悪魔などという非科学的なものが…。
「あってたまるか」
腕につけていた時計を見ると、授業開始5分前だった。
ミラネはおそらく、先に行っているのだろう。
ミラネは少し迷い、今日の午前が実習であったことを思い出した。
アドラス魔法魔術学園は、授業の三分の一が魔導実習、その他の時間は普通教科が少々、魔導座学が殆どを占めている。
アドラス魔法魔術学園がここまで名門校なのは、実習による生徒育成で高い実績を残しているからだ。
ミラネはしばらく迷ったが、授業に出席するため、実習場所へと足を急がせた。