破壊者の目的
教室。
ホームルーム中、俺の視界は良かった。
前の席に人がいないからだ。
「ミラネ・ラグフォードは…欠席か?」
「先生、風邪だと連絡を受けています」
適当な報告をすると、教員は眉を寄せて俺を見てきた。
「風邪?…治癒魔導はどうした」
「…僕、様子見てきます」
居場所は分かっている。寮内の俺の部屋だ。
成績優秀で教員連中からも慕われている俺だ。簡単に許可を得ることが出来た。
「んだよ、優等生は特別扱いか?」
伊沢亮牙が頭の後ろで手を組んで、非難の目をむけてくる。
日常生活では手の甲に刻まれている魔法陣を、手袋で隠しているようだ。
「すぐに戻りますよ、伊沢亮牙君」
俺は無理に笑みを作ると教室を出た。
…頬が痛い。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
薄暗い部屋に足を踏み入れると、使っていないベッドからガサガサと音がした。
「…お目覚めか?」
「…お前…優男、善者面は偽物か…」
「嘘をつかない俺とははじめまして…か?ミラネ・ラグフォード」
ベッドの上には縛られたミラネの姿があった。
縛るといっても紐でではない。物理的な拘束は、ミラネ程の魔導師になれば意味をなさない。
後ろ手で拘束されているミラネ。
彼の両手両足には魔術式によって拘束がかけられている。
何もないように見えるが、魔力が神経伝達を妨害している。
「お前は…誰だ?」
「ガゼット・エルゲロ・レージュスタ・サロ…正式にはもっと長いが、名前を教えるようなヘマを俺がすると思うか?」
名前は高位の魔術師にとっては、自分を殺しかねないほど大切な情報だ。
名前束縛は強い。
「俺を解放しろ。何が目的だ…!」
「目的…ああ、そういえば言っていなかったな。俺の崇高な理念を」
ついでに正式な自己紹介もまだだった。
「思い上がった人間に粛正を与える者。悪魔とでも、吸血鬼とでも、邪神とでも…好きなように呼べ。簡単にいえば破壊者だ」
「…は?」
突飛な話過ぎて理解出来ないのか、ミラネは首を傾げた。
まあそれが当然の反応だろう。
「不安がるな。俺が貴様に求めることは簡単、かつ単純」
「……」
「俺と…友情を育め」
それがこの男を捕まえた理由だった。
自己紹介追記。
ガゼット・エルゲロ・レージュスタ・サロの目的は…、
友情物語を紡ぐことだ。