破壊者の招待
魔法と魔術の違い…最初の授業はそんな退屈なものだった。
俺は欠伸を堪えながら教員の話を聞く。
前の席のミラネは相変わらず窓の外に興味があるようだ。
まったく…理解できない。風景が楽しいのか?
「ミラネ・ラグフォード、余裕そうだな。魔法と魔術の違い、言ってみろ」
授業中、集中していない生徒によくあるパターンだ。
普通ならここで、問題に答えられずに赤っ恥をかく。
だがミラネは怠そうに立ち上がると、教員を見下すような眼をして言い放った。
「魔導とは魔法と魔術の総称。魔法が感覚、センス、暗記など芸術、文系の知識が必要になる魔法陣を使うのに対し、魔術は基礎である魔法をふまえた上で、難関な数式に似た術式を解くための応用力が必要になる。よって魔法より魔術のほうが高位である」
一気に早口で喋り終えると、ミラネは腰を落とした。
教室内からちらほらと拍手が上がった。
教員は驚いた顔だ。
ミラネの机をさっと窺うと、教本の類は一切ない。
暗記…魔導師なら当然なのだが、低レベルの中でそれが出来ていたことは、評価出来た。
…やはり…こいつ。
俺は一文字たりともメモをとっていない…とる必要性を見いだせなかった。のページを破く。
そこにペンを走らせた。因みにシャーペンはシャーペンのままだ。
何でも魔導化すれば便利になるわけではない。シャーペンには完成した使い易さがある。
書き終えた紙切れに簡単な魔術式を仕込み、ミラネの背中越しに投げた。
「!……」
ミラネはそれに気づいて紙切れを拾い、俺を睨みつけた。
紙には一言。
Welcomeと書いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
放課。
ミラネは紙切れを広げ、そこに魔力震波を放った。
術式に共鳴し、行き先を紙切れから漏れた光が示した。
…あのガゼットとかいう優男…。
一年生が魔術を操るなど、聞いたことがなかった。
「…何者だ…」
光の指し示す方へ、廊下を歩いた。
気付けば人気の少ない場所だった。
…魔法陣資料保存室だ。滅多に人は来ない。
薄暗い部屋の中で目を凝らすと、ガゼットが立っていた。
俯きがちで…不気味だった。
「何の用だ?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
やっと来た。警戒した目で俺を見る。
「何の用だ?」
「…ミラネ・ラグフォード。手合わせ願う」
「何を…っ!」
気づかれた。流石、見込みがある。
ミラネは一歩踏み出し、すぐに跳びのいた。強襲系魔術式だったのだが。
「お前っ何のつもりだ…っ!」
慌てるミラネに向かって、俺は飛び掛かった。
ミラネが障壁魔法陣を展開させるが、片っ端から砕く。
「…うぐっ…離せ!」
首を掴み、ミラネを床に押し倒す。強気な眼光の奥に怯えが見え、とてつもなく愉快だった。
俺はミラネに顔を近づけて笑った。
「優男っ…お前!」
「貴様の負けだ。罰ゲームだ」
豹変した俺の態度が理解できないのか、ミラネは目を見開く。違う。
豹変じゃない。これが俺…なんだ。
「や、止めろよ!」
「黙れよ…雑魚が」
俺は口を大きく開けると…
ミラネの首に噛み付いた。
誤植訂正しました