破壊者の獲物
「ガゼット君って強いんだね!」
戦闘を10回終えた。勿論全勝だ。
フィールドを降りると、女が話しかけてきた。
勘弁してほしい。女に用事はない。
「見て下さってたんですか?照れるな」
「凄かったね!魔導学校に通ってたの?」
「いえ、僕は…」
長々と会話を続けられる。この女の他にも俺に話しかけたそうにしている女は数名いる。
つかまると面倒だ。
「あ、僕先生に呼ばれているので、残念ですがまた…」
「あ、そうなの?ごめんね引き止めて」
「いえ、また機会があればお話したいです。では」
立ち去ろうとしたところを呼び止められた。何だ?
「あ、私、夏樹っていうの。また会いましょ?」
にこやかに表情を緩めて手を振った。
誰もお前の名前に興味はない。そんなくだらないもののために俺は…苛々する。
さて…解放された。目的のものを見に行くことにする。
そろそろクラス選別も佳境に差し掛かっているはずだ。
つまり…ある程度の実力者が集まる。
その中には候補者もいるかもしれない。
俺は人混みの中、セクハラ紛いの熱烈な歓迎を受けながら、フィールドに急いだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
フィールドの上には茶髪の冷静な顔をした青年と、その青年にかなり追い詰められている男の姿があった。
青年は右腕に魔法陣精製携帯型装置を付けていた。魔力を魔法陣線に変換する装置だ。
自分で魔法陣線が作れないところは未熟だが、魔法陣をあそこまで早く描ける技術は評価できる。
「あの人の名前、知らないかな?」
偶然隣で観ていた少女に尋ねると、彼女は顔を赤くして答えた。
「ミラネ・ラグフォード君じゃないですか?」
…ミラネ・ラグフォード。
合格ラインだった。最初の獲物はあいつでいい。
他にめぼしい人間を探す。幾つも並ぶフィールド…少し離れた場所にあるフィールドの上に、気になる青年を見つけた。
赤い髪を揺らして、楽しそうに笑いながら戦っている。
正直、あまり好きなタイプではないが、驚いたことに彼は、両手の甲に魔法陣を刻みつけ、種類の違う魔法陣を組み合わせることで戦っている。
合成魔法…中級魔法だ。
魔法陣線も、魔法陣精製もできないようだが、それでもかなりの実力だ。
「あの人は?」
「あ、亮牙君だね。伊沢亮牙」
…成る程。存外、捨てたものでもないな。アドラス魔法魔術学園は。
高名に違わぬ…ということか。
黙り込んでしまった俺を、少女が不思議そうに見上げる。
「どうかしましたか?」
「いいえ、大丈夫です。…失礼します」
もう用事は済んだ。
フィールド上での戦闘は終了している。
俺はクラス選別試験結果発表会場へと向かう。結果は分かっているが、念のためだ。
その途中、フードを深く被った人間を見た。場に似つかわしくない格好だ。
体のラインからして、おそらく男。
…まあどうでもいいことか。
視線を戻し、優等生らしく歩いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「え〜と」
空中に浮いた、巨大な魔導動力プレートを見上げる。
プレートに向かって手を伸ばし、魔力震波を送れば、名前と結果が近くに表情された。
1−A…当然だ。
それにしても…と周囲を見回す。
魔力震波を発生させるだけでも手こずり、混雑を発生させている生徒も多い。
呆れた。
基礎中の基礎だ。
いや、俺の普通と世間一般の普通が擦れているのだろう。
人混みは好きじゃない。クラスに向かうことにする。
無意味にでかく、広大で綺麗な校舎…迷子になる奴もいるのだろう。
この校舎には魔導ナビゲーションがあるというのに。
俺は手頃な壁に手をつき、目的地を伝えた。床に光の線が表示される。
最短ルートのはずだ。光の線を辿って、廊下を進んだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
教室に着く。最高クラスだということもあり、かなりの人数が揃っていた。
魔導ナビゲーションを使える人間がいたことに安堵する。
俺の席は窓側…ミラネ・ラグフォードの後だった。
ミラネはすでに席について、不機嫌そうに外を観ていた。
所謂クールキャラなのだろう。
俺の視線に気づき、振り返った。
「…何?」
「あ、はじめまして。ミラネ・ラグフォード君だよね?…僕はガゼット・エルゲロ・レージュスタ・サロ…ガゼットって呼んで?」
「……」
ミラネはじっと俺を観察すると、飽きたのか素っ気なく言い放つ。
「優男、俺に気安く話しかけるな」
「…ごめん」
…成る程。気難しい奴だ。だが…こういう奴が、自分より強い奴に負けるとき…その反応は好きだ。
決めた。
ミラネ・ラグフォード。こいつが最初だ。
進行遅いですね。
次、次で何かします。