破壊者の再臨
破壊者…何かを破壊する者、破壊的な力を持つ者。
だとしたら、今この学園に潜んでいる破壊者は、何を壊したいと願っているのか…。ユーエル・クロソードは持っていた分厚い…表紙が革のノートを閉じた。
ユーエルは異質だった。既存の魔法陣を使わないのだ。
彼女の身につけているベストに刻まれた文字はK…Aに続き、アドラスで二番目の力と位を持つクラスだった。
「よ、何してるんだエル」
アドラス魔法魔術学園の中庭は広い。
芝も整備されている。中央には巨大な噴水があり、周囲には木々も根付いていて、心地好い木陰を作り出していた。
その木陰の一つにユーエルはいたのだが、運悪く誰かに見つかってしまったようだ。
無表情な白い顔を上げると、同じクラスの七瀬海羅の姿があった。
焦げ茶色の髪に真っ黒の瞳。アジア人なら珍しくない容姿なのだが、活発さを感じさせる彼の雰囲気は、何処か人を引き付けるものがある。
「七瀬…授業は?」
「大丈夫大丈夫!次俺のねーちゃんの授業だから。何とかしてくれるって」
ねーちゃん…というのは七瀬海羅の姉のことであり、七瀬陸のことだろう。
アドラス魔法魔術学園の座学の教師をしている。分野は魔法陣線の精製と、魔法陣構成の仕組みについて…大切な分野であり、それを教える彼女にも、それ相応の技術力が必要となってくる。
「七瀬先生は優秀だから…」
「優秀ってのと真面目ってのは一緒じゃないぞ?」
うちのねーちゃんなんかがいい例だ…と海羅は笑った。
ユーエルはあまり感情が変化しない。
無表情でいることが多く、不思議な雰囲気もあってか人が寄り付かなかった。
不思議な雰囲気は強力な制御できない魔力なのだが。
そんなユーエルに親しげに話し掛けて来たのは海羅だった。
「うわ〜君、何処の出身?」
第一声がそれだった。ユーエルの独特な瞳と髪の色を見て、尋ねたのだろう。
ユーエルの長い髪と瞳は、薄い水色をしている。
「なあエル、授業始まるぞ?行こう」
「…うん」
差し出された海羅の手をとった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…は、こりゃ最高の気分だ」
俺の隣で亮牙が呟き、立ち上がった。
校舎の屋根の上…俺の横には覚醒した亮牙の姿。翡翠色の眼をしている。
「騒ぐな…」
先に覚醒したのが亮牙だということには驚いた。ガゼット・ブラッドとの相性は、明かにミラネが良かった。
にも関わらず、ミラネは未だに覚醒せず、亮牙は中級悪魔として覚醒した。
「…で、ガゼット。俺は何をすればいいんだ?」
「適当に人を襲え。貴様レベルなら、ナンバークラスが妥当だ。無差別襲撃には期待していない。所詮は駒集めだ」
ナンバークラス…アルファベットのクラスではない〜つまり2〜10までのクラスだ。
俺は確かに夏樹を襲撃したし、今も他の人間を噛もうとしている。
だがそれに上級悪魔は期待していない。ただの勢力集めだ。
俺が求め、友情物語を演じたいと願うのは…あくまで素質ある人間だけだ。
例えばミラネ、亮牙…上級になりそうな人間だけ捕まえる。
仲間…になるのは、上級悪魔だけでいい。
…俺が最終的に求めているのは…。
「ガゼット!早くいこうぜ!!」
「…興が削がれた。貴様だけで行け」
「はぁ?…おい!」
亮牙の声を無視して屋根を蹴る。
夜風は冷えていた。空は漆黒…俺の髪は溶け込み、肌は浮き彫りになる。
「…合成魔法」
亮牙が得意とする魔導…俺は得意ではないが、出来ないことはない。
亮牙のように既存の魔法陣があるわけでもない。
久しぶりに魔術式ではなく魔法陣を作り出し、両手に一つずつ現れたそれをぶつけ合わせた。
割合は、右手の魔法陣3に左手の魔法陣7。夜空に一瞬光が走り、闇空に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
…それだけ。それ以上は何も起こらない。ただ空に刻み付けただけだ。
今仕掛けた魔法陣は、魔力のある程度ある人間にしか見えない。
つまり…実力者達は気づく。俺という異物の存在に…。
破壊者の再臨に。