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こんなお見合い嫌ですわー!

作者: 九条ろか
掲載日:2026/10/26

 雲一つない青空の下、私はある苦行に耐えていた。

 

 本日のお見合い相手の名前はジョン様という。お話を真剣に聞かなければと思うのに、目の前のお相手は


「フンッ、フンッスゥ……!」


 かなり辛そうに見える。


「フッ、フンッス……ゥ!フッハァ。」


 呼吸も乱れて苦しそう。


「それで、フンッ、友人がフンッス……尻込みしてたので、フッ、フンッス、えぇ私がですねぇ後押ししなくちゃとぉ…フッッンスー!」



 最初のフンッスで話そうと思っていた話のネタが全部吹っ飛んだ私は、ひたすら聞き役に回る作戦だ。



「回りくどいので友人のフンッスゥ……背中を実際に押してフッ、フンッ、やったんですがね、そしたら物理で押すなアフンッと……フンッ!」


 お見合い相手は真剣に話してくれているというのに、頭に入ってこない。友人のフンッスゥ……が無駄に脳内をリピートして駆け巡る。


 くぅっ、話の内容よりフンッスが強すぎるわ。


 全く集中できないけれど、今日はせっかくのお見合い!耐えるのよ……。



 一応、挨拶をした後すぐに声をかけてはみたのだ。


「あの、お加減がよくないのでしたら今日のところは」

「ン、フンッス、いやお構いなく。私は全く、フンッ……平気です!」


 いえ、あなたが平気でも私の方が平常心でいられないわ。素直に言うと、そこで帰ってほしかった。


 話を耳に入れながらも、いつあれが出るかと気が気ではない。


 フンッ!フンッ!フ、フンハッッ!


 あ!まさか……ついに?


 よしっ、執事がナイスフォローで紙を渡したわ。

 それを懐へスマートに仕舞い込むお見合い相手、ってちがーう! すぐさま口元に運んでキープでしょうがぁ!!


 ハ、ハッ、ハァッ……! 



 あっ、出る! 



「ハアァァァックチューーーンッ!!!!!!」


 ああ、時遅し!?と諦めの気持になった。だが……

執事が瞬時にジョン様の口元に差し込んだ滑り込みティシューが、すべて受け止めてくれた……!

 ナイス執事~!! まさに神がかり的なフォローだったわ。


 くしゃみって突然くる上に、自分の意思で止められないのが厄介よねぇ。


「その……失礼した!」

「いいえ……お茶を飲みましょう」


 アルカイックスマイルで受け流す私。執事はさらっとティシューを回収していく。侍女は何事もなかった顔をして、新しい茶葉でお茶を入れてくれた。

 取っ手を摘んで持ち上げると、カップも新しいものになっている。


 いつの間に用意してくれたのかしら?



 お菓子とお茶を口に運び、話が途切れてしまっては話題を探して、と繰り返して何とか予定の時間を迎えた。


 こうして今日のお見合いは事なきを得た。




 ジョン様はよく晴れた日にはくしゃみがとても出やすくなるそうだ。お見合いの直前に欠席なんて失礼すぎる、何としてでも行かなければ! と強い気持ちでの出席だったらしい。

 そして我慢に我慢を上乗せし、盛大なくしゃみを披露することになってしまったのである。


 いえいえ、そういう時は無理しないで~!

 口元を覆ってエチケットを守ってくれるのなら、気にならなかったのに。


 くしゃみは我慢しても出る時は出る。それが当たり前だもの。


 お相手はくしゃみを全力で抑える我慢大会。私は相手の様子が気になって集中力勝負……こんなお見合い嫌ですわー!


 話の合間のフンッスが気になって話の内容もお茶の味も、お見合い相手の顔すらなーんにも印象に残らなかった。

 結果、両親を通じてお互いご縁がなかったようですね、ということで話は流れた。




 後日、何度か特大のくしゃみが出てお見合いがまとまらなかったジョン様だが、ある晴れた日に何気なく街歩きをしている途中で遠方の令嬢と出会ったそう。

 そのままストーンッ! と恋に落ちて来年結婚予定らしい。

 お相手は器量良しの、きっぱりとした性格の令嬢で、街中で巨大くしゃみを放とうとしたジョン様を直前でアシストしたのが馴れ初めだそうである。




 私はというと、初回のインパクトが強すぎたので両親にお願いして、しばらくお見合いを休ませてもらった。

 ただ、ずっとこのままではいられない。


 半年振りのお見合いの席で出会った令息は話が面白く、食事の好みも同じで時間が随分と短く感じた。



 この方と長く一緒にいられたらいいなあと思っていたら、あれよあれよという間に婚約がまとまり、今は結婚式のドレス選びをしている。

 こんなに気の合う殿方と縁談が決まるなんて夢のようだわ。



 あの時、休まずにお見合いをして家同士の条件が合う方がいれば、今頃別の誰かと婚約していた可能性は高い。

 私が良縁を結べたのはある意味くしゃみのおかげ、なのよね。

 ジョン様もとっても良い出会いがあったみたいだし。



 くしゃみも良い仕事するわねえ!


 気分が高揚していた私は、庭に誰もいないのをいいことに声を張り上げた。



「くしゃみさーん!ありがとう!!」


 途端に少し離れた死角からへックシュンッ! と声がする。


 えっ、人がいたの!?


 飛び上がって、慌てて家に駆け込んだ。

 



 今日も雲一つない青空が広がっている。

 

 その下で、くしゃみを巡る素敵な出会いが繰り広げられている……なんてことがあるかもしれない。



 






 end

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