第23話:幽霊船の船長と、終わらない航海
氷壁を抜けた先は、荒れ狂う海だった。
私たちの乗るボロ船は、木の葉のように揺れている。
管理者の塔は、海の向こうの孤島にあるのだ。
「うぷっ……気持ち悪い……」
私は船酔いでダウンしていた。
詩篇姫は陸の生き物だ。海は苦手だ。
「しっかりしろココロン! 舵が効かない!」
アルト師匠が必死に舵輪にしがみつくが、波の力に勝てない。
このままでは転覆する。
その時、船の奥から豪快な笑い声が響いた。
「ガハハハ! 下手くそだな、若造!」
現れたのは、透き通った体の男。
この船の元の持ち主、幽霊船長だ。
彼は死んでもなお、愛船に憑りついていたのだ。
「お前、幽霊か!?」
「いかにも。……貸してみろ!」
船長はアルト師匠の手を重ねて舵を握った。
すると不思議なことに、船が安定した。
彼は波の読み方、風の掴み方を知り尽くしている。
「いいか若造! 波に逆らうな! 波と踊れ!」
「わかった! ……こうか!?」
アルト師匠は船長の指導で、みるみる操舵が上達していく。
二人は息ぴったりだ。まるで親子のように。
「へへっ、やるじゃねえか。……俺には息子がいたんだがな、海が嫌いで出て行っちまった。お前みたいな息子なら、楽しかっただろうな」
船長が寂しげに笑う。
彼もまた、未練を残して死んだ魂なのだ。
「俺が息子になってやるよ! この航海が終わるまでな!」
アルト師匠が叫ぶ。
船長は目を見開き、そしてニカッと笑った。
「よっしゃあ! 行くぞ野郎ども! 最後の航海だ!」
幽霊船は加速する。
大波をジャンプし、雷を躱し、一直線に塔を目指す。
私は船酔いと戦いながら、二人の背中を見守った。
死者と生者が手を取り合う。
それこそが、私たちが目指す世界の形なのかもしれない。
島が見えた。
船長は満足げに帽子を脱ぎ、アルト師匠に被せた。
「いい航海だった。……達者でな、息子よ」
船長は光となって消えていった。
船は静かに砂浜に乗り上げた。
私たちは帽子を胸に抱き、深く一礼した。
ありがとう、船長。あなたの魂は、もう嵐の中にはいない。




