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断罪される前に引退した悪役令嬢、王国の寿命を縮めてしまう

作者: ケイ
掲載日:2025/12/28

「アメリア・フォン・ローゼンベルク。貴様は数々の罪により」


王子の声が大広間に響く、その瞬間。


「あ、そこまでで大丈夫です」


私は一歩前に出て、にこやかに言った。


「長いので要約しますね。

・私が聖女様をいじめた

・王子様の評判を落とした

・学園の空気を悪くした。以上、全部“私が悪い”という話ですよね?」


伊達にネット小説を読み漁っていたわけじゃない。

悪役令嬢モノのパターンなら、すでに把握済み。


ふふふ。


もし転生したらと幾度となくイメージトレーニングしていた、わたし。天才。


ざわり、と貴族たちが騒めく。


王子は不快そうに眉をひそめた。


「その通りだ。自覚があるなら」


「では」


私は深々と一礼する。


「悪役令嬢、ここで引退いたします」


「は?」


「婚約は破棄。爵位は返上。断罪も追放も不要です。

こちらから消えますので」


聖女と呼ばれる少女が、はっと目を見開いた。


ああ、気づいたのね。


“悪役令嬢が断罪される前提”で成り立っていた舞台が、私の一言で崩れたことに。


〜〜〜


私はそのまま国外へ出た。

小さな港町で、名前を変え、静かに暮らし始める。


誰にも媚びず、誰にも命令されず、

帳簿も政務も、もう関係ない。


はずだった。


半年後。

王都から届いた噂話は、どれも予想以上だった。


聖女の奇跡はなぜか成功率が下がり、王子は政務を放棄。貴族たちは派閥争いを始め、税制は混乱。


「あれ?」


私、そんなに重要でした?


さらに一年後。

港町に、見覚えのある顔が現れた。


「アメリア様。いえ、元アメリア様」


かつて私を見下していた貴族の一人。

土下座寸前で、震える声を出す。


「王国は……もう、持ちません。貴女が調整していた予算も、人脈も、代わりがいなかったのです」


私は少し考えて、首をかしげた。


「それ、私の責任ですか?」


「いえ」


「ですよね」


私は笑った。


悪役令嬢は“憎まれ役”だった。

誰も感謝せず、誰も評価しなかった。


だから私は去った。

それだけの話。


「安心してください」


私は背を向け、穏やかに告げる。


「もう私は、この国の物語の登場人物じゃありませんから」


そして王国は、“悪役令嬢がいなくなった世界”で、

静かに、確実に、衰退していった。


〜〜〜


悪役令嬢が去った後、聖女は祈ることしかできなくなった


どうして、こうなったの。


聖女エリシアは、崩れかけた大聖堂で膝をついていた。

かつて奇跡を起こすたびに喝采を浴びた場所。


今は、誰も祈らない。


「癒やしの奇跡を」


祈っても、光は宿らない。

いや、正確には成功しない。


失敗が続く理由は分かっていた。


神殿の資金管理。

各派閥との調整。

貴族への根回し。


それらを、“悪役令嬢アメリア”がすべて裏でやっていたことを。


「彼女が、全部」


思い出す。

断罪の日、大広間で余裕の笑みを浮かべていた彼女。


あの時、引き止めるべきだった。


王子はすでに逃げた。

責任を押し付け合う貴族たちも、次々と国外へ。

残ったのは、“聖女”という肩書きだけの少女一人。


「神様。どうして」


答えはない。


神は沈黙し、代わりに現実だけが突きつけられる。


〜〜〜


その頃。


港町の小さな商会で、私は帳簿を閉じていた。


「アメリア様、今年の利益です」


「順調ですね」


私は微笑む。

ここでは誰も私を悪役と呼ばない。

ただの“やり手の女性”だ。


そこへ、一通の手紙が届いた。

王国の正式な印章付き。


帰国要請。


内容は簡潔だった。


『国を立て直せるのは、貴女だけだ』


私は読み終え、静かに紙を畳んだ。


「買い被りすぎです」


だって、私はもうあの国を救う義務のある人物じゃない。


手紙は、暖炉にくべた。


炎に包まれながら、

“最後の希望”は灰になる。


〜〜〜


数年後。


歴史書には、こう記された。


「ローゼンベルク王国。王子は行方不明となり聖女が祈ったにもかかわらず、緩やかに滅びた。原因は不明とされている」


不明?

いいえ。


原因は一つ。


有能な悪役令嬢を、悪役だと信じ切ってしまったこと。


私はその本を閉じ、紅茶を一口飲んだ。


「物語はちゃんと終わりましたね」


私の人生は、これから始まる。

悪役令嬢は、誰よりも自由な“主人公”になったのだから。

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