2 お友達。
教室に入れば、四方八方から刺さるような沢山の視線。
廊下を歩けば、ひそひそと囁かれる陰口。
教師にさえ無視される日々。
俺の居場所は、どこにもない。
そんな俺でも、ただ一人だけ、対等に話せる友達がいる。
伊鴨、勇寿恵。
俺と同じ一年で、「ただ亀を育てるだけ部」に所属しており、ちゃんと幽霊部員だ。
だが顔とか人柄は意外とよくて、女子からも結構人気があるらしい。
バレンタインにはチョコを二桁ももらっていると、自慢気に話していた。
俺とはほぼ正反対。
暗浦という少女を助けてから、もう数週間がたった。
あれから一度も会っていない。
ちょうど今、どうすればあの子にまた会えるか、勇寿恵に相談してる最中だ。
「お前、人の金だからって学食で一番高いやつ頼みやがって。しかも名前も聞いたことない定食…。」
「鴉がなんでもいいって言ったんだろ」
そう言って勇寿恵は学食で一番高い、グルヌイユ定食を口にする。
……グルヌイユって、カエルだよな。
こいつ、どんな舌してんだ。
俺は、自分のバクテーをスプーンでかき混ぜながら、呆れた目で勇寿恵を見た。
「で、話ってなんだい?いつもの陰鬱な話なら聞かないからな」
「今日は違う。」
俺は勇寿恵に先日あったこと……人通りの少ない路地で少女を助けたこと、彼女が律儀にお礼を言おうとしてくれたことを勇寿恵に話した。
「……。お前、連絡先くらいは聞いとけよ!」
「あ、その手があったか……ってか、ケータイなんか持ち歩いてないし無理でした。」
「鴉、流石にスマホくらいは持ち歩いとけよな。」
勇寿恵は呆れたように大きなため息をついた。
人の前でクソデカため息つくなよ、とツッコミたくなったが、言っても無駄だと分かっているのでやめとこう。
「その女の子の名前、なんていうんだ?」
勇寿恵はその名前を聞いた瞬間何かを考えるように眉をひそめた。
そう呟き、彼は自分のスマホを手に取ると、熱心に画面をスクロールし始めた。
こいつはケータイ使いこなしててすごいな。俺はガラケーから乗り換えたばかりで、機能をほぼ知らない。
思い当たる節があるかのように、視線を泳がせながら、小さく首を傾げた。
「暗浦四鈴……。ああ、そうか」
やがて何かに納得したように、小さく頷いた。
「その暗浦って子、この学校の生徒だぞ。」
「マ?」
俺が思わず顔をしかめると、勇寿恵は頷いて話し始めた。
「たしか、保健室で見たことある気がする」
勇寿恵の言葉に、俺は一瞬、心臓が跳ねた。まさか、そんな偶然があるのか。
「保健室?」
「不登校の子って、たまに保健室登校してるだろ。名簿にも名前あるし、先生に聞けば何かわかるかもな」
「分かった。聞いてみるわ。」
そう言って俺は席を立ち、勇寿恵の驚いた顔を後に食堂を出た。