1 美少女。
俺、朝炭 鴉は今日も学校をサボっていた。
いつも通り、出席だけ取って学校を抜け出す。
最初の方は教師に見つかって怒られていたが、最近は抜け出すのが当たり前になって、注意すらされなくなった。
理由なんてない。
教室にいても、他の奴らに睨まれ、廊下を歩いてると陰口を叩かれる。
教師からもあまり良く思われてないのかよく無視される。
だったら、街を歩いてる方がマシだ。
飴を舐めながら、いつもの路地を抜ける。
飴には気分転換の効果があるらしい。
そのお陰か、舐めてると心の何かが溶けていく感じで落ち着く。
曇った空。
今日の天気予報は雨だったっけか。
人通りの少ない商店街。
俺は人が嫌いだ。
人と話したりしていると気分が悪くなる。
だが、誰もいない場所なら落ち着く。
だから、よく人通りの少ない場所に行く。
そのときだった。
路地の奥で、男たちに囲まれている少女がいた。
黒髪で、怯えた目。
逃げようとしても、足が動かないらしい。
男たちはいかにもDQNって感じがする。
まあ、金髪で目つきが悪いやつに言われても説得力がないかもしれないが。
俺は、気づいたらその場に割って入っていた。
無意識のうちに少女を庇うように前に立つ。
男たちは一瞬、俺の顔を見て黙った。
まるで、腹をすかせたライオンを見るような目で。
「……あ、お前、」
小声でそう言って、舌打ちしながら立ち去っていく。
俺は何も言ってない。
ただ、立っていただけだ。
(……なんだ、睨んだから逃げたのか?)
冷たい風が吹き、一粒の水が肌を伝った。
雨、家に帰るか。
そう思い、少女をひと目見て足を動かした。
少女は金髪のロングヘアで黒い宝石のような目をしていて、足がピクピクと震えている。
黒いパーカーを羽織って、容姿端麗で、文句無しの美少女だ。
黒いパーカー姿は、まるで自宅警備員みたいだ。
服に興味がないのか、それとも外に出る気がなかったのか。
正直、勿体ないと思った。
俺は、その場を立ち去ろうとした。
「あの、待ってください。その……、助けてくれてあぢがとうございま……」
焦ったように、でも必死にそう告げる彼女の姿に、俺は少しだけ足を止めた。
少女は自分が舌を噛んで言い間違えたのを気づいたのか、恥ずかしそうに顔を赤面させ、モジモジしている。
普通に可愛い。
「暇だったからな。」
「あの、お礼……させて、ください」
「いやいいよ、お礼なんて。」
「でも……」
この少女は律儀な人なのかもしれない。
そう思ったとき、脳裏に父の顔が浮かんだ。
…俺の親父も律儀で義理堅い人だった。
そのせいで、母さんにも浮気されて、バカな人だ。
「じゃあ、君の名前教えてよ。」
「名前、 暗浦…四鈴、です…。こんなのでいいんですか?」
「ああ、それで十分。」
そう言うと少女、暗浦は少しだけ笑顔になった気がした。
再度、肌に雨粒が滴った。
今度は何粒も、
「あの、名前……聞いてもいいですか。」
「朝炭、鴉。…雨降ってきたから早く家に帰ろよ」
「……はいっ」
少女は路地を抜けおぼつかない足取りで去っていく。
雨が強くなってきた。
…雨宿りがてらゲーセン行くか。
……。
それにしても、可愛かったな。
彼女と話した数分で疲れが吹っ飛んだ気がした。
しかも自然に話せた。
人と自然に話せたのは何年ぶりだろうか。
小学校以来だと思う。
また会えっかな。
◯◯◯
昨日の雨は、朝にはすっかり止んでいた。
俺は今日も学校をサボっていた。
いつも通り、出席だけ取って、校門を抜ける。
昨日のことが、頭から離れない。
金髪で、黒い目の少女。 舌を噛んで「ありがと」と言った少女。
暗浦 四鈴。
名前を聞いただけなのに、なんでこんな頭に残ってるのだろうか。
飴を舐めながら、昨日と同じ路地を抜ける。
もしかしたら、また会えるかも…そんなことを考えてる自分が、ちょっと気持ち悪い。
でも、
その路地の先に、誰もいなかったとき、 少しだけ、がっかりした。
Thanks!