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断罪を前にした令嬢はそれでも彼を信じている

作者: ぼたもち


 重厚音と共に、鎌が数字の並ぶ机へと突き刺さった。

 

「俺はレティが断罪される方に賭ける」


 顔をフードで隠した黒服の男は、想像した通りの死神だ。

 彼と机を挟んで、礼儀正しく背を伸ばして座る十代後半の令嬢は、潤いのある小さな口元にキュッと力を加えた。

 瞳に合う緑色の小さな宝石を強調するネックレスが、伯爵令嬢レティシアの胸元で光を反射して輝く。

 だが、その輝きよりも強い熱と光を放つ物が、彼女の前でユラユラと揺れていた。

 彼女の体から一筋の糸で繋がっている人魂――それは正真正銘『レティシアの魂』だった。


「……私はアルヴェ王子を信じています」


 彼女の意志に呼応する様に動いたレティシアの魂は、彼女が断罪されない未来へと賭けられた。

 その答えを聞いた死神は、つまらなそうに机と魂の幻影を解いた。

 外から差し込んだ光で、レティシアの瞳孔が狭まる。

 ガラガラと鳴り始めた音は、2人が馬車に乗せられて学園を目指している事を思い出させた。

 死神は窓から覗く景色を眺めながら黄昏る。

 男は諍いの声に似合わない整頓されたレンガ調の建物の数々に目を細めて、溜め息を付いた。


「約束通り、俺がこの賭けに勝ったら魂は貰い受ける」


 レティシアは緊張した顔で頷いた。

 死神の周りに漂う複数の人魂は、白っぽい輝きを放っている。

 フードから覗く男のジト目が、レティシアを恐怖に陥れたが、彼女を助ける護衛は傍に居ない。

 伯爵令嬢にも関わらず民間の馬車に揺られる彼女は、家族からの支援が無い事を知らしめた。

 サイズの合わないドレスは、学園に入学した時から着続けている古いもので、本来は癖の無い髪も、寝不足と栄養不足で好き放題にはねている。


「そんな恰好じゃあ卒業式に合わないだろう」


 レティシアの身なりを案じた死神が、彼女に指を指した。

 顔に何かが付いているのかと勘違いした彼女がおでこに手を添えた時、彼女の全身を黒い煙が包んでその姿を隠す。

 そして、煙が空へと還った後には、見違えるほど美しい女性が不似合いな馬車の椅子に腰かけていた。

 だが、レティシアがその変貌よりも先に心配したのは、首に下げたネックレスだ。

 手に当たる固い感触と、目線を下げてやっと見える小さな宝石。

 ドレスが変わっても留まるネックレスに安堵した彼女は、死神に向き直って頭を下げた。


「ありがとうございます。死神様」


「フン、死神に礼を言う奴があるか」


 足を組み直した死神は照れ臭そうに顔を背けた。

 馬の蹄の音の間隔が次第に狭まり、目的地に近付いた事を感づかせる。

 外からはザワザワと人々の囁く声が聞こえた。


「あら、垢染みレティのお通りよ」


「今日も見窄(みすぼ)らしいお気に入りのドレスを着ているのでしょうね」


 目を伏せたレティシアは恥ずかし気に頬を染めた。

 姿を消した死神が先程まで居た空間に目を上げて、背筋を伸ばす。


「大丈夫よレティ。アルヴェ王子は私を愛してくださるわ」


 そう自分に言い聞かせたレティシアは、歓迎されていない卒業式に会場へと足を踏み出した。


 ――――――――――――――――――――


 騒音が耳に付くのは、彼女がその渦中に晒されているからだろう。

 気慣れていないドレスの糊で、身動きが取り辛いのだと言い訳をして歩みを進めるレティシアを、人々が囲んで睨み付ける。

 彼女に寄るのも汚らわしいと、一定の距離で囲む貴族たちは決まって階段の上を見ていた。

 レティシアを見下ろす形で仁王立ちしている男は、彼女の婚約者であるアルヴェ王子だった。

 彼の隣で、わざとらしく涙を浮かべて肩を抱かれているのは男爵令嬢のアリーナ。

 白色のドレスを身に纏う彼女は、レティシアを差し置いて王子の婚約者の様に振舞っている。


「ご機嫌麗しゅう存じます。アルヴェ王子」


「ほう、私の機嫌が良いと言うのか」


 レティシアの挨拶に腹を立てたアルヴェが舌打ちをした。

 作法に失礼があったのかと目を泳がせるレティシアを嘲笑うアリーナは、勝ち誇った卑しい笑みを浮かべている。


「アル、レティシア様にも慈悲が必要ですわ」


 婚約者を差し置いて王子を愛称で呼ぶ娘を、誰一人として咎めない。

 そんな中、レティシアは彼女の無礼さを指摘しようと口を開いた。


「アリーナさ」


「いやああ、レティシア様が私を悪く言うのよ!」


 言葉を一言発するよりも先に、アリーナがひどく怯えた様子で王子の胸へと顔を埋める。

 何を言っているのかと不思議がるレティシアを更に強く睨み付けたアルヴェは、大声でレティシアを罵倒した。


「この不届き者が!私のアリーを傷つけるな!上質なドレスで着飾って、それは何処から盗んできたものだ。どうせまたアリーから盗ったのだろう」


「わ、私は何もしていません……」


 強い言葉に委縮したレティシアは、震える手を口元に運ぶ。

 死神に用意して貰ったなど、浮世離れな発言も出来ないレティシアは、言い淀んで唾を飲み込む。

 言い訳の言葉も用意できない伯爵令嬢を、取り囲んだ貴族たちが嗤う。


「アリーナ様が可哀そうだわ」


「レティシアには垢染みがお似合いよね」


 ステレオの如く響くレティシアへの悪口は、彼女の呼吸を加速させた。

 それを落ち着かせるためにレティシアは、お気に入りのネックレスを握りしめる。


「おい!ルーカス!そいつを拘束しろ!武器を持っているかもしれない」


 レティシアの動きを敵意とみなしたアルヴェ王子は、近衛兵に彼女の腕を拘束させた。

 嫌がる彼女はその勢いで、朽ちたネックレスの紐を地面へと落とす。

 コツコツと鳴り響く踵の高い靴の音にレティシアが顔を上げると、目の前にはネックレスを拾い上げるアリーナの姿があった。


「何この汚い宝石」


 泥に汚れた宝石を汚らしいとつまむ彼女は、それを地面へと放り投げる。


「い、いや!それは私がアルヴェ王子から頂いた宝石なのです!返してください!」


 涙を浮かべて喚くレティシアを気に入ったのか、アリーナが王子から見えない角度でニヤニヤと彼女を見下す。

 次の瞬間には顎を引いて目をウルウルとさせたアリーナが、アルヴェ王子へと振り返ってその体に抱き付いた。


「アルがそんな質素なもの送るはず無いわ。私には大きくて素敵な宝石を送ってくださったもの」


 胸元にある巨大な宝石を自慢げに見せびらかすアリーナの横で、アルヴェ王子が記憶を辿って考え込む。


「私がお前に物を渡した事はない。他の男からの貢物と勘違いしてるんだろう」


 そう言ってアルヴェ王子は、レティシアの大事なネックレスを踏みつぶす。

 劣化した小さな宝石は、砕けて石造の床の隙間へと嵌まった。


「そ、そんな……」


 砕けた思い出に寄り添うことも出来ずに、両腕を拘束されたレティシアは頬を濡らす。

 シクシクと泣く彼女に追い打ちをかけるように、拘束の手はレティシアを強く引っ張った。

 複数の兵士に体の自由を奪われたレティシアの顔に、アリーナが手近なグラスの飲料をぶちまける。


「貴女のドレスを身の丈に合わせてあげたわよ」


 死神から借りたドレスが、赤色に染みて彼女の全身を濡らした。

 クスクスと嗤う周りの声が次第に大きくなり、新しい主――アリーナを祝福した。

 それとは対照的に嗤い声から遠ざかるレティシアは、暗闇へと消えていく。


「今日は、アリーとの婚約発表だ!」


 遠くで聞こえたアルヴェ王子の明るい声は、破棄もされていないレティシアとの婚約を嘲笑している様だった。


 ――――――――――――――――――――



「もう、お前の負けでいいか」


 レティシアが幽閉された地下牢の中に現れた死神が、彼女の腕の拘束具を取りながら話しかける。

 鍵が無ければ開かない手錠をいとも簡単に外した彼は、彼女の濡れたドレスを一吹きで新調した。

 

「……いいえ、まだ私とアルヴェ王子の婚約は続いていますわ」


 強がる彼女に掛ける言葉を探して諦めた死神は、彼女の隣に腰かけた。

 簡素な牢獄は、貴族が本来立ち入ることの無い空間だ。

 冷たい石に体温を奪われながら、レティシアは膝を抱え込んだ。


「王都ではお前の悪事が捏造されて触れ回ってるぞ。血縁もレティとは関係ないと縁を切っている」


 レティシアは家族の行動を想像して、苦笑いをする。

 彼等はいつだって自分の利益を優先するから、そうなるだろうとは予想していた。

 レティシアが家から敬遠され始めたのは、彼女が改革の為に国民への施しを行い始めてからだ。

 国が大きく傾き、王族・貴族から搾取された国民たちが、怒りの矛先を戦争と言う形に変えようしている。

 その画策を阻止するために動いたレティシアは、多くの貴族から嫌われて迫害された。

 が、彼女は周りの目を気にせずに、飢えた民に生活の知恵を分け与えて土地を分配した。

 しかし、貴族を疎む国民はレティシアの功績を「貴族の気まぐれ」と称して決して味方をしない。

 この国には彼女を守る者は存在しない。


「……処刑の日取りが決まったらしい。俺はいつでもお前の魂を刈り取れるから、気が変わったらいつでも呼べ」


 素っ気ない言葉を残して、死神は姿を消した。

 残されたレティシアは、柵から差し込む月明りを見て何を思うのだろうか。


 ――――――――――――――――――――


 ガラガラと鳴る重たい開閉音に、地下室へと続く扉が解放されたのだと気付いたレティシアは顔を上げた。

 数か月放置されたレティシアは、紛れもない罪人として初めから地下牢に居たかのような汚さだ。

 コツコツと鳴り響く踵の高い靴の音は、聞き覚えのあるアリーナの足音だ。

 牢屋に辿り着いたアリーナは、以前にもまして装飾品に包まれた体でレティシアを見下している。


「ご機嫌よう垢染みレティ。今日が何の日がご存知かしら?」


 アルヴェを連れていないアリーナは、その醜悪さを隠すことなく牢屋の柵へと蹴りを入れた。

 静かな地下に響く金属音が、レティシアの耳の奥に響いて不協和音となる。

 アリーナの言いたいことを察したレティシアは、彼女の望み通りの言葉を紡ぐ。


「……今日が私の処刑日なのですね」


「あっはは、その足りない頭でも分かってるじゃない」


 腹を抱えて笑う悪女を前にしても、レティシアの態度は揺らがない。

 レティシアはアルヴェが間違いを認めて、自分を助けてくれると信じていた。


「アルヴェ王子は……」


 縋る思いで彼の名前を出したレティシアに、アリーナは唾を吐いた。

 男爵令嬢の不躾な態度から目を離した兵士は、牢屋の鍵を開いてレティシアを鎖で縛る。

 牢屋に入ることを嫌ったアリーナは、柵から連れ出されたレティシアの頬を掴んでこう言った。


「アルは私の旦那様になったのよ。これもぜーんぶ貴女のおかげ。無能で愚図な婚約者だったから私の玉の輿が叶ったの」


 掴んだ頬を引き千切る様に下へ取り払ったアリーナは、跪いたレティシアの後頭部を踏みにじる。


「死んでくれてありがとうレティ」


 初めて聞いた彼女の優しい言葉は、呪いの様にレティシアの耳にこびり付いて離れない。

 高笑いを上げたアリーナは汚い地下室からさっさと逃げ出そうと、踵を返して立ち去った。


「アルヴェ王子は私を選んでくれるわ……」


 レティシアのうわ言は、誰の耳にも届かずに世界から消えた。


 ――――――――――――――――――――


 ザワザワと騒がしい広場の言葉は、当然の様にレティシアへの罵倒を含んでいる。


「――国家転覆を企てた首謀者として、元伯爵家のレティシア・レイラックを斬首刑に処す」


 長い挨拶が終わり、遂に主役のレティシアが断頭台へと引き摺られる。


「あれが世紀の悪女の顔か」


「これで少しは生活が豊かになれば良いわね」


 国民の嫌悪と疑念の狭間で、泥の様に重たい頭を木製の木枠に嵌めたレティシアは、そこでようやく周りを見渡した。


「……アルヴェ王子?」


 レティシアを囲む国民から遠く離れたその奥に、彼女の最愛の男が足を組んで座っている。

 絢爛豪華な装飾の馬車の前で、情景にそぐわない煌びやかな椅子に腰かけた夫婦がレティシアを嗤っていた。

 あれは紛れもなく彼女が愛した婚約者――アルヴェ王子その人だった。

 隣に座るアリーナは、幸せそうに頬を赤らめている。

 醜悪な彼女には似付かわしくない、恋をする乙女の顔だった。

 

「……そんなに距離が離れていては私を助けることが出来ませんよ」

 

「最後の言葉を言え、大罪人!」


 レティシアの絶望に満ちた言葉を、執行人が掻き消した。

 執行人の大声を聞いた民衆は静まり返って、レティシアの最後の言葉を傾聴する。

 死神が上空から飛来して、レティシアの前で立ち止まった。

 レティシアの目と鼻の先に居る彼を、数人の老人が目撃した。

 が、その驚きの声はごく少数で、誰の気にも留められない。

 反応の無い周りが当然だと言った態度で、死神は鎌を持つ手に力を入れている。


「俺が刈り取れば痛みはない。……レティ、もう結果は出ている」


 処刑される当人と同じくらい苦しそいな表情が、フードの隙間から覗く。

 用意されたギロチンの刃が、今すぐにでもレティシアの体を蝕もうと錆び付いた音を奏でる。

 最後に、レティシアは死を悼む死神に微笑んだ。


「……私は、私はアルヴェ王子を信じています」


 死神が視線を遮るその奥。

 アルヴェ王子ならきっと自分の死に涙を流してくれる。

 そう信じるレティシアの意識は、そこで途絶えた。


 ――――――――――――――――――――


 少女の手を取る青年は、彼女をアイリスの花畑へと案内する。

 

「俺さ、レティに似合う宝石を見繕ったんだ」


 真っすぐ少女を見つめる青い瞳は、彼女を最高のレディとして扱った。

 青年のポケットから取り出された、小ぶりな緑の宝石を見た少女は目を輝かせる。


「ありがとう、アル。一生大事にするわね」


 満開の笑顔で青年に抱き付いた少女は目を瞑り、思い出の中で眠る。

 

 ――そうして、胎児の様に丸まって夢を見ていたレティシアは、永い眠りから目を覚ました。

 

 雪の様に白い空間では、町の情景が曇ったレンズ越しの様に映っている。

 冷気が漂う広大な土地は、現世とは離れた特別な場所なのだろうとレティシアは思った。

 彼女へ背中を向けた死神は、燃え盛るその町を眺めていた。

 国民が殺し合い、身なりの良い娘たちが奴隷の様に鎖に繋がれてどこかへと連れ去られている。

 

「……悲惨ですね。どこの国の景色でしょうか」


 レティシアは死神の背後に立ったまま声を掛けた。

 彼女が目を覚ましたことに驚いた死神は、急いでその風景を隠す。

 気まずそうに頬を掻く死神の目前に立ったレティシアは、改めて彼の顔を覗き込んだ。

 フードの奥に隠される顔は、想像していた堅物な印象とはかけ離れて、長い睫毛に優しそうな目元をしている。

 懐かしさを覚えるその目尻に手を伸ばそうとしていると、低い声が響いた。


「お前には関係のない国だ」


 見た目とは相反してキツイ言葉を投げる死神は、レティシアを気遣って座らせる。

 何も無かった空間に魔法の様に現れた椅子は、彼女が幼少期に愛用していたガーデンチェアに類似していた。


「……私は断罪されました。約束通り、私の魂を好きになさってください」


 意地を張り続けたレティシアの人生は、最悪の形で幕を閉じた。

 凛とした態度を取りつつも、その頬から一筋の涙が流れる。

 それを見た死神は慌てて彼女の手を取って、パチンと指を鳴らした。

 彼にとって空間を操ることなど、容易いのだろう。

 足元から咲いたアイリスの花は、白濁した辺り一面を彩り、レティシアの死を祝福するかのように咲き誇る。


「死んでくれてありがとうレティ」


 アリーナと同じ言葉にも拘らず、死神から発せられた言葉はレティシアの胸を熱くさせた。

 真っすぐ自分を見つめる熱の篭った青い瞳に、慣れないレティシアは視線の行き場を失ってパチクリと瞬きをする。


「『死んでくれて』なんて、酷い言葉を選ぶのですね」


 苦笑いをするレティシアの手を離した死神は、そうだなと笑う。


「俺は身勝手な男だからさ。死んでもレティを諦めきれなかった。……もう、死神の真似事は止めようか」


「……え?」


 男は黒いローブを脱ぎ捨てて、騎士の制服を露にした。

 レティシアは彼の素顔を見て息を呑む。

 そして、彼女は重大な勘違いをしていた事に気が付いた。

 

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 レティシアを見初めた当人である青年は、嘗ての第一王子であったアルネ・アノ―ルベルト。

 戦の最前線で亡くなった彼は、当時の面影を残したままレティシアを見つめる。


「俺がレティを妻にしたいと願ったばかりに、伯爵家のお前を王子の婚約者として縛り付けてしまった。本当にすまなかった」


 レティシアの前で跪く騎士の周りで、浮遊する人魂が彼と同じくレティシアへと謝罪する。


「ごめんなさいレティシア様。我々が王子を守れなかったばかりに」


「アルネ様はずっとレティシア様を気に掛けておられました。どうかお嫌いにならないでください」


 人魂は嘗て彼に仕えた部下なのだろう。

 アルネを気遣うその言葉にレティシアは頷いた。


「いいえ、悪いのは私よ。アルネ様の死を受け入れられず、アルヴェ様を代わりの様に扱った私の方が罪深いですわ」


 アルネの訃報を聞いた幼い頃のレティシアはその現実を受け入れられずに、彼の存在をアルヴェと書き換えていた。

 大きな矛盾を抱えたその思いを知っているアルヴェが、レティシアを愛さないのは当然の事だった。

 罪深いレティシアは失ったネックレスを握りしめて、その手を開いた。

 言わずもがな、その手のひらには何もない。

 

「……これから私はどうなるのでしょう」


 最愛の人と再会を果たしたレティシアは、アルネの傍によって彼を見上げる。


「レティが許してくれるのなら、次の人生こそ俺と結ばれて欲しい」


 アルネの指し示すその先には、光に満ちた神聖な空間が広がっている。

 レティシアは直感的に、輪廻転生がそこで行われると感じた。

 

「ええ、勿論。今度は絶対に貴方を見失わないわ」


 力強い言葉を残したレティシアは、アルネと手を合わせてその世界へと足を踏み入れた。

 国の為に命を張ったアルネと、国民の為に改革を推し進めたレティシア。

 彼等の来世はきっと祝福に満ちているだろう――。

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