記憶①
派手な衝突音が響いた。
アスファルトに叩きつけられ転がると
空しか見えなかった。
そこへ、
「おい、大丈夫か!?」
男の人の顔が割って入った。
それから次々と、沢山の人の顔が割って入ってきた。
身体中が痛かったが、左足が特に酷かったから
ゆっくり顔をやった。
左足は自分のバイクの下敷きになっていた。
アスファルトに血が流れている。
その向こうに、後部の荷台を少しだけ凹ませた
2tトラックが見えた。ああ、ぶつかってしまったんだ。
「い、今救急車呼ぶからな!」
男の人がスマートフォンを取り出してくれた。
他の人たちはバイクを持ち上げ、左足を
引き摺り出してくれた。
朦朧としていた意識が更に混濁してきた時、
けたたましくクラクションが鳴り響いた。
そっちに目をやると青いミニバンの運転席から降りた
女の人が駆けてくるのが見えた。
けど彼女はこちらに目もくれず、自分の脇を
駆け抜けていった。
家にいたくなかったから外に出た。
松葉杖をついて歩くのは大変だったけど。
しばらくはこれが必要だとお医者さんは言った。
そして、、、必要にならなくなっても後遺症は残るという。
自業自得だ。特に何も思わなかった。
ふと目をやるなり、足を止めた。
視線の先に女の人がいたからだ。
あの時見た彼女は、目の前の青いミニバンを見つめていた。
凄く悲しそうな眼で。
不意に罪悪感に襲われた。その時は理由はなかった。
やがて、彼女はミニバンを離れ、自分のいる車道の方へ
向かってきた。
慌てて電柱の陰に隠れると、彼女は車道を渡り、
向かいにある建物へ入っていった。BARの様だった。
しばらく見ていると背後から
「何してんだ?」
声がしたから振り返ると初老の男の人が
目の前に立っていた。