一を聞いて欲を知る
☆登場人物図鑑 No.9
・『ヴィルハーツ・フェルヘンミュラー』
ラヴァスティ所属/??歳/188cm/86kg/欲『???』
ラヴァスティという連合国の最高司令官。長く伸ばした赤い髪でポニーテールを作るイケおじ。煽りカス。好きなことは政治と言葉遊び、読書、部下達とのコミュニケーション。苦手なものはお酒と環境の変化、過去の自分、リグレッド。
欲は持っているようだが、今のところ不明。使わないでもクソ強い。特筆すべきは近接戦闘の強さであり、彼に敵う者はそう居ない。リグレッドとは旧知の中。
「ええいっ!!離さんか!!」
「だ〜から、そういう訳にはいかないんですよ。ちょっとは落ち着いてください」
「バカ申せッ!!どこからともなく敵襲があったかと思えば、今度は地震など引き起こしおってからに!!己の国で好き勝手した不届きもの共へ直々に制裁を与えに行くのじゃ、離せい!!」
暴れる女児を宥めるチャラい見た目の男。
これが繰り広げられているのはリュミストリネ城のだだっ広く、豪勢なエントランスホールであった。
ところがこんなにも広いのに、見えるのは二人だけ。他に人の気配も無い。
先ほどから大きく揺れ続ける地面の影響で飾ってあった絵画や高価そうな壺はのけ並み落下し、頭上高くのシャンデリアも大きく左右している状態だった。
そんななか男は、外へと繋がるこれまた大きな扉に向かおうとする女児を力づくで制止しながら言った。
「皆、姫を守るために敵勢掃討へ出払ったんですよ?今貴方が出て行ってしまったら彼らの努力を踏み躙ることになるんです、なんとか留まってください」
「そういうことなら初めから主が向かえば良かったであろう!?この国では主が一番強い。出るやも知れぬ犠牲を最小限に抑えられたはずじゃ、違うか!?」
女児にリュミストリネで一番強い、と言われた男は溜め息を吐いて答えた。
「ハァ....まぁ違わないんですが、違います」
「む?からかっておるのか?」
「いやいや、それこそ違いますって....やっと話を聞いてくれそうですね」
男の言葉遊びにまんまと乗せられた女児は、一旦暴れるのを辞める。
そこへ男はすかさず、解説を差し込む。。
「いいですか?情報に依れば、敵勢はローツェン・クロイツ国所属の幹部相当ばかりらしいです」
「ぬ、ローツェン・クロイツだと?しかしあれは己が幼き頃に他国と合併し、今は『ラヴァスティ』なる連邦の名を名乗っているのでは無かったか?」
「その通りです。さっすが姫さん、勤勉ですねぇ?」
「茶化さんで続けいっ!!」
男はどーどーと『姫さん』を抑えながら続けた。
「ですから正確にはローツェン・クロイツの元幹部達がこのリュミストリネを襲撃したことになりますが、こ〜れがマズい」
「もったいぶらんでよい、早よ教えんか!!」
「・・・」
男は先を急く姫を、今度は宥めようとはしなかった。代わりに、やけに神妙な面持ちで姫の瞳を覗き込んだ。
「むぅ....」
これが余程珍しいことだったのだろう。
威勢の良かった姫は只ならぬ雰囲気を感じ取り、固唾を吞みつつ聞く体勢を整えた。
「構わんでよい」
「それでは。・・・リュミストリネ国の先代王女であったメアリテ様とその王配のリオ...ネルク殿下、つまりは姫さんのご両親を殺したのがこいつらだからです」
「ッ!!?」
衝撃の事実を聞かされた姫は大きく目を見開いた。
一瞬言葉を失った彼女だったが、到底納得のいく話では無かったようで__
「し、しかしッ!!己が五つの時、主は言っておったではないかッ!?母上は病死、父上は戦死であったと!!」
「・・・嘘です、全部。・・・貴方が女王に即位するその時まで、黙っているつもりでしたが....」
「ッ......!!」
あわよくば、と思ったのだろう。
姫は両親が死んだことに対して、もとい『聞かされていた死因』については既に納得をしていた。乗り越えていたのだ。
ところが今までそうだと信じていた事実が偽りであり、その上誰かの手によって殺されていたとなると当然話は異なる。
また両親の死に向き合わなければならない。
殺した相手を憎み、復讐に手を染める思考が自然と湧いて来てしまう。
これが恐ろしかった。
姫が赤ん坊の頃から側に付いていた男には、そのような心情が見てとれた。
一分ほどの沈黙が流れる。
この間にも、まるで揺いだ心の整理を邪魔するかのように地面も大きく揺れ続けた。
すると一言__
「・・・続けい」
「・・・はい?」
「己の両親を手にかけたのがローツェン・クロイツの幹部共だとして、それの何がマズいのか。何か理由があるのだろう、その説明がまだである」
「えっ....ええ。それはそうですが....」
姫の毅然とした態度に、男は呆気にとられたように聞き返す。
「だ、大丈夫なんですか.....?結構、重大発表なつもりだったんですが....」
「大丈夫なわけが無かろう....しかし、だ。それはたかが己個人の感情である。・・・後にリュミストリネを統べる女王となる己が何よりも優先すべきなのは、愛する民と身を削って戦う臣下達を守ること。今は一刻も早く、そして最低限の被害でこの事態を収拾すべきであると、違うか?」
「・・・姫さん」
「両親の死を嘆くことも、仇を恨むも、主の吐いた嘘を咎めるも後でなら存分に出来よう。だが今手をこまねいて全てを失ってしまえば、それすらも叶わんだろう。さぁ、とっとと教えぬか?」
姫から出た思いもよらない言葉に、男は少し涙ぐんだ声で言った。
「全く.....ついこの前までおねしょをしていたかと思えば、いつの間にこんな....」
「ッ!!?だから茶化すのではないっ!!時間が無いのだ、端的に申せ!!」
「・・・はい」
すると男は跪き、ラヴァスティの陰謀についての見解を述べるのであった。
自身が仕えるべく女王に対して。
「仰せのままに__」
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半壊する市街地を颯爽と走り抜ける二つの影。
否、よく見れば一つの影に抱えられているもう二つの影があるので四つと表すべきか。でも走ってるのは二人だし....。
一見、抱えられているだけなので楽そうであるこの二人だったが、一行の中で一番深刻そうな顔をしているのもこの二人であった。何があったのだろうか。
「・・・ボクらが生きるか死ぬか。そのキーパーソンになるんは氷戈、自分やで?」
「・・・は?」
突然、リグレッドに重大すぎる役割を担っていると告げられた氷戈は素っ頓狂な声を上げて聞き返す。
「な、何言ってるんですか?確かに何か役には立ちたいですけど、そんな無理やりにふってもらわなくても.....」
リグレッドはこれに目を丸くして答える。
「?・・・何言うとるんや、無理やりも何もこれは自分にしか出来へんことや。むしろやって貰わんと困るで」
「俺にしか....出来ないこと....?」
いまいちどころか、全くしっくり来ていない氷戈を見たリグレッドは笑って言った。
「ま、そないな反応になるんも仕方あらへん。まだ何にも知らへんってことやもんなぁ?」
「・・・?」
「よし分かった。ほんなら今、ちょうど話しやすい構図やしな。説明したるわ」
「説明....?」
「気になっとったやろ?シール貼っつけただけのフィズが、一瞬で治った理由」
「まぁ、そうですね....」
『話しやすい構図』とはいっても、フィズの両脇に抱えられている状態の男二人が顔を向かい合わせにしている状態なのでなんともシュールな構図である。普段の氷戈であれば恥ずかしさで目を逸らしてしまっているであろうが、状況が状況なだけに真面目に耳を傾ける。
「時間も限られとるしかなり掻い摘んでいくで?・・・自分やったらそれでも理解できるやろうし」
「?」
「ほなまず、『欲』の説明からや。『欲』と書いて『カーマ』と読む」
「カーマ....よく.....。ええっと、『よく』って食欲とかそういう...?」
「せや。ほんでこの欲っちゅうんは、ざっくりそいつが持つ特殊能力と理解してもろてエエ」
「・・・」
-なるほど、よくある異能力アニメの世界線か....。凡そ予想通りというかなんというか。そしたらフィズさんがすぐに回復したのもシルフィさんのカーマが単に回復系の能力だったからだと説明出来る-
異世界適応レベルMAXの氷戈は例の如く、思考を二歩三歩先へ一人歩きさせる。
しかし今回はこれが仇となったようで、リグレッドはそんな氷戈の心を見透かしたかのように言う。
「先言うとくと、シルフィのカーマに回復能力はあらへんで?」
「んえッ...!?」
氷戈はまたしても変な声を出す。
自分の考察が外れると思っていなかったのもあるが、心を読まれた驚きの方が大きかった。
「シルフィのは『対象となり得る事象をシールに封じ込め、コピー出来る』っちゅうもんや」
「し、しーる?」
「せや?まぁカーマの解説には向いとらんややこい能力なんやが、『シルフィ=シールの人』って韻踏める部分はポイント高いなぁ?」
「死ねな?『点炎』」
リグレッドの下らないジョークを走りながら聞いていたシルフィはノータイムで何かを唱える。
ボワっ!!
するとシルフィの片手に野球ボール程の火の玉が生成され、これまたノータイムでリグレッドの顔面目掛け投球したのだった。
「ちょッ!?フィズ避kギャァアアア!!!!」
氷戈の真横で断末魔と香ばしい音が鳴り響く。
次に目にしたリグレッドの顔は程よくこんがりと焼けており、それを見たフィズは笑いながら言った。
「はっはッハ。火を避けて水に陥る、ってリグが教エテくれタんじゃなイか?」
「ゲホッゲホッ.....。なしてこないな時だけ一言一句違わず覚えとんねん自分....」
咳き込みながらも呆れ口調で話しているあたり、思ったより無事なのだろう。
「・・・」
-これが本場のギャグパートか.....。間近で見ると笑いより驚きが勝つな...慣れの問題もある、のかな?・・・それにしても__-
このように氷戈も下らない思考を巡らせていたが、同時についさっき味わった違和感も感じており__
-こんなに間近で人が焼けたのに熱も迫力もやっぱり感じなかった....ヴィルハーツの時と同じだ。・・・もしかして俺のカーマって『炎耐性』とかいう死にスキルだったりする?ちょっとムズい炎ダンジョン実装最初期の時だけ倉庫番抜け出せるけどインフレが進むに連れキャラパワーゴリ押しが正義になって後で「昔はあのキャラの『炎耐性』でなんとか攻略してたなーww」って振り返られるキャラに付きがちなスキルじゃん、やめてね?-
「せめて....せめて全属性耐性にしてくれッ!!・・・って、あれ?」
急に叫び出した氷戈を他三人が見つめる。
焦った氷戈はしどろもどろに言った。
「い、いやッ...その....えと。じ、自分のカーマの能力について考えてましてアハハ....」
これにシルフィが反応した。
「君、何言ってるのかな?その年まで自分のカーマについての自覚が無かったら、持ってないってなるのが普通だよね?」
「え」
妙に噛み合っていないと感じた氷戈を置いてけぼりにシルフィは続ける。
「それにカーマなんて宿している人の方が少数、なのになんで君がこっち側だって確信を持ってるの?」
シルフィ怒涛の捲し立てにリグレッドが代わって応戦する。
「シルフィ待ちぃや、そもそも前提がちゃうねん。自分、氷戈がこの世界で育った思うとるやろ?」
「うん、そうだね」
「さっき氷戈が言っとったろ。『他の世界から来た』って」
「団長がその子にカーマの解説を始めた時からまさかとは思ってたけど、あの話を信じてるの?」
「ああ、ボクは信じる」
「はぁ....」
これを聞いたシルフィはため息を吐くと、次に発した言葉は氷戈にとっては思いがけないものだった。
「団長がそう言うんなら、そうなんだろうね。・・・続けなよ、もうすぐリュミストリネ城に着いちゃうよ?」
あっさりと食い下がるのを止めたシルフィは、話の主導権をリグレッドへ譲り渡したのだった。
「おおきに。・・・ほな、時間があらへんのも確かや。ホンマにざっくりといくで?」
「・・・」
氷戈が黙って頷いたのを見たリグレッドは早口で説明を再開させた。
「つまるところ、や。シルフィは他人のカーマをシールに封じ込めて保存できるっちゅうこと。フィズを治したんのも、最初にジェイラの『穿々電雷』を止めたんも、『サイキョウ』を瓶の中に封じ込めてたんも全部他人からパクったもんや」
氷戈はこちらを向かないまでも少々ピキった雰囲気を醸したシルフィが恐ろしかったが、リグレッドは構わず続ける。
「せやからいろんなカーマを実際に見せれるって点では、案外解説向けではあるんかもしれへんな。・・・ほんで当然、この世界ではカーマを有しているか否かで戦闘能力が大きく異なってくる」
「・・・」
「せやけどもう一つ、戦闘において大事な技術がある。さっきヴィルが自分に放った炎の弾やったり、シルフィがボクの顔面焦がした『点炎』がそれに当たる。ボクらはこれを『源術』と呼んどる」
「アルマ....」
「アルマは人間の体を構成する『木』『火』『土』『金』『水』計五つの源素を体外に放出する形で放つことのできる攻撃の術、故に『源素の術』と書く。得手不得手はあれど生きとる人間は皆んな使えるようになるんがカーマとの違いや」
「あの...属性があるのは分かるんですけど、『木』とか『金』ってどういう....?」
「せやなぁ....『木』はややこくって、そのまま攻撃に使われることはあんまし無いんや。その代わり応用次第で『風』や『雷』に化けるんで上級者向け。使用者もあんまし居らへんが、ちょうどジェイラが『雷』を使っとったな?」
「『木』が『雷』に.....?」
ソシャゲ中毒の氷戈にとってはこれが異様に思えてならなかったが、自分の常識に囚われてはいけないと一旦飲み込むことにした。
「『金』はそのまま『金属』を意味するんやが、具体的に表すなら『鉄鋼』やな。これは主に自分専用の武器を生成するんに使われる」
「な、なるほど.....」
正直100%の納得は出来ていないが、そこを追求するのは今では無い。
とりあえずで相槌を打った氷戈に、リグレッドは話題を本筋へ向けた。
「これからの説明に必要な情報の解説は終いや。本題へ移るで?」
「本題....。俺にしか出来ないことってやつですか?」
「当然そこにも繋がってくるんやが、先に『なしてヴィルハーツ率いるラヴァスティの連中がリュミストリネの姫さんを狙ってるか』について話さんとアカン。これも大雑把にしか言わんからしっかり聞いときぃ?」
「・・・はい」
「先ず大事になってくるんは、さっき話したカーマの発現方法についてや。シルフィの言う通り、カーマを持っとる人間のが圧倒的に少ない。じゃあそいつらは、どないにしてカーマを宿すのか」
「えーっと....遺伝とか修行、とか...?」
「半分正解や。・・・方法は三つあって一つは自分の言うた遺伝、すなわち『継承タイプ』と称されるもの。二つは『変異タイプ』言うて、両親の持っとるカーマと全く別のカーマが発現するもんや。この二つは発現方法としては最もオーソドックスで、割合もそれぞれ半々くらいになっとる。・・・そして今回、問題になっとるんが三つ目の発現方法である『純番』や」
「ミナギ....?」
氷戈は出てきた専門用語を鸚鵡返しして解説を求めた。
「純なる番い、と書いて『純番』。ある条件下で産まれおった子どもにのみ適応されるカーマの発現方法で、これが恐ろしいことこの上無い」
「・・・」
ゴクリ....
氷戈は『番い』やら『条件下で生まれる』といった生々しい言葉に、思わず固唾を飲む。
「・・・『純番』によって産まれた通称『純番子』は、自身のカーマの能力をある程度選択することが出来るんや」
「ッ!?それってヤバいんじゃ....」
「ヤバいなんてもんや無いで?発現するカーマの内容次第じゃ、子ども一人で世界を壊滅状態に追いやることだって出来てまう。なんとしても止めなアカン」
「それは確かにそうですね.....」
氷戈は事の大きさがとんでもない規模であることを受け止めつつ、幾つかの疑問を呈した。
「で、でも選択の範囲も『ある程度』なんですよね?それに『純番子』が産まれる条件って....?」
「ボクが『ある程度』言うたんは直近での前例があらへんから、要するにどうなるんか誰にも読めんからや。『純番』は当然、その危険性や倫理観の問題から文字通り禁忌と見做されとった。こないなこと企もうもんなら、現存する全部の国からめったうちにされること違いなし。手を出そうとする国なんて暫く居らんかったんや」
「・・・」
「次に『純番子』が産まれよる条件。それは大昔、この世界をカーマによって生み出したとされる『起源の八色』っちゅうお偉いさんの純血を継いだ父母同士が子を宿すことで達成される。・・・察しのエエ自分ならラヴァスティの連中が何したいかもう分かったやろ?」
いきなり多くの専門用語や信じ難い事実の数々を聞いた氷戈であったが、ここは流石の重症ゲーマー。リグレッドの期待通りの答えを自ら導き出す。
「純血統に当たるリュミストリネのお姫様を攫って、『純番』を執り行おうとしてる....?」
「お見事、流石やな?・・・せやからラヴァスティはクトラの『地繋ギ』、つまるは瞬間移動のカーマを使うて幹部相当の実力者をリュミストリネの各地へ転送、急襲を仕掛けよった。自分を襲ったジェイラもその内の一人や。・・・そうすることで姫さんを守っとるリュミストリネの精鋭らをこれらの対応に充てさせられる。こないにして手薄になった城をヴィルハーツが単騎で攻め落とす、てのが向こうの作戦やった」
「・・・なるほど」
ここまでの解説を経て漸く、氷戈の中で全てが繋がったのだった。
「それなら確かに、ヴィルハーツという決め手を失った時点で向こうの計画は破綻してる....。それが分かっていたからこそ、お姫様の救助を敵であるはずのリグレッドさん達に託したのか....」
「ん?」
「え?」
氷戈の結論にリグレッドは疑問符を返した。対する氷戈も、何が違っていたのか分からず反射的に声を上げてしまった。
すると、丁度このタイミングでフィズとシルフィの足が止まるのだった。
「さて、お喋りの時間は終わり。さっさと降りなよ、へなちょこボーイズ」
シルフィがこちらに向かってそう言うと、フィズは屈んで氷戈とリグレッドを地面へ降ろすのだった。
ずっとリグレッドと向かい合わせで会話していたので、暫く前を見ていなかった氷戈は自分たちが目的地へ着いたということを今悟るのだった。
さっきぶりに自分の足で立ち、前へと視線を向けた氷戈は感嘆する。
「うぁ....異世界だぁ....」
目の前には過去行ったネズミーランドで目にしたような、中世ヨーロッパ風の大きくて洒落た城が佇んでいた。
氷戈達が居るのは城を取り囲む城壁を通過するための大きな門の前である。ここを通れば境内に出れるようだったが、当然のように扉は閉まっていた。そのため中の様子は確認できなかったが、人の気配のようなものも感じない。周辺にも人影は見当たらない。
どうやって中に入るのだろう?とリグレッド達の行動を窺っていると案の定、フィズが一歩前に出て言った。
「扉、壊しテ良いかナ?非常時ダし....」
「エエやろ、扉の一つや二つくらい。ボクらは姫さん救いに行くんやで?向こうの必要経費やろ」
「フむ.....ではッ!!」
フィズは右の拳を強く握り締め、固く閉ざされた扉へ渾身の殴りを繰り出した__その時。
「Heyユー?なぁ〜にしてんのぉ?」
「うあッ!!?」
気配も無くフィズの背後に立っていた男は軽い口調で尋ねた。
氷戈は驚いて見てみると、男はそのヘラヘラとした雰囲気とは裏腹にフィズのうなじ部分に銃剣の鋒を突き立てていたのである。
フィズ風に言い表すのであれば『絶対絶命のピンチ』がその身に訪れたのだった。
これに至っては強ち、誤字でも無さそうなところだが。
☆登場人物図鑑 No.10
・『クトラ・ワーヴェンツ』
ラヴァスティ所属/17歳/149cm/48kg/欲『地繋ギ(スペクト)』
小柄で赤髪のおかっぱヘアが特徴の女の子。口が悪い。好きなことは高みの見物と未来の旦那様候補リストの作成。苦手なものは退屈と『ジェイラ』とかいうアバズレ。
欲『地繋ギ(スペクト)』は『自身と周囲に居る人物を目的地まで瞬間移動させられる』というもの。目的地となる場所にはスペクトの印が必要であり、この印も地面に触れていなければ目的地と成り得ない。印はクトラの掌が触れることで刻まれ、生きたものにしか付けられない。