刎ネル首、誰ノ首?
<世界観設定>
欲:その個人に宿る特殊能力であり、ある条件を満たした者にのみ発現する。原則最上位の優先度を誇り、防御や対応、相殺するには同じく欲の力を行使しなければならない。
源術:人体を構成する基本的要素である『源素』を応用し、攻撃や防御をするために作られた術の総称。分かりやすく言えば魔法であるが、力の源は魔力ではなく身体を構成するエネルギーそのものであるため『一時的に命を削る技』とも言える。なおこの世界に魔法や魔力といった言葉や概念は存在しない。
源素:この世界の人間は『木(風)』『火』『土』『金(鉄鋼)』『水』の計5つの要素によって成り立っており、これをまとめて『源素』と呼ぶ。いずれか1つの要素でも完全に失ってしまうと人体を保てなくなってしまい、人間としての機能を失う。故にアルマの過度な使用は厳禁である。
我成:5つある源素「木(風)」「火」「土」「金(鉄鋼)」「水」の内、『金(鉄鋼)』の要素を使用して形成される武器のこと。出現させる人によって姿形が異なり、武器種も様々。誰にでも簡単に呼び出せるものではなく、ある程度の鍛錬や条件を要す。
「ケッケッケっ!?死ねッ!!死ねッ!!」
「ええい!!いちいちやかましい奴だ!黙って戦えんのかッ!?」
ギルバートが氷戈と離れ、こうしてラヴァルドの相手をし始めてから早数分。
両者近接戦の実力は拮抗しており、決定打に欠けた状況が続いていた。
何とか打開策を見出したいギルバートとは対照的に、この戦いを心から楽しんでいるラヴァルド。
「黙ってても仕方ねェだろッ!?人体標準装備の口たぁ喚くためにあるンだ、黙らせたかったら殺してみろやァ!?『溶岩穹窿』!!」
「ぬッ!?なんだ...!!」
突如ギルバートの立つ周りの地面から溶岩が盛り上がり始める。湧き上がる溶岩は直ぐにギルバートを包み込むような形状となり、出来上がったそれはまるでかまくらのようである。
瞬時に溶岩に取り囲まれ、出口は目の前に開けたドア状の穴ただ一つ。そこから見えるのは、ウッキウキな顔をしたラヴァルドが源術を構える姿であり...
「か〜ら〜の〜『岩漿熱線』8連同時しゃすっt!!しゃしtu・・・ンがァっあクソがッ!!言いにくッ!?」
「ッ!!?」
-彼奴め、そんなキャラであったか?・・・いや、この際どうでも良いッ!!・・・この状態では回避は不可能。だからといい『岩漿熱線』を正面から防ぎ切る手立てを持ち合わせてもおらぬ。・・・仕方あるまい、多少のダメージは覚悟で弾く他あるまい!!-
「フンっ!!『衝弾・嵐』!!」
ギルバートは手に持った王笏状の我成を弾くように振ると、渦を巻いた小さな風の玉が出現する。一見可愛くも見えるこの風玉は爆発的な速度で膨張し、高密度の風の膜を作り出した。
光速で迫り来る『岩漿熱線』が超圧縮された風圧の壁に衝突すると、軌道は逸れて8発ともギルバートを閉じ込めていたかまくらの外壁を沿うようにして通過していったしまった。
と、同時にギルバートの放った『衝弾』も爆散し、溶岩で作られたかまくらを内部から粉々にぶち砕くこととなる。
激しく舞い上がる土埃を見たラヴァルドはケタケタと笑い飛ばす。
「カッカカカカっ!!オレ様のアルマを防御するためのアルマでおっちんじまったんじゃねェのかコレよォ?・・・んな冷めたことはよしてくれよ、王様ァ!?・・・・・ア?」
「・・・礼ノ段・水法『水貫』」
キーーーーンッ___!!
「グッッフっ!!?」
何の前触れもなく土煙の中から詠唱が聞こえたかと思った、その時にはもう遅かった。
劈くような音と共に、極限まで加圧された水流がラヴァルドを捉え、心臓を貫く。
その攻撃速度や技の種類からしてまんま『岩漿熱線』の水バージョンと表現できよう。
『水貫』の発動によって取り巻いていた煙が晴れると、『衝弾』の炸裂で切り傷を負った状態のギルバートが姿を現す。
彼は貫かれた急所を抑え俯くラヴァルドを確認すると笑って言った。
「・・・冷めゆくのは、どうやら貴様の方らしいぞ?ラヴァルドよ」
「グッ....テ、テンメェ....!!」
「・・・元より貴様と遊んでいる暇など無い故、早いところケリをつけさせてもらおう....」
ギルバートはトドメを刺すために再び王笏を構え、アルマを放つ準備をする。
それを見たラヴァルドはニヤリと笑い...
「バーカっ!!このオレ様がッ、これしきの傷で怯むと思ったかッ!!?」
「何ッ!?」
猛スピード突撃してくるラヴァルドを見ると、心臓に開けたはずの穴が赤い光を帯びた何かで塞がれていた。
そしてこの赤い光は、先ほどから嫌と言うほど目にしているものと酷似しており....
「溶岩、か...?クッ!?」
ガンっ!!
互いのガイナがぶつかり合い、大きな衝撃音が鳴り響く。
相も変わらずラヴァルドはギルバートにゆっくり考察する隙を与えさせてはくれない。
「おらァ!!おらァ!?早く終わらせたいんじゃねェのかよ!?・・・ならテメェが早く死ねェ!!」
「おのれ....馬鹿の一つ覚えのように吠えおってッ...!!」
-そもそもだ。先ほど高所から地面へ叩きつけてやった時に死ぬどころか、骨一つ折れている素振りをも見せんのは何故だ?・・・仮に開けた穴を溶岩によって修復したのだとすれば合点はゆくが、その再生能力に際限が無いのだとすれば....-
「否、そのようなことはありえん....」
「さっきから独り言が多いんじゃねェかッ!?」
「貴様が余に考える暇を与えんからだろうッ!?少し黙っておれッ!!・・・ハァッ!!」
斬り合いの最中、ギルバートは互いのガイナの次なる接触点に『衝弾』の最小火力である『風』を生成する。
単体の威力はそれほどでも無い『衝弾・風』でも、先ほどラヴァルドを思いっきり上空へ吹き飛ばしたように、打撃と組み合わせることで相乗的な効果が期待できる。加えて最低ランクのアルマなので発生速度も早く、ガイナ同士がぶつかる直前での生成も可能と小回りが効くのもポイントだ。
スパァァン‼︎
「ッグ!?またこれかっ!!」
予想外の風圧に弾かれたラヴァルドは10メートル程吹き飛ぶ。
そこへギルバートはすかさず追撃を入れる。
「『水貫』ッ!!」
「チッ....『岩漿熱線』ッ!!」
ラヴァルドは飛ばされた状態でアルマを放ち、相殺を試みた。
水とマグマで出来た2つのレーザーはぶつかった瞬間、大爆発を引き起こす。
ドォォォッオオオオンッ!!!
互いが互いの姿を確認できないほどの白い煙、正しくは水蒸気が立ち込め、斬り合いは一旦落ち着くこととなる。
気は抜かないまでも、ギルバートは一つため息をついた。
「ふぅ....」
-余の王笏で威力を底上げした『水貫』と相殺とは....やはり技を充てがう以外に『岩漿熱線』を防ぐ方法は無いと見た方が良い。・・・それはともかく、だ。地面へ叩きつけても、急所を貫いても死なんようでは__-
死?
ザグッ!!
「急所は、いただきましたよぉ?陛下ッ....?」
「・・・ッ!!?グボっ...!!?」
突如背後から心臓部を貫かれ、吐血するギルバート。
そこへ、撫でるような声を添える我が腹心の声。
顔を確認せずとも分かる。分かるはずなのに。
毎日のように聞いた、元気でまっすぐな声からは想像もできないほどに湾曲していたから疑った。疑いたかった。
しかし、嫌でも感じる痛みがこれを事実だと主張する。
「なッ....なぜだッ....!?ヴェラートよ....。ラ、ラミィ達はッ....!?」
「なぜ...?私はただ、私が従う王の命令を遂行したまでですよ。・・・陛下もよく仰ってくれていたじゃあないですか。『ヴェラートは見かけによらず腕が立つ』とね?」
「な...何を....グっ!?ぐあぁッ!!?」
ヴェラートは刺したダガーナイフを再度執拗に差し込み、ゆっくり左右へ動かしてみせる。
「ほーれほれぇ!?」
まるで興味本位な行為は悲痛な叫びを呼ぶ。
「くッ!!ガアァアアっ!!!」
「あっはは!!痛そうですねぇ陛下ぁッ!!?・・・だがッ!!私の受けた痛みはこんなものでは無いッ!!」
「・・・グッ....カッハっ....」
項垂れ、立つ力さえも残されていないギルバート。
ヴェラートはそんな彼に膝をつくことさえも許さない。
手に握るナイフに力を入れ、それだけで彼の身体を支えてみせる。一国の王が、今は見るも無惨なハンガー状態である。
「覚えていますか...?貴方と私が、初めて出会った日のことを」
「・・・」
ギルバートは言葉こそ返さなかったが死の間際、その言葉を放った真意が無性に知りたかったので、朦朧としながらも記憶を探った。
-はて...あれは何年前のことか。・・・引き取った戦争孤児たちが集う修練場で一際の異才を放つ青年が居ると聞きつけた余は、実際に会ってみることにしたのだったな。そこで見たのは他の追随を許さぬ圧倒的な実力を発揮し、純粋で真っ直ぐな目をした宝石。一目惚れした余は、其方の手を取って言った。『余の描く世界には、其方が必要である』と....-
彼との出会いに自身を刺し殺す理由があるのかと考え、その他多くの記憶を巡らせるも一向に思い当たらない。
すると、ヴェラートは答えた。
「いいえ....違いますよ、陛下?・・・もっと前です」
「....?な...にを?」
まるで見透かしたかのようなヴェラートは、ニヤリと笑ってギルバートを地面へ叩き落とす。
「ぐッ....」
「よいのです、思い出せずとも。・・・貴方の後味が悪ければ悪いほど、良いというものッ....!!・・・地獄で是非、貴方のお父様に伺ってみて下さい」
ギルバートは左手を前にかざして、唱える。
「さぁ...長年あなたが欲していた獲物ですよッ!?たんと味わいなさいッ!!・・・偽れ、『ウラ切リ』」
すると少し刀身が長細い、ただの直刀が出現する。
見た目こそ真っ直ぐに伸びた刀そのものであるが、よく見ると刃の付いている位置が逆であった。
つまりヴェラートのガイナ『ウラ切リ』」に於いて見た目で刃である方が背であり、背に見える方に刃が付いているのである。
なんとも扱い辛そうなガイナを手にしたヴェラートは、そのまま天へと振り上げる。
「我が偽りの君主、ギルバート・ウル・ウィスタリア様。・・・それでは、永遠にごきげんようッ....!!」
振るわれた刃は、ギルバートの首を刎ねんと猛スピードで襲いかかる。
アゾットの居ない今、周囲に助けてくれる人影も見当たらない___
・・・はずだった。
ボゴっ!!!
「グガッ!?」
顔面を思いっきり殴られ、面白いくらいに吹っ飛ぶヴェラート。
ギルバートへの謀反の刃を防いだのは思いがけないようで、見慣れた人物達だった。
「っシャっ!!ナイスタイミングや、フィズ!!」
「えエ....王様ガ瀕死なタイミングがナイスなノかい?・・・ッじゃナくて!ほらトーラさン、早く早ク!」
「わかってるけどー、王様ブッたたくのはちょっとキンチョーするなー....。後味わるいしー」
「そんナコと言ってる場合ジゃ....そ、そうだ!王様ヲぶっ叩いた後にワタシをぶっ叩イてくレテ良いかラ!お口直シ的な、ネ?」
「おー、いいねーそれー」
お口直しだとギルバートがまるでそういう食べ物のようだということになってしまうが、そこには触れない。
数秒前までシリアスMAXだった現場を一瞬でコメディ化させてしまったのは、個々の喋り方でもう分かるリグレッド、フィズ、トーラの3人であった。
先に特攻を仕掛け、ギルバートを守るように立つフィズへ向かって走る残りの2人。
果たして、3人はどこから湧いて出たのか?今のところそれは謎である。
何はともあれ、ギルバートを治療するためにトーラはガイナを出現させる。
「うおー、てってれーん!『代成鎚』ー。・・・せーのッ、うおりゃー」
ドゴォォンっ!!!
自分の身体よりも大きなハンマーを手に取ったトーラはその勢いのまま、横たわるギルバートへ盛大な打撃をブチ込んだ。
瀕死の人間にこの仕打ちは酷だなどと、そんなものでは済まされない。あらゆる生と、そして死への冒涜に値する行為である。
トーラが行う場合を除いて、であるが。
「ぬおおおおおおおおッ!!??」
地面にめり込んだハンマーの下からはギルバートの悲痛な?叫びが聞こえてきた。
トーラは軽々とハンマーを持ち上げると、ノータイムで真横に居る人物をぶっ叩く。
「おりゃー」
「ちょッ!?なしてボクな_」
ドゴォォンっ!!!
凡そギャグ漫画でしかみないような叩かれ方をしたリグレッドは地面にめり込む。
すると、入れ替わりでギルバートがめり込んだ穴からゆっくりと姿を見せた。
「クッ...ど、どういうことだ?全身が軋むように痛むが、傷は消えている....?」
血痕や服に開いた穴はそのままだが、心臓を深く抉った傷は綺麗さっぱり無くなっていたのである。
不思議がるギルバートにトーラが話しかける。
「まあー、ボクのカーマとだけいっておくよー。・・・詳しいはなしはー、後のほうがいいかもー」
そうして視線をフィズの向こうに見える人影へと移した。
ギルバートもつられてそちらをみると、見た事もないほど顔を歪ませた元臣下の姿があった。
「なッ...なんだというんだあなた達はっ!?なぜ『茈結』」の人間がここに居るッ!?ウィスタリア城で待機していたんじゃ無かったのかッ!?」
この問いに答えたのは、ようやく地面から這い出てきたリグレッドだった。
「そう思っとったやろ?せやから、ボクらは出てきた。ギルを死なさん為に。・・・おー、いちちちち.....」
リグレッドは痛みを堪えながらも流暢に話す。
これにヴェラートはますます訳が分からないといった様子だ。
「何を...言う....?」
「まさかッ....!?リグ貴様、ヴェラートの謀反の企てを知っておったとでもいうのか?」
ハッとしたギルバートは慌ただしく問いただす。
「・・・ナッハハ!!まぁそのまさかってとこやな!・・・ギルや他の人間になんも言わんかったんは、ボクが勘付いてることに勘付かれるリスクを限りなく0にする為。・・・・ラヴァスティの王からギルバート暗殺の命を直々に受け、数年に渡りウィスタリアへ潜り込んだスパイ、ヴェラート・モルトレーデ。自分の正体を今日ここで確実に暴き、ほんでもってここで確実に仕留めるにはうってつけの作戦やと思わへんか?」
「ラ、ラヴァスティだとッ!?」
リグレッドが珍しく真剣な声色で話した内容に、ギルバートは当然信じられないといった様子を見せた。
それでもヴェラートは納得いかないようで
「あ、ありえないッ!?私が潜入期間中にラヴァスティと連絡を取ったことは一度としてない筈だッ!!戦争孤児として正式にウィスタリア軍に潜入した時から、近衛隊長に上り詰めるまで何のボロも出していない!そう立ち回ったからだッ!!・・・だのにッ!!どうしてウィスタリアの人間でも無い貴様がッ....」
自分の数年の努力が一瞬で無に帰したのが余程悔しかったのか、ヴェラートは荒れる。
リグレッドは、これを嘲笑うような口調で
「せやなぁ?自分の作戦は完璧やったんとちゃうか?現にギルやクラミィちゃん、ほんでアゾットくんを騙して窮地にまで追い込んだ訳やし。・・・だからこそ、ボクがここに居る」
「・・・ッ!?なッ...」
ギルバートは『クラミィとアゾットが窮地に追い込まれた』というワードを聞き、リグレッドに詰め寄ろうとする。が、先回りしたリグレッドに「安心せえ、ダイジョブや」と短く返され、安堵する。
一方ヴェラートは、怒りを露わにして問う。
「私が完璧だったからこそ貴様がここに居るだとッ!?・・・ふざけるな!!言葉遊びも大概にしろよリグレッドォっ!?」
「・・・言葉遊び?事実をありのまま言うことが言葉遊びなんかいな....?・・・わけ分からんのやったら、感謝も込めてもういっぺん言ったるわ。・・・自分が何もかも完璧にこなしてくれはったお陰さんでボクの計画が一切狂わず進んだわ、おおきに〜....っなんてな?」
「・・・き、貴様はいったい....何者なんだ....?」
「さぁ?そないなもん、とうの昔に忘れてもうたわ。・・・覚えとるんは、誰が付けたかも分からん『リグレッド・ホーウィング』っちゅうシケた名前だけや」
「・・・・」
何を聞いても及ばない気がしたヴェラートはここで押し黙る。
実際、この場にリグレッドの放つ言葉の真意を汲み取れた人間は居ないだろう。
_________。
暫し続く沈黙。
これを薄気味悪い笑いで破ったのは、まさかのヴェラートだった。
「フフ....フハハハっ!!」
「?・・・なんや気持ち悪い」
「いや...ね?どうも私があなたの掌上に置かれていたみたいな言い方をしていたが、肝心な部分が疎かなんじゃ無いのか?」
「?」
「忘れてやいませんか?私は仮にも、その実力のみで大国ウィスタリアの近衛隊長に抜擢された人間。それも欲を一切使わずに、です」
「ッ!?なんだとッ!?ヴェラート貴様、カーマを持っておったのかッ!?」
驚愕するギルバートの様子からも、カーマ無しの純粋な実力のみで隊長にまで上り詰めたというのは事実らしい。
ヴェラートは余裕のある笑みを浮かべて続ける。
「ええ....。つまるところ、厄介なのはそこのフィズカル・フィッツバーグとか言うふざけた男のみ、ということです。・・・もっと戦闘要因を連れてれば話は別でしたが、これなら問題なさそうです」
「・・・」
これに不服そうな態度を示したのはギルバートだった。
ヴェラートがリグレッドとトーラの2人を敵戦力として数えていないだけならまだしも、きっての実力者であるギルバートすらその枠かのように扱ったからだ。
「随分と舐められたものだ。・・・貴様がスパイであり、仮に実力を隠してきたのだとしても余の負ける道理が無いわ。軽く捻ってやろう....」
「クク....。では、試してみますか?」
突如として臨戦体制に入る2人。キョロキョロしつつも慌てて構えるフィズ。
この様子後ろで見ていたリグレッドは、小さく呟く。
「こっちは5割....。ほんであっちは....」
全てを達観したような色の無い目は、遠くで斬り合っていたはずの氷戈の方を捉える。
視界を雨に遮られ、ここからでは彼らの姿を確認することすら困難である。
ところが、リグレッドの瞳にはくっきりと映っていた。
赤い光を激しく放つ、一人。
これ以上無い絶望に叫ぶ、一人。
そして_
既に首を刎ねられ、人だったモノが。
「・・・毎度、割に合わんなぁ。ホンマ....」
ど、どういうこと....?
向こうでは氷戈とフラデリカの2人で戦ってたんでしょ....?
なんで3人いるのさ?何で既に一人死んでるのさ?
どうなっちゃうんだ....