生き恥のかかせ方
<世界観設定>
欲:その個人に宿る特殊能力であり、ある条件を満たした者にのみ発現する。原則最上位の優先度を誇り、防御や対応、相殺するには同じく欲の力を行使しなければならない。
源術:人体を構成する基本的要素である『源素』を応用し、攻撃や防御をするために作られた術の総称。分かりやすく言えば魔法であるが、力の源は魔力ではなく身体を構成するエネルギーそのものであるため『一時的に命を削る技』とも言える。なおこの世界に魔法や魔力といった言葉や概念は存在しない。
源素:この世界の人間は『木(風)』『火』『土』『金(鉄鋼)』『水』の計5つの要素によって成り立っており、これをまとめて『源素』と呼ぶ。いずれか1つの要素でも完全に失ってしまうと人体を保てなくなってしまい、人間としての機能を失う。故にアルマの過度な使用は厳禁である。
我成:5つある源素「木(風)」「火」「土」「金(鉄鋼)」「水」の内、『金(鉄鋼)』の要素を使用して形成される武器のこと。出現させる人によって姿形が異なり、武器種も様々。誰にでも簡単に呼び出せるものではなく、ある程度の鍛錬や条件を要す。
マーベラット東部第1防衛戦線にて___
突風が吹き荒れる荒野の中、強面の男がたった一人で佇んでいた。
「あー....眠ィ....」
その外見、体格、セリフからも見て取れるようにかなりの強者感を漂わせるこの男。彼こそが本作主人公の無連 氷戈の槍術の師匠であり、介戦組織『茈結』で武術講師も務める実力者『イサギ・アーセナル』である。
実力がものを言う『茈結』で武術講師をしているだけあって、イサギの実力は相当なものである。
そんな彼がなぜこんな所で一人でいるのか。それは『敵勢の確認』を一任されているからである。
特に激戦が予想されるマーベラット東部での戦況の傾きは、この戦争そのものの戦況にも大きく響くこととなる。よって状況判断能力と純粋な身体能力の高いイサギがこれを任されたのだ。正しい情報を後続に控える第2、第3防衛戦線の部隊へ迅速に伝える、というのが使命である。因みにこれらは全てリグレッドの提案した作戦である。
一方、リグレッドからは出立直前にいきなり「死なんよう気ぃつけてや〜?」と告げられているので驚きである。勿論、本人からすればたまったものでは無いが。
「チッ...リグレッドの野郎め。本当に死にでもしたらお前が無事地獄に落ちるよう、あの世で手回ししといてやる....っ!?」
バゴォォォォォーン!!!!!!!
突如左後方から凄まじい爆発音が響き渡り、イサギはそちらの方を向く。
どうやらマーベラット南部では既に激しい抗争が始まっているようである。
「いきなり凄いなオイ...。南部っていえば、アイネス王直属の戦闘部隊が防衛に当たると言ってたな。・・・しかしあんな規模の爆発を使える野郎が居たっけか?それとも敵軍の急襲にでも遭っちまったか....。どっちみ_」
「それで言うと、後者の方が正しいな」
「ッ!?」
気配も無く、いつの間にか目の前に居る何者かに軽口を阻まれ驚くイサギ。
爆発の方法に目をやっていたとはいえ、その存在に気づけずにこの距離まで接近を許した時点で凡その場合は死に至る。
ところが、どうやら首はまだ繋がっているらしい。この幸運を噛み締めると共に、イサギは振り向いた。
「誰だおま....ッ!?て、テメェは....」
幸運が瞬間、この上ない不運へと変わる。
「アウスタッシュ=アルムガルド....」
「ふむ、まさかフルネームで呼ばれるとは。私のことを知っているのか....」
-知ってるも何も、今のフラミュー=デリッツNo.1兼元首様じゃねぇか....。敵国のトップ様がなんでこんなところに居やがる?-
「へっ。そいつは嫌みか何かか?敵さんのトップを知らないはず無いだろう....?」
「失敬、確かに愚問であったか。・・・それにしてもこのようなところで一人、何をしているのだ?」
-だからそれはこっちのセリフなんだよ。・・・さてはこいつ、天然入ってるか?-
「あー、えーっとな。それはそっちも同じだろう?お前も教えてくれなきゃフェアじゃねぇ....」
アルムガルドはポーカーフェイスで首を傾げる。
「同じ...?教える...?・・・念の為聞いておくが、貴殿はマーベラットを我が国の侵略から守るために居るのだろう?」
イサギは調子を狂わされながらも応じる。
「あ、ああ。その通りだ」
「・・・?では、何を教える必要がある?」
純粋な疑問。純粋な答え。
それらを、純粋過ぎる眼で言うのだから恐ろしかった。
「攻め落としに来たのだ。マーベラットを」
「ッ...」
-こいつ!!まさかとは思ったが、たった一人でマーベラット東部の防衛戦線を突破しようと言うのか?・・・バカげてやがる!!バカげてると一蹴してやりたいが...あの眼。自分で言った事に対して何ら疑問を持っちゃいやがらない。ま、まああの様子じゃ冗談なんざ言えやしないんだろうがよ....-
「・・・こちらも念の為、聞いておこう。お前一人で東部戦線を突破しようとしているのか?」
「『ここ』が何を指すかによるが、マーベラット東部開通の任は私個人で受けもっている。・・・さあ、これで私の質問には答えてもらえるだろうか?」
イサギは予想だにしたくなかった予想通りの答えに、冷や汗をかく。
「フンっ...化け物めが。・・・が、これで俺の目的も果たせそうだ。あんがと...よッ!!」
そう言い残し、イサギは目にも止まらない速度で踵を返して走り始める。
彼の目的は敵の殲滅では無く、敵勢情報を後続に伝える事。この判断は極めて正しいと言えよう。
もっとも、対峙した相手がアルムガルドで無ければの話だが。
「話の途中にどこへ行く?」
「ッ何だと!?グッ!!」
ザアアアァァッーー!!
突如として目の前に現れたアルムガルドに驚き、急ブレーキを掛けるイサギ。
何とかアルムガルドとの衝突を回避し、急いでバックステップで距離を取る。
-クソったれめ....足の速さには自信があったんだがな。全く....これじゃあ返して貰えそうに無ぇか-
「あーっと、何が知りたいんだっけか?」
「いや、もういい。これまでの言動と、今の行動で凡そ見当は付く。・・・偵察を命じられたのだろう?」
「流石は親玉。幾ら天然でもそっちの頭はキレるってか?・・・ツイて無いぜ」
「?・・・何を言っているのか分からないが、貴殿を返して面倒ごとを起こされては困る。・・・切らせてもらおう....」
「くッ....」
アルムガルドは腰に下ろした厳かな刀を鞘から引き抜き、構える。
イサギも戦闘は免れないことを悟り、武器を顕現させる。
「ふんッ!」
突然、イサギの両手に2つの舶刀が現れる。これにアルムガルドは不思議がる。
「ん....?我成では無いのか?」
「へッ。・・・さて、そいつはどうかな?」
「斬り合えば分かる....か」
短い会話を挟み、両者は構えの姿勢を取る。
彼らの間合いは約5メートル、然れど数メートル。
ガキンッ!!!
甲高い、金属同士のぶつかった音が響き渡る。
仕掛けたのは意外にもアルムガルドの方だった。
敵国No.1の剣撃を見事受け止め、もう片方の舶刀で反撃に出るイサギ。
これをしゃがんで交わしたアルムガルドは、流れで足払いを試みる。
対しイサギは、必要最低限のジャンプで回避し、この隙を狙う攻撃へ備えた。
ここでアルムガルドは攻撃の手を止め、一旦距離を取ってから言った。
「なるほど、一人で偵察へ出てきただけのことはある」
「なんだ、また嫌みか?・・・嫌われて無いか、お前?」
「嫌み?・・・何故そうなる...?」
「ああ!っもう!お前と話してると調子狂うぜ...」
-うーん、なんだかな。当然こいつは本気を出していないんだろう。が、俺を追ってきたあの速度で攻められると思ってたから、腑に落ちないと言うか何と言うか....。凄い手を抜いているのだとしたら、攻め時は今か?-
「・・・はァッ!!」
今度はイサギから仕掛ける。
キンッ!!キンッ!・・・カキンッ!!
激しく斬り合う2人。
恐らくこの戦場で最もレベルの高く、それでいて最も純粋な技量の応酬。
互いの太刀筋を全て最善手で受け流し、その中にも僅かに生じる隙を狙って攻撃に転じるという最高峰の斬り合いである。
そしてこの斬り合いが1分と続くと、次第に戦況の優劣が見え始めたのだった。
「ハッ!!フン!!」
「くッ...」
押されているのはアルムガルドであり、現在はほぼ防戦一方を強いられていた。
イサギはその手を緩めることなく攻め続ける。
-俺よ、油断はするな。・・・油断はしないが、攻めるなら今が好機。このまま押し切る!!-
「ハアァァァァァァっ!!!」
「うッ...!!」
カンッ!!
一瞬、防御に構えたアルムガルドの剣がブレる。剣撃を受ける時の刃の角度が甘かったのだ。
-逃さん!!-
「ぬんッ!!」
「ッ!!?」
イサギは生じた隙をものにしようと、もう片方の手に持った武器をアルムガルドの喉元へ差し向ける。
ところがその武器とは、今まで使っていた舶刀では無かった。
瞬間的にリーチを伸ばされたアルムガルドは、流石にそのポーカーフェイスを保つことが出来ずに驚きの表情を浮かべ__熱を帯びる。
長い槍が空を貫いた。
「くっ!!またかッ....」
イラつき、振り返るイサギ。
そこには変わらずシケた面のアルムガルドが立っていた。
「あの二刀といい、その槍といい、やはりガイナでは無いな。どうなっている....」
「ふんッ...こっちの渾身の突きを危なげも無く交わしやがって。・・・さっきから見せている一時的に早くなる能力、そいつがお前の欲だな?」
「そうだな、その一部とでも言っておこう」
アルムガルドはそう言うと、静かに持っていた剣を鞘へ納めた。続けて_
「帯びせよ...『白月』」
熱を帯びた眩い光が緩やかな撓りを見せ、やがて実体化する。
真っ白なその刀の刀身はまるで三日月のようであり、何とも美しい見た目をしている。
宙に顕現したそれを音も無く手に取るアルムガルド。これにイサギが問う。
「それが、お前のガイナか....?」
「・・・ただの刀では流石に役不足らしかったのでな。それに貴殿はまだ力を隠しているだろう?出し惜しみをしている場合では無いと判断した」
「いやぁ...買い被りだと思うがね....。槍が交わされちまったんなら、俺にこれ以上は無ぇから安心しな」
イサギは右手に持った銀色の槍を見てそう言った。
どうやら槍こそがイサギの繰り出せる最大の変化球であり、それが軽くいなされてしまった今、完全なお手上げ状態らしい。
-クソったれめ....恨むぞリグレッド!・・・アルムガルドが東部から攻めて来るって分かってて俺をここに置いたな!?おかしいと思ったんだ。じゃなきゃ「死なないように気をつけて」なんて労りの言葉がテメェの口から出る訳が無いんだ!!・・・まぁもう、この際どうだっていい。アイツはそもそもなんで俺をここへ配置した?なんか言ってたっけか?・・・あーダメだ、会議中は半分寝てたんだったな....-
「はぁ....。ん?そういや....」
心中穏やかでは無いイサギであったが、途中何かを思い出したようだった。
「・・・なんだ?」
この様子を不思議に思ったアルムガルドは怪訝そうな声を出す。
対するイサギは、何か決心したような声で独り言。
「野郎、こうなると分かってたからあんなこと言いやがったのか...?全く...これが嘘だったら、俺はお前を殺すまで死ねんぞ。・・・賭けるぜ。なぁ...リグレッド....」
「・・・」
不敵に笑い、イサギは言う。
「さぁて、足掻けるところまで足掻こうじゃねぇのッ!?」
「ッ...」
突如として始まった第2戦目。
イサギは手に持っていた槍をアルムガルドへ投擲した。
これを交わすアルムガルドに、再び2本の舶刀が襲いかかった。
「またか...」
「ハァっ!!」
イサギの猛攻を受け流すアルムガルド。
当然、二刀に対して1本の刀で斬り合うのは中々のハンディキャップである。先ほどまで防戦一方を強いられていた理由の一つと言って良い程に。
一方で今は、手に持ったそれがガイナであるというだけで互角に渡り合っているのである。
しかし、それでも互角である。イサギに攻撃の手を緩める理由はなかった。手を緩められない理由があった。
二刀の手数を活かし、時折に体術攻撃を交えて相手が乱れるのを待つ。これが戦闘のセオリーだ。
ところがイサギはこれを無視して、全力で一撃一撃を叩き込む。それどころか手の内を全て見せてしまうつもりらしく....
思いっきり舶刀で切り込みを入れると、アルムガルドは防御した際の衝撃を受け流すために後ろへわざと飛ばされる。
ここへイサギは2つの舶刀を立て続けに投げ込む。まるで大きな手裏剣のような攻撃を、宙にいたアルムガルドはガイナで弾く他無かった。
「・・・。それはッ...?」
舶刀をなんなく弾いたアルムガルドが目にしたのは弓を構えるイサギであった。
「喰らえッ!!」
鉄でできた弓で、鉄でできた矢を放つ。威力、スピード共に先の舶刀投げを優に超えている。
ガッンっ!!
鏃の先端部をガイナの刃で見事捉え、防御に成功するアルムガルド。ところが猛攻の嵐は止むことを知らずに、次なる手が迫っていた。
「くッ...次から次へと...」
矢の防御時に生じた一瞬の硬直の隙に、急接近していたイサギが振るったのは大鎌であった。
鎌の攻撃を刀で受け止めるのが困難であることは想像に易く、例に漏れず回避を選択したアルムガルドは宙で隙を晒さないようにとしゃがむ。
右手で鎌を大振りしたイサギの懐はあまりにも無防備であり、回避した流れで攻撃に転じるアルムガルドであったが....
ガンッッ!!!
「どうなって...」
イサギの腹部に突き立てようとしたガイナが彼に届くことはなかった。
空いていた左手に持っていた盾で防いだからだ。
更に大鎌を空振った反動で刹那的にだが使用不可だと思われた右手には既に刀が握られており、間を与えずアルムガルドへ振りかざした。
キンっ!・・・ガッ!!
「ぐッ...!」
体勢の低いアルムガルドは盾に阻まれたガイナを、迫り来る斬撃への防御に充てるので精一杯だった。これが分かっていたイサギはこの間に蹴りを直撃させ、アルムガルドを宙へ浮かせることに成功する。
短く呻くアルムガルドであったが、すぐに体勢を整え次なる手に備える準備をした。が、それも全て無駄となる。
「こいつで〆るッ!!くたばってくれよぉッ!!?」
アルムガルドの頭上から聞こえきた覇気を纏った声。
宙で見上げるとそこには、ギャグのようにデカいハンマーを振り上げるイサギの姿が。
「なんッ...!?」
一瞬で自身の頭上に移動していた事にも驚いたが、それよりもあんなに大きいハンマーを空で振り上げている事そのものが常識を逸脱しており、思わず驚嘆の声を漏らす。
そして事実、宙では自身の数倍もの面積を誇るハンマーの面部分から逃れることは叶わない。与えられた選択肢は手に持つガイナで防御するか、しないかのみであるが、前提として当たることそのものがマズい。
つまり_
絶体絶命。
ガッゴンっ!!
重力も活かして思いっきり振られたハンマーは逃げ場の無いアルムガルドをしっかりと捉え、吹き飛ばす事に成功する。
目では追えないほどの速度で地面に叩きつけられ、大地が割れる音と砂埃が周囲に舞う。
「ぬんッ!!念には念を....だ。今度は倍痛ぇぞッ!!?」
イサギはハンマーでの攻撃に成功した後、その反動で縦に回転してしまう。数回回って体勢を立て直すと、持っていたハンマーのヘッド部分を更に拡大させたのだ。
こうして質量と威力が更に増した打撃攻撃を、自由落下のエネルギーも加えてアルムガルドが落ちた場所へ叩き込む。
ドッッガアアァァァァァァァァァッッンっ!!!!!
地が裂け、揺れ動く始末。
とてもそれが物理攻撃のみとは思えないほどの、とてつもない衝撃と音が一帯に響く。
「はぁ....はぁ...」
フィジカルモンスターのイサギがバテる姿は滅多に拝めないが、これほど高度な連続攻撃を繰り出し続けていれば無理もない。息を切らしながらも、地面にめり込んだ超巨大ハンマーを見て呟く。
「こんなに鉄源素を消化したのはいつぶりだっけか...?・・・ま、とにかくだ。リグレッドの野郎の予想通りに転ばなかったってだけで清々しいし、奴の生存確認より先にさっさと帰らねぇとな。俺の仕事は敵勢報告だし、仮に生きてても後ろの連中と組めさえすれば___
ゴォ....
「ッ!?」
音がした。
言わずもがな、目の前に埋まるハンマーからだ。
「ま、まあそうだよな....だが今ならまだ逃げ_」
「驚いた....まさか、欲の出力をここまで上げることになろうとは」
ゴォォン....
ハンマーの倒れる音が、その声の後に鳴る。
「ち、畜生め...。ここまでとはッ....!!」
この場から逃げようとしたイサギの喉笛には、既に真っ白な切先が突き当てられていた。
赤いオーラを纏ったアルムガルドは白い服に汚れこそあるものの、まるで無傷のような立ち振る舞いと表情でイサギを見つめた。
「ここまで翻弄されたのは久方ぶりだ。・・・私にカーマが無ければこの勝負、どうなっていたか分からなかった」
「へッ...無くても勝てたみてぇな口ぶりじゃねぇか...」
「・・・その様子からして、貴殿はカーマを持ち合わせていないのだろう。してこの強さだったが、それが故にこの強さという表現もできよう?そういうことだ。・・・貴殿を否定するわけでは決して無いが、持つ者と持たざる者は平等などでは無い。カーマとは、その者の運命を定めてしまう病なのだから」
一般的には質の悪い嫌味にしか聞こえないこの言葉。
ところがイサギは、これに違った意味を見出していたらしい。その証拠に、とても満足そうな声で言ったのだ。
「ふん....そうだな。持たざる者がお前さんたちを真には理解できんように、持つ者に俺たちを理解しろっていうのはワガママだよなぁ...」
-そう、俺に欲は宿らなかった。なのに生まれつきこの異常体質のせいで人一倍強くて、それが自慢だった。だから羨ましくて仕方がなかったんだ。悔しくて仕方がなかったんだ。カーマを持つ人間が、俺よりもあっさりと強くなっていくのが。・・・だから負けないようにと、必死に努力した。過剰生成される鉄源素を応用し様々な種類の武器を作って、修行して、極めていった。直にリグレッドからスカウトを受けた俺は『茈結』の武術講師となって、小生意気な弟子がたくさん出来た。悪くなかった。・・・けどこれも全部、俺が持たざる者だったからこそ歩めた人生だ。後悔は無い。・・・無いが__-
「やはり、勝てなかったなぁ....」
アルムガルドは空を仰いで笑う彼を、敬意を持った目で見つめた。
そして告げる。
「貴殿を切らねばならないことを非常に残念に思う。・・・なにか、言い残したいことはあるか...?」
「ん?・・・ハッハッハッ!!まさか言われる側に回るとは思わなかったぜ!・・・ねぇさ。俺が出来ることは全部やったつもりだ、満足に寝れないくらいにな。ここで死ぬんなら、俺はそこまでだったってことさ...」
「・・・そうか」
「あ、そうそう」
「?」
「全部終わったんだって思ったら、急に眠くなってきちまってよ....。しばらく暖かくして寝てなかったから、急に恋しくってな?お前さんが良ければだが、俺を殺った後に思いっきり燃やしてくんねぇか?・・・インスタント火葬ってヤツさ、名案だろ?」
「・・・私は構わんが...しかし」
「さ、あんまり恥かかせるんじゃねぇよ。こう見えて負けず嫌いんだぜ、俺?」
「・・・承った。ではせめて、苦にならぬよう一瞬で__」
「やっと見つけたぞぉぉぉッ!!!!アウスタッシュ=アルムガルドっ!!我が友よッ!!」
ドッゴォォーーーンっ!!!!
感動的なシーンをこれでもかというほどにぶち壊して、アルムガルドとイサギの間に乱入してきた謎の人物。
2人は衝突を回避するために後ろへ下がり、構図的にはアルムガルドとイサギの間にそいつが仁王立ちで居る状態だ。一体どのようなメンタルを持ち合わせているのだろうか。
「誰だ...こいつ?・・・ん?まさかッ」
イサギは出立直前に言われたリグレッドの言葉を再度、思い出す。
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「正味、今回の作戦で一番危ないんはイサギさんや。死なんよう気ぃつけてや〜?」
「フンっ、クソッタレめ。わざわざ冷やかしを言うために来たのか?」
「そんなんちゃうて、ひっどい言いようやわぁ」
「だったら何の用だ?さっさと出発しなきゃならねぇってのに」
「・・・ええか?もし一目見て敵わん思うた奴と出会したら、や。捨て身でもエエから思っきし挑んでみぃ?」
「あん?なんの話だ?」
「そいつに一瞬でも本気を出させたら、助っ人が飛んで来おる。そう、『最強の助っ人』が」
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「奴がその....『最強の助っ人』....なのか?」
驚くイサギを側に、2人は会話を始める。
「フハハハっ!!2年ぶりだな?オレは会いたかったぞ!!」
「何故、貴様がここに居る?・・・サイジョウ」
「なぜだと?おかしなことを聞くものだ。・・・オレとオマエは戦う運命にある!!そうだろうッ!?」
「・・・やはりおかしな奴だ、貴様は」
訳の分からない会話にイサギは置いてけぼりをくらう。
「チッ....こんなんならさっき死んでおくんだったぜ、クソが....」
再び空を仰ぐイサギであった。
なるほど。鉄源素の異常生成が睡眠障害を引き起こしてたんだね....
ん?いや、助かって良かったとは思ってるけどさ....
あれだけの猛攻を凌げるアルムガルドのカーマって一体どんな能力なのさ...?