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  作者: あ
燈和=フラデリカ編
28/34

氷戈VSフラデリカ

<世界観設定>

カーマ:その個人に宿る特殊能力であり、ある条件を満たした者にのみ発現する。原則最上位の優先度を誇り、防御や対応、相殺するには同じく(カーマ)の力を行使しなければならない。


源術アルマ:人体を構成する基本的要素である『源素』を応用し、攻撃や防御をするために作られた術の総称。分かりやすく言えば魔法であるが、力の源は魔力ではなく身体を構成するエネルギーそのものであるため『一時的に命を削る技』とも言える。なおこの世界に魔法や魔力といった言葉や概念は存在しない。


源素げんそ:この世界の人間は『木(風)』『火』『土』『金(鉄鋼)』『水』の計5つの要素によって成り立っており、これをまとめて『源素』と呼ぶ。いずれか1つの要素でも完全に失ってしまうと人体を保てなくなってしまい、人間としての機能を失う。故にアルマの過度な使用は厳禁である。


我成ガイナ:5つある源素「木(風)」「火」「土」「金(鉄鋼)」「水」の内、『金(鉄鋼)』の要素を使用して形成される武器のこと。出現させる人によって姿形が異なり、武器種も様々。誰でも簡単に呼び出せるものではなく、ある程度の鍛錬や条件を要す。

「・・・燈和ッ⁉︎」

「おい、待たんか!ヒョウカ‼︎」


 ギルバートの制止の言葉も無視して、氷戈は前方へ走り出す。

 あまりに考え無しで、あまりに懸命に、あまりに一心不乱に。

 そしてあまりに、無防備で....


「....死ね」

「ッ!?うぐッ!?」


 ボオオオオオオオォォォォォッ!!!


 とてつもない炎の奔流が氷戈を襲う。

 彼女はこちらへ向かってくる氷戈を横目で一瞬確認するや否や、ノータイムで左の掌を向けこれを放ったのだ。


「クッ!?・・・ヒョウカよ!!」


 氷戈のすぐ後ろを追っていたギルバートも炎に呑まれそうになるが、間一髪のところで横へ避けることに成功する。ところが氷戈への直撃を目の当たりにし、反射で名前を叫ぶ。



 十数秒後、火炎放射器を何百倍にしたかのような炎の噴出が収まると、黒く焼き焦げた地面が煙の中から姿を現す。


 そのまた数秒後、この焼痕極まった場所に居たとは思えないほどに無傷な氷戈が見えるのだった。

 彼の前方には等身ほどの氷の盾が立てられており、これで見事防いだように()()()()()


「無事だったか!」


 ギルバートが氷戈の隣へ移動すると同時に、氷の盾も崩れる。


 そうして両者は約2年ぶりに相まみえることとなる。


「燈和....」

「青髪め....」


 片方は嬉しさと懐かしさ、そして寂しさと様々な感情が交錯したような声で。

 一方は憎しみただ一色に染まった声で、相手を呼ぶ。


 緊張が張り詰める中、ラヴァルドが声を荒げる。


「おいフラデリカ、テメェっ!?何してくれてンだ!!折角オレ様がコイツらまとめてチキンにしてやろうと思っt....」

「黙れ、今貴様に構っている暇などない。・・・それにさっきも言ったがあれは命令違反だ。同じ四天シュピツェルともあろうものがこれでは聞いて呆れる」


 冷たく突き放すフラデリカにラヴァルドはキレる。


「あっんだとクソ野郎ッ!?・・・テメェのことは前から気に入らなかったんだ。ちょっと前まで雑魚だったくせにカーマと源素の量だけで威張り散らかしやがって!!この際ぶっ殺して分からせてやろうか!?」


「なんとでも。どうせ貴様の刃は私には届かない。この時点で勝負は決まっている」


「ッ!!?こんのッ!!」


 ラヴァルドは両手にマグマの塊を出現させた。恐らくは『岩漿熱線ラーム・シュタイル』を放とうとしたのだろうが、すぐに熱が弱まり腕を下す。


「チッ!」


 フラデリカはラヴァルドが攻撃を諦めた様子を確認すると、すぐにこちらへ向き直った。


「さて。待たせたな...青髪。ずっと貴様を探していたぞ....」


「・・・」


 氷戈は改めて雰囲気も、口調も、目つきも、何もかもが燈和と違うことに困惑するも、意を決して口を開いた。


「青髪...ね?まぁアンタの顔と声で名前を呼ばれるよりかはマシか」


「まだ寝言をほざいているのか?何も変わっていないな....姉さんを殺した、あの時から何も....」


「一応弁明しておくけど、レベッカを殺したのは俺じゃないよ。誓ってね」


「・・・ならば誰が殺したと言うのだ。あの質量の氷塊で」


 当時のアルムガルドや今のフラデリカが指摘した『氷で』というのは、着眼点としてはそう見当違いではない。

 この2年間、氷戈もこの世界の様々なことを学んできたが確かに氷を自由自在に操れる人間は居なかったし聞きもしなかった。その上、博識度では右に出るものはいないであろうリグレッドですら知らないと言うので、本当に氷戈以外に氷を扱える人物は居ないのだろう。

 ところが氷戈視点では居るという確信が持てるのだから困る。何せレベッカを殺したのが自分では無いことはハッキリとしているからだ。その上この世界に来てから1週間であった当時、あの大きさの氷塊を誰にも気付かれずにレベッカの頭上に生成、落下させることなど技術的に不可能でもある。


 これをフラデリカが理解してくれれば話が早いのだが、聞く耳は持たないだろう。それに理解してもらう必要もない。

 なぜならこれから彼女を殺すのだ。もうそういった次元の話ではないのである。


「さあ?俺も知りたいくらいさ」


「貴様...どこまでもッ....!!」


 フラデリカは氷戈の他人事のような態度にますます怒りを募らせる。

 これが氷戈にとっては都合が良い。彼女の判断力を鈍らせることが本作戦最大の要と言って良いからだ。


 そんなこととはつゆ知らず、フラデリカは吠える。


「もういいッ!!貴様と話すことなど初めから無かったのだ。今日ここでお前を殺して、姉さんの仇を討つ!!そのためにこの2年、死ぬ思いで刃を研いできた。No.2(ツヴァイル)にまで上り詰めた!!全てはこの瞬間ときのためにッ!!」


「いいじゃんか、その殺る気。こっちとしても好都合なんだ。・・・俺もアンタを殺すためにここに来たんだから」


 表向きは余裕を装うも、やはり内心では落ち着かない。

 幼馴染である燈和の顔と声で殺気を向けられる恐怖。

 そしてこれから幼馴染を手にかけるという恐怖。

 2種の恐怖に晒されながら、平静を演じるのはそう簡単なことではい。


「・・・私を殺す?どうしてだか知らないが、姉さんを殺したことが余程後ろめたいのか?それとも自分の命を狙う私が許せないか?」


「ばーか、んなちっちゃな理由で殺さねぇよ」


「何?」


「俺が俺であるため....アンタが燈和であるため....また皆んなで馬鹿やるため....ただそれだけで良い。アンタには悪いが、取り戻させてもらう」


「どうやら言葉が通じないようだな?まあいい....」


 フラデリカはそう言うと、隣にいるラヴァルドへ命令する。


「良いか?私とコイツとの決闘に一切の手出しは許さんぞ。・・・貴様はその何故ここに居るかも分からんウィスタリアの国王とでも遊んでいろ」


「なッ!?ウィスタリアってあのウィスタリアかッ!?・・・ククク....ケケケケッ!!命令口調なのが気に食わねェが、良い事を聞いたんで許してやらァ!」


 ラヴァルドはテンションをブチ上げ、ギルバートへ噛み付く。


「おいおい、そんな大国の王様だったンならさっさと言えってんだよ、アアッ!?最ッ高に殺し甲斐があるじゃねェか‼︎早く殺らせろッ‼︎」


「・・・はて、死人のくせしてよく喋るものだ。・・・案ずるでない、そんなに死に急ぎたいのであれば余以上の相手は居らんでな?ウィスタリアの王の名の下に、言葉通り()()()()()()()()()を保証しようぞ!」


 ギルバートのこれは恐らくハッタリでもなんでもない、事実なのだろう。前に聞いたギルバートのカーマの内容がそれくらいには強力で、『最低でも死ねること』という言葉にぴったりなものであるから。


 ギルバートはそう言うと、ラヴァルドへ目配せをした。

 ラヴァルドはこれの意を汲み取ったようで、この場から数百メートル離れた場所まで飛ぶように移動していった。


「・・・必ず勝て。勝って取り戻すのだ、其方の宝物とやらを。・・・これは勅令であるぞ」


 ギルバートは激励の言葉を残してラヴァルドの後を追う。

 一瞬、彼がチラッとフラデリカの方を見て何か物憂げな表情をしていたのを氷戈は見逃さなかった。


 -そうか。一目惚れとは言え、ギルバートはコイツ(フラデリカ)のことが好きなんだっけな。・・・それなのに俺に『勝て』と言った....。もうとっくに、腹は決まってたのかな....-


「ふぅー.....」


 -俺も覚悟、決めないとな-


 静かに、長く息を吐く。


「・・・ようやく邪魔者が消えた。これで何も気にする必要は無い。・・・今日ここで!私の復讐は果たされる!貴様の死を以って!」


「・・・」


 この広大な地に向かい合う、たった2つの影。

 2人は宿敵か、それとも親友か。


 これを定める戦いが、今にも始まろうとしていた。



 一触即発。

 火薬へ火を燈すのは必然とフラデリカであり、戦いの火蓋が切られた。


「・・・『大炎浪ク・ラム・ヴェロウ』!!」


「ッ⁉︎・・・」


 フラデリカは両手を氷戈の方へ向け唱えた。

 するとこれでもかという量の炎が彼女の周りから横一直線に吹き出し、そのまま氷戈を襲う。例えるなら炎の津波であり、先ほどラヴァルドの出現させたマグマや火山を跡形も無く消し去ったのは恐らくこの技だろう。

 初めはその炎の量とデタラメな攻撃範囲に驚いた氷戈だが、ここは冷静に対処する。


「『氷盾結界ひょうじゅんけっかい』....」


 静かに唱えると、氷戈の目の前には一瞬で分厚い氷の盾が形成された。と、同時に彼を覆うようにして薄い氷の膜が張られる。

 生成した全ての氷にはもれなく『絶対防御』の能力が組み込まれている。これによりカーマ及び源術アルマ由来の攻撃を全て無効化し、盾を向けている方向へは物理攻撃からも身を守ることが出来るようになる。

 つまり幾らフラデリカの使う技の規模が大きくとも、それがアルマである限り氷戈に届くことはない。


「・・・」


 十数秒間続いた炎の波の押し寄せを顔色ひとつ変えず防ぎ切る氷戈。とはいえ氷戈でなければ防いだり相殺するのはほぼ不可能な威力ではあった。

 実際、()()()しているはずなのに少し熱を感じる。こんなことは初めてだ。

『忘レ人』由来の基本源素量の暴力とはこのことか、と実感する氷戈だった。


 -なるほど...。こりゃ2年でNo.2(ツヴァイル)にまで上り詰める訳だ。・・・リグレッドが『どのみち俺じゃないと勝てない』って言ってたのも頷ける-


 ___________________

 介戦組織『茈結しけつ』内講堂、リグレッドによる『フレイラルダ=フラデリカ殺害計画』解説より....


「それはそうとッ!ヒョウに勝算はあるんだよねッ!?最低限、それは言ってもらわないと許さないから!!」


 ギルバートが氷戈の護衛をすると引き受けると言い出し、そのやりとりが一段落した頃の出来事だった。


 ルカは未だ、氷戈一人でフラデリカと戦うことに不満と疑問を持っているようだった。

 確かに氷戈は自分ルカよりは強いかもしれないが、言ってしまえばそれだけである。対してフラデリカは実力至上主義国家で2番目に強いと公言されているようなものだ。ルカからすれば、いや、講堂(この場)にいる殆どの人間からすれば肩書きが違いすぎると感じるのは無理も無かった。


 ジト目で見つめられたリグレッドは観念したように話し始める。


「あー、もう!!分かった分かった!別にこれに関しては隠す必要もあらへんしな....。結論、勝算はある。むしろ大アリや。言うてまえば、今居る『茈結』の人間の中だといっちゃん安定して勝てるんがこの氷戈なんよ」


「・・・え?そうなの?」


 ルカは抜けた声で聞く。この回答の内容がよほど予想外だったのだろう。

 リグレッドはニヤついて答える。


「『相殺』。それがフレイラルダ=フラデリカのカーマの能力や。内容は読んで時の如く、対象となるものを自身のカーマの出力分だけ問答無用で相殺するちゅうもんや」


「えーと。でもそれって普通に技をぶつけて相殺するのと何が違うの?」


 ルカの疑問はもっともだ。

 確かに出力が同じでなければどんな攻撃も相殺できないのは、普通に戦っていてもその通りである。わざわざカーマの能力である必要が無いのである。


 リグレッドはこれに人差し指を立てて、教師のように解説を始める。


「早いとこ、全ての事象が出力勝負になると考えて貰ったらエエ。例えば向こうの放つ火の源術アルマには水のアルマをぶつけるんが定石やな?普通、半分程度の出力で相殺できる。せやけど『相殺』のカーマが付与された炎を放たれた場合、仮に水のアルマであったとしても出力がその半分やと相殺できずに打ち負けてまうんや」


「ふーん」


 ルカはまたも腑抜けたような声で応じる。どうやら『相殺』の力が想像より壊れていないことで、氷戈を心配する必要がなくなったと思っているらしい。

 これは他の茈結メンバーも同じで、その程度がNo.2ならこの作戦も楽に遂行できるのではと明るい空気が流れ始める。


「全ての事象、というのは当然カーマや物質も見境無く含まれるんだろう?それならとんでもないじゃないか」


 この空気に釘を刺したのはアビゲイラであった。

 リグレッドはこれに便乗するように言う。


「流石ラビさん、その通りや。どのようなカーマにも相性問わず出力勝負に持っていける上、元は源素由来の物質である鉄鋼類等ももれなく対象や。・・・せや、自分らも知っとるやろ?ラビさんの飼い慣らしとるおっそろしい怪物たち。あいつらめっちゃ強いし、早いし、死なんとちゃうかってくらいタフやしで厄介極めとるが全員『相殺』でイチコロなんやで?」


「ッ!?うそ....」

 ザワザワ.....


 ルカは絶句し、講堂にもざわめきが走る。

 氷戈も二匹ほど見たことあるが、確かにアレらをイチコロできるのであれば恐ろしい能力だと改めて実感する。


 自分のカーマを出汁にされたアビゲイラは気持ち不満そうだったが、変わらず落ち着いた口調で話す。


「イチコロ、といっても私のペットが顕現を維持できるエネルギー以上の出力を浴びせないとダメでしょう?・・・まあアナタの言い方的には、フラデリカにはそれが可能なのでしょうけれど」


「正しくそこなんや。知っとるもんもるかもしれへんが、フレイラルダ=フラデリカは『忘レ人』。つまるとこ、その出力で押し負けると言うことはまずあらへん。・・・まぁ『忘レ人』が持ったら一番アカン内容のカーマよな、『相殺』は。相性が良すぎる....」


「そ、そういうこと....?」


 ルカは初めてフレイラルダ=フラデリカの恐ろしさを実感したようで、冷や汗を垂らす。

 リグレッドはここへ追い打ちをかける。


「更にや。彼女は、放つ全ての炎にこの能力を仕込んどる。ほんで戦闘時には常に莫大なエネルギーの炎を身に纏いながら戦うんやが、これがヤバい。・・・はて、何がヤバいんか分かるか?」


「もしかして....攻撃、通らなかったり....?」


「そのもしかして、や。彼女の纏った炎の出力を超える攻撃であらへんと、どないな攻撃であろうと途端に食い潰されてまう。よってあらゆる武器も当たる前に消滅するんで使用不可。防御策も貫通。・・・ハッキリ言うてイサギさんでも勝てへんな」


「フンッ....出汁にしやがって」


 こちら(イサギ)はしっかりと出汁にされた不服を前面に出す。とはいえ反論をしない以上、勝てないと言うのはマジなのだろう。


 この事実に、先ほどとは打って変わって重い空気が流れ始める。


 ここでリグレッドは締めに入る。


「『忘レ人』由来の圧倒的出力を超えん限り、どないな攻撃も防げへん。どないな攻撃も当たらへん。それがNo.2(ツヴァイル)フレイラルダ=フラデリカの強さの由来や....」


 ひと呼吸置き....


「だがしかぁしッ!!これら全部を気にせず、ぶん殴りに行ける奴がこん中にたった一人だける!!そ・れ・こ・そ・が....」

 ___________________


 -『絶対防御』を持つ俺ってことか....-


 氷戈がそんなことを思い出してるとは分かるはずもないフラデリカは驚きの声を上げる。


「驚いた...。まさか私の炎を受け切るとは、こんな奴は初めてだ。伊達に当時No.3(ドライス)の姉さんを殺してはないな」


「だから殺しちゃいないんだけどね....まあどうも」


 表では適当にあしらう氷戈だが、内心は焦り始めていた。

 氷戈はリグレッドに提案されたある戦法を取り入れるつもりなのだが、これは戦闘が長引けば長引くほど成功の確率が落ちる。

 否、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と表現した方が正しいか。


 どのみち何もしていない時間を減らしたい氷戈はすぐさま反撃に転じる。

 と思われたが、氷戈は敢えてバックステップを踏み距離を取るのだった。


 ニヤ....

「・・・?」


 不自然な行動に不自然すぎる笑みを浮かべる氷戈。これにはフラデリカも困惑の表情を隠せない。


「貴様、どう言うつもりだ?」


「さあ?それを()()のが楽しいんじゃないか....」


 氷戈は挑発を重ねた末、左手を広げ真っ直ぐ前へと突き出す。


てろ...『フーカ』....」


 唱えた瞬間、開いた左手の真下部分が瞬時に凍りつく。そこから先端を天へ向けた氷柱が勢い良く伸びる。2メートル程にもなる氷柱は間もなく砕け散り、中からは全身が氷で出来ている槍が姿を見せたのだった。


 氷戈はそれを手に取ると、構えて見せた。


「それが貴様の我成ガイナか....。槍とはまた珍しい....」


 フラデリカはそう言いながらも、氷戈を睨む。


「しかしそれを出すためだけに私から距離を取ったのか?敢えてガイナ()の射程外へ行くとはますます怪しい...」


「怪しい?・・・こんなにも堂々としてるんだぜッ!!ハッ!!」


 変わらず不敵な笑みを浮かべながら、槍を斜め上に大振りして見せる氷戈。

 するとフラデリカの頭上に無数の小さい氷柱が生成され始める。


「『氷雨徹尖ひょううてっせん』!!」


「ほう?」


 詠唱と共に氷柱針がフラデリカとその周辺へ降り注ぐ。

 ところが彼女は余裕の表情だ。

 そのまま少し力を入れるような素振りを見せると、莫大な量の炎が彼女を取り囲む。


 これがリグレッドの言っていた『全てを食い潰す炎の鎧』であろう。

 その噂通り、降り注ぐ氷柱は炎に飲まれた途端にその姿を消す。解けたのとはまた違う、分解されたような消え方だった。


 炎に包まれたフラデリカは棒立ちで上を見つめる。


「.....ッ!?なんだ!!」


 余裕の佇まいを見せていたフラデリカは突如、驚きの声を上げる。

 ある一つの氷柱が、彼女を捉えようとしたからだ。


 彼女は寸でのところでこれを交わしたが、動揺を隠せないでいる。

 氷戈はこれを見逃さない。


「ハッ!!」


 自身の周りに頭ほどの大きさの氷を4つ浮かべていた氷戈は、それぞれから高速で氷柱を伸ばしてフラデリカへの直撃を狙う。

 今度はそのどれもが『相殺』の炎を掻い潜り、彼女を襲った。

 対するフラデリカは直前に『相殺』を無効化されたこともあり、しっかりと腰に下ろしていた剣を引き抜いて串刺し攻撃を弾く。

 彼女は流れで10メートル程の特大火球を飛ばして反撃するも、氷戈は氷の盾でいとも簡単に振り払ってしまう。


 ここで両者は手を止めたので、フラデリカは剣を納める。


「・・・なるほど。距離を取って不利なのはどうやら私の方らしい」


 -って、思うじゃん?-

「・・・」


 考えていることを悟られないように、真剣な顔と無言を貫く氷戈。

 そうしてフラデリカは両方の前腕を胴の前で交差させ、唱える。


「双刀!!『灯火リ・フィルテ』!!」


 同時に交差させた前腕を素早く広げると、くうで描かれたX字の軌跡上が激しく燃え上がる。やがてそこから二刀の、輝かしいレイピアが姿を現すのであった。


「これが私のガイナ、『灯火リ・フィルテ』だ。・・・戦闘は凡そ遠距離で片付いてしまうのであまり呼び出す機会が無かったが、思えば炎で焼け死ぬのでは生温い。・・・その者の心を写すとされる我成ガイナで殺してこそ、復讐を果たすに相応しい!!」


 -本当にそうか?そうせざるを得ないだけだろう?-

「・・・」


 あくまでも無言。何も言うな。そうすれば、何もかも上手くいく。


「行くぞ、姉さんの仇!・・・うおおおおぉぉぉぉッ!!」


 -待ちは怪しまれる。行くしかない!!-

「・・・ッ!!」


 レイピアを両手に、近接戦を仕掛けるべく全速力で特攻するフラデリカ。

 槍を片手に、作戦を仕掛けるべく全速力で特攻する氷戈。


 その距離は加速度的に縮まって行き、そして.....


「う....グッ!?....クハッ!」


 跪く敗者。

 一方勝者は、血に染まった手をただただ震わせていた。

勝者....って、え?

もう決着がついたのかな?

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