「王」VS「第四席」
欲:その個人に宿る特殊能力であり、ある条件を満たした者にのみ発現する。原則最上位の優先度を誇り、防御や対応、相殺するには同じく欲の力を行使しなければならない。
源術:人体を構成する基本的要素である『源素』を応用し、攻撃や防御をするために作られた術の総称。分かりやすく言えば魔法であるが、力の源は魔力ではなく身体を構成するエネルギーそのものであるため『一時的に命を削る技』とも言える。なおこの世界に魔法や魔力といった言葉や概念は存在しない。
源素:この世界の人間は『木(風)』『火』『土』『金(鉄鋼)』『水』の計5つの要素によって成り立っており、これをまとめて『源素』と呼ぶ。いずれか1つの要素でも完全に失ってしまうと人体を保てなくなってしまい、人間としての機能を失う。故にアルマの過度な使用は厳禁である。
我成:5つある源素「木(風)」「火」「土」「金(鉄鋼)」「水」の内、『金(鉄鋼)』の要素を使用して形成される武器のこと。出現させる人によって姿形が異なり、武器種も様々。誰でも簡単に呼び出せるものではなく、ある程度の鍛錬や条件を要す。
キィン!!ガキィン!!
目の前では間違いなく、この世界でも上澄みレベルの戦闘が繰り広げられている。
のにもかかわらず、主人公氷戈はただ突っ立ってそれを眺めているだけである。
「ギルバートのやつ...本当に強いじゃんか....」
紫色の長い髪を舞わせ、激しくせめぎ合う姿を見て思わずそんな声が漏れる。
実際ギルバートが戦っている相手も相手で、多くの国に名を馳せるほどの実力者であるが、これと互角の勝負をしているのだからとんでもない。
ギルバートとラヴァルドは互いの武器をぶつけ合った反動で距離を置き、一旦戦いが止む。
「ケッ...近接戦じゃあ埒が明かねェとはなァ。・・・テメェ一体何者だ?」
「・・・ふん、罪人に答えてやる情は持ち合わせておらぬ」
ラヴァルドの問いを一蹴するギルバート。
先ほどクラミィを殺そうとしたことに相当怒っているのだろうが、まあ無理も無い。
「ヘッ、冷てェじゃんかよオイ。雨は降るし、氷使いのガキも居るしでよォ...。オレ様は冷てェのが苦手なんだってのに。・・・とはいえ、だいたい予想はできてンだ。2人を連れて逃げたヒョロガリが『陛下』って呼んでたり、我成も王笏ときた。つまるところテメェ、どっかの王様だろ?」
「・・・そこまで分かっていて、他に何が知りたいというのだ」
「アン?ンなんテメェがどこの国の王サマかだろ」
「各国に名を馳せていると自負しておったが、フラミュー=デリッツの第四席様が存じておらんとなると、余もまだまだのようだ。・・・そうだな?目の前に居る、かの有名なNo.4様でも手にかけ、この名を売るとするかな」
「ケッ、あくまでまともには応じねェってか?つまんねェ野郎だ」
ラヴァルドは少しいじけたように言うが、すぐに調子を取り戻す。
「けどまァ、テメェが『どっかの王様』って分かっただけで十分だなァ。・・・ククク、ケケケッ...」
不気味に笑うラヴァルドだが、その顔はまるで新しいオモチャを与えられた子どものような、とても無邪気なものであった。
これには怒りに燃えるギルバートも、若干引いている様子だ。
「・・・余がどこぞの王だと分かり、それの何が可笑しい。貴様にはなんの関係もないことだろう」
「関係もないだァ?バカ言え大アリだ。・・・これから殺る相手のご身分ってのは、一番大事だろ?」
「・・・?」
「だってよォ?殺した命の価値が高ければ高いほど殺し甲斐があるってもンだろ!?もっと気持ちよくさせてくれよ!!」
「ッ⁉︎外道めが!」
ガキンッ!!
外道発言をした直後、ラヴァルドは待ちきれなくなったという様子でギルバートへ斬りかかる。
ギルバートはこの奇襲の防御には成功するも、大きく吹き飛ばされてしまった。そこへ畳み掛ける形で
「コイツはもっと大勢が居るところで使いたかったが、仕方ねェだロ。・・・王様の命を奪うのが、有象無象の命を奪う何倍気持ちいいかッ!?ワクワクして止めらんねェ!!」
テンションMAXで叫んだラヴァルドは、刃へと変形した右手を勢いよく地面へ突き刺した。と、同時に唱える。
「『皆溶岩漿域』!!」
ゴゴゴゴゴゴ.....
その地響きと共に、地面が揺れ始めたのだ。
「なんだ⁉︎」
「うあ⁉︎」
ギルバートと氷戈は、驚きで声を上げる。
立っているのがやっとな程の揺れで、2人はよろけながらもラヴァルドの方目をやる。
すると彼を中心に無数の地割れが四方八方に広がり、大地を裂いたのである。
『大地崩落』
ラヴァルドは、まさにそのような状態をたった一人で引き起こしたのである。これが四天の実力なのか。
地割れは問答無用で2人の足を奪いに来る。
ギルバートは手に持つ王笏と、華麗な身のこなしでなんとか転倒は避けたものの依然苦しい顔を続ける。
氷戈は身体を支えるモノを持ち合わせていなかったため、四つん這いになり身動きが取れない状態になってしまう。
「くっそ」
容赦無く広がる地割れに呑まれるのは時間の問題であった。
-『じわれ』なんて一撃必殺技なんだから呑まれるのはヤバいだろ!しかもこんなん命中率3割なんてレベルじゃないぞ必中だよ!確率に頼らず、文字通り無効にしないと絶対死.....ん?-
ここで氷戈は何かを思い付く。
すると氷戈は決死の覚悟で立ち上がり、低いながらもジャンプをした。無事な着地など眼中にない、本当に一度限りのジャンプである。
「とうっ!」
地から足が離れた、その瞬間に六角形の氷の板を自身の足元に形成させたのだ。
ドテっ!
「痛っ!」
とても両足で着地できるような体勢ではなかったため、勢いよく転倒し尻餅をついた。
だがそこは揺れも無ければ、地割れに怯えることもない、『崩落』から隔絶された安全な床であった。
氷戈は氷の板の上で立ち上がり、周囲の状況を確認しようとした。
すると事態は次の段階へと移りかけていた。
「オイオイ王様よォッ⁉︎まさかこんなもんで終わりだと思ってねェよなァ⁉︎」
ラヴァルドは地震と地割れに悪戦苦闘するギルバートを嘲笑するように言うと、これに呼応するように大地から煙のようなものが上がり始めたのである。
「クッ!なんだ⁉︎・・・これは....まさかッ⁉︎」
ギルバートは何かを察し、目に見えて焦り始める。
そんなことはお構いなしに煙の量は増えて行き、そして....
グゥォォォオオオオオン‼︎
無数に広がる地面の裂け目から、一斉にマグマが噴き出したのである。このまま地上に居ては足元がマグマで埋め尽くされ、溶け死ぬのは必至である。
「おのれッ!!?」
定まらない足場に、逃げ場の無い周囲。
どうしようもない状況に、怒りと焦りを露わにするギルバート。
そこへ氷戈は叫ぶ。
「おーい、ギルバート!!思いっきり高く飛ぶんだッ!!」
ギルバートは言われた通りマグマに呑まれる、その直前に十数メートル飛んでみせた。
王笏の先を地面に向けており、どうやら風の源術の反動で高く浮かび上がったらしい。
しかし反動が失せ、地に落ちれば死ぬのは変わらない。一度しか使えない、たった数秒間の延命措置であった。
氷戈が浮かび上がったギルバートの足場に氷の床を生成するまでは。
「なんと!」
「あン⁉︎なんだそりャ⁉︎」
突如出現した浮かぶ氷にギルバートとラヴァルドは驚く。特にラヴァルドは勝利を確信していたがために、驚愕している様子だ。
ところが2人は『宙に氷の足場を作って凌ぐ』という発想に驚いている訳では無かった。そもそもこの状況で『氷の足場を作ること』自体がおかしなことなのだ。
本来、固形物を源素によって生成する場合はある程度の時間を要し、ましてはそれを長く宙に留めておくことは出来ないはずである。つまるところ今回の足場の件や『源素で作った氷を盾にして敵の攻撃を瞬時に防ぐ』という行為自体、そもそもがおかしな話なのである。
だが氷戈は例外であった。
なぜなら彼は『圧倒的な基本源素量』を有するからである。これにより氷戈の固形物を生成する出力は他とは桁違いとなり、以上のような芸当を無理やり可能とさせているのである。
よって、このことを知らない2人は通常ではありえない技を目の当たりにして愕然としたのである。
噴き出たマグマは一瞬にして地面を覆い尽くし、辺りを赤く染めてしまう。熱から生じる煙と、降る雨から生じる水蒸気とが合わさり視界は白く染め上げられる。まるで地獄のような光景である。
「ふぅ...」
氷戈は安堵のため息を漏らすと、ラヴァルドは問い詰める。
「おい、アレはテメェの仕業か?・・・てかその足場見れば聞くまでもネェか」
氷戈の足元の氷の床を見て自己完結すると、今度は声を荒げ
「・・・毎度毎度よォ、変な事してオレ様の楽しみの邪魔してんじゃあネェぞクソガキがッ!!先ずはテメェからブチ殺してやらァ!?」
何度も自身の攻撃を防がれ激昂したラヴァルドの標的は氷戈へと定まり、足元のマグマを跳ね除け突撃してくるのだった。
「うあ⁉︎こっち来た‼︎」
殺意の塊が自身を目掛けて来るので、情けない叫びを上げる氷戈。なんでマグマの中歩けるんだよ。
そんな中、上空に居るギルバートが声をかける。
「助かったぞヒョウカよ!・・・しかしもう良い!今其方の特性を知られては全て水の泡であろう‼︎」
「....」
この言葉を聞いて、氷戈は何かを考えたようだったが直ぐに頷き
「分かった。コイツはギルバートに任せるよ!」
そう言った頃にはラヴァルドはほんの数メートルのところにまで迫っていた。
間もなくラヴァルドが振りかざした我成が氷戈を捉えようとした。
「死にやがれェ‼︎」
「寿命以外で死ぬのは御免なんでね。じゃあの〜」
______。
「なッ...んだと...?」
そうして生じたのは『無』であった。
実際には氷戈は自身を氷のドームで覆いラヴァルドの攻撃を防いだのだが、それならそれで衝撃音が響くはずである。それどころかガイナと氷がぶつかった時の衝撃そのものが無かったのである。
氷の壁は十数センチ程あり、かなり分厚いが互いを確認できるほどの透明度を誇っている。
またも驚くラヴァルドに向けて氷戈は満面の笑みを送り、煽り散らかすのだった。
「ちっくしょッ‼︎どうなってやがるんだこの氷はッ⁉︎」
これにまんまと乗っかったラヴァルドは再度自身の大きなガイナで切りつけようとするが結果は同じく、生じるのは『無』のみ。10回ほど試した末、遂に諦めたのかおとなしくなる。
「なんだってんだ。そもそも当たってねェのか?...」
「徳位装術『風帯』...」
ただならぬ雰囲気を醸すのは、氷上に佇むギルバートであった。
氷戈の欲、強すぎじゃないかなこれ....それに基本源素量もすごいんでしょ?
これが俗に言う、なろう系主人公なのか?
え、それならもっと分かりやすく強いって?もーボクには君たちの文化が分からないよ...