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  作者: あ
燈和=フラデリカ編
18/34

格好

さっき聞いたんだけど、あの感じでフィズおじさんってめちゃくちゃ強いらしいよ。

これが俗に言う「ズラし」ってやつなんだろうね?

 ザワザワ・・・


「はぁはぁ...上手く撒けたか?フィズ...」


 組織『茈結しけつ』の講堂はいつにも増してざわついていた。

 クラウ、クラミィの両者から追われていた身である氷戈とフィズは講堂入り口から慌ただしく入ると、そこから死角になる手前の壁側へ寄った。


「どうダろうネ?さっきミタいな叫び声は聞こえナいかラ大丈夫じゃ無いカな?」


「ふはははは!食堂のシェフは知らぬがクラミィなら心配いらんぞ?奴は方向音痴を極めているのでな!今頃その怒りを護衛どもにぶつけている事だろう」


「うおっ!びっくりした。・・・何でまだ居るのさ」


 氷戈はフィズが居る事は当然知っていたが、まさかギルバートまで来てるとは思ってもなかった。

 どれだけフットワークが軽い王様なんだ、と思いつつ先ほど知り合ったばかりなのにかなり良い関係を築けていることを少し嬉しく思うのであった。


「何で、とは冷たいな?なぁに、もとより余もこの会議に参加しようと思うていたのだ。・・・其方と話すのであれば其方が参加するであろう会議に出向くのが良いと思うてな?しかし講堂の場所が分からずあちこち彷徨っていたところ偶然あそこで其方と出会えたという訳よ」


「ふーん?」


 -それって兄妹揃って方向音痴ってことじゃ...-


 とは勿論口には出さない。


 会話が一段落したところで、氷戈はあることに気づく。


「なあ?あれってウィスタリアの国王じゃね?どゆこと?」

「どーしてヒョウカちゃんと国王が一緒にいるのぉ?」

「ヒョウカのやつ、今タメ口じゃなかったか?・・・相変わらずだなオイ...」


 先に講堂に居た『茈結』のメンバーの視線を総なめにしているではないか。


「あは...あはは...」


 表立って注目を浴びることに慣れていない氷戈は縮こまってしまう。

 これを見たギルバートは気を利かせたのか大きな声で


「やあ『茈結』所属の者たちよ!諸君らの知っての通り、余はウィスタリア16代国王のギルバートである!今回はフラミュー=デリッツに対する防衛策を練る会議と聞き、参った次第である。・・・次いでフレイラルダ=フラdっぐぼーー!?」


 国王の威厳が損なわれた瞬間であった。


 というのも、後ろから何者かにハリセンで引っ叩かれたのである。

 国王相手にこんなこと出来る者は、一人しかおらず....


「おいギルゥ!!なぁに盛大なネタバレかましてくれようとしてんねんアホォ!?」


 とは言いつつも、自身は盛大な登場をかましたのはリグレッドであった。

 我らが組織の団長が大国の王の頭を思いっきり引っ叩いたのだから空気は当然凍りつき、氷戈も若干引き気味に言う。


「リ、リグレッド....」

「お、氷戈にフィズ。もうおったんか?・・・はよそのバカ連れて空いてる席座りや、もう始めるで?」


 彼はそう言うと何事もなかったように壇上へ続く通路を歩いて行った。


「い、行こう?フィズ、ギルバート」


 そうして2人と一緒に席に着こうとしたが、ギルバートが顔をうつ伏せにしたまま動かない。


 -これはマズいのか?-


「き、き....」


「お、おい?ギルバート?」


「貴っ様オイ!リグレッドおおお!・・・国王である余がしれっと登場してカッコよく演説を決めて拍手喝采で迎え入れられようという完璧なビジョンを台無しにしおって!許さんぞ!!」


 -は?-

 この王は何を言っているのだろうか。


 これを聞いたリグレッドは黙って踵を返し、ギルバートの眼前で


「・・・じゃっかしいわっ!そもそも何勝手にボクの組織入ってきてカッコつけようとしとんねん!?おまけに作戦内容まで赤裸々に話しやがって!ボクがカッコつかんやろ!!」


「何だと?何故なにゆえ余が作戦内容を話すと格好がつかぬのだ?」


「は?そりゃあ会議の初めに『ではこれより、今回の作戦内容を発表する』って言うた方がポイやろ?」


「・・・うむ、確かに」


「分かったんやったらええんや。早よ座らんかい」


 シーン....

 今度は一体、何を見せられているのだろうか。


 これは氷戈の心の中の声であるが、恐らくこの場にいる全ての者が同じことを思ったであろう。全員が同じマインドを持った素晴らしい環境である。


 今ので叩かれた理由に納得したのか知らないが、辺りを見回し空いている席へと歩いて行く。リグレッドも再び踵を返し、壇上へと登ると資料を広げ始めた。

 唖然とする氷戈とフィズはその場から動けずにいた。当然周りの人たちも静まり返ったままである。白けた、と言うよりは国王のギャップと2人のバカさ加減に言葉を失っていると言う表現が正しい。

 これを見たギルバートは不思議そうに問う。


「?・・・どうしたヒョウカよ、早く行くぞ」


「・・・え?ああ、うん。因みに隣座る感じ?」


「無論だ。・・・む、あの席はどうだ?」


 そう言って指さしたのは壇上の真ん前、一番前の席であった。俗に言う『席替え大外れ枠』筆頭の席である。

 しかし空いているのは2席のみ。フィズはすかさず


「おッと、ワタシの席は無イヨうだネ!ではこレにて!」


 と逃げるように別の席の方へ行ってしまった。

 そこでフィズは案の定、質問攻めに遭っていた。


 それを見届けた氷戈はギルバートの左横の席へ着席する。


「ふぅ」


 氷戈は一息吐くが、すかさず左の方から突かれる。


「ねね、なんで王様と仲良いわけ?」


「?・・・ああ、ルカか。・・・仲良いっていうか、何かあったってていうか...」


「だからその何かを聞いてるんじゃんか!」


「ちょっ!今は隣に居るから黙ってろって...」


 興味津々で体を乗り出してくるのは『ルカ』という1つ下の女の子である。年齢や実力も近く、その好奇心旺盛な性格からか氷戈がここへ来て序盤に親交を深めた人物ののうちの一人である。

 訳あって今では氷戈の方が一回り強いがそれでも頻繁に交流しており、信頼がおける人物でもある。


 小声で制止してもなおグイグイ来るルカに参っていたところに、助け舟が入る。


「やめたげて。おねーちゃん。ヒョウカくん、困ってるでしょ」


「・・・もう!シーナったらいつもヒョウに甘いんだから!・・・でもそれも可愛い好き好き!」


「ぐにゅ!うー、くるちい...」


 しつこかったルカを一撃で鎮めたのは彼女の実の妹である『シーナ』である。

 妹とはいっても双子であり、背丈や髪の色は全く一緒である。性格に関してはご覧の通り酷い乖離のしようであるが、互いが互いを好いており、特にルカからシーナに対するそれは普通ではない。


 グッ!


 氷戈はぬいぐるみのように抱かれるシーナにサムズアップをして感謝の意を伝えると、彼女は苦し紛れにサインを返してくれた。

 シーナも同様、氷戈がこの組織で信頼をおいている人物である。


 この光景を目の前で見ていたリグレッドはため息を吐きつつも、大きな声で全体に言う。


「はぁ・・・。ほなこれより介戦組織『茈結』の作戦会議を始めるでー。見たとこちらほら来とらんやつもるが、まぁしゃーないやろ」


 その言葉でざわついていた雰囲気が一気に引き締まり、皆席に着いた。

 前に居るのはリグレッドと、そして『サッチ』という小さい男の子である。

 彼は『茈結』の情報収集や管理を担当しており、その役柄上リグレッドと一緒にいることが多い印象だ。


「ではこれより、今回の作戦内容を発表する!」

 キリッ!


 -あ.....。あの流れの後にちゃんとやるんだ-


 そう全員が思ったであろうが、気にせず続ける。


「題としては『対フラミュー=デリッツ防衛作戦』と『フレイラルダ=フラデリカ殺害計画』の2つや」


「フラミュー=デリッツめ、遂に動いたか」

「殺害?えっ?」

「フラデリカってこの前の征伐隊の隊長やってたやつじゃね?」


 とそれぞれの反応を見せる。


「静かにせぇ!おっきい声出すん苦手やねん!」


「・・・嘘でしょう」


「オイ、サッチぃ!?なんか言うたか?」


「い、いえ何も!」


 壇上でプチ漫才を披露するので、呆れ声の注意が入る。


「リグレッド、さっさと次へいけ。この調子なら俺は寝るぞ」


 低い声でそう言ったのはイサギという強面の男性である。

 彼はこの組織で武術講師としての役割を担っており、その名目や見た目通りとても強い。

 氷戈もイサギに槍術を教わっているが、勝てた試しもなければ誰かに負けているところすら見たことないレベルである。


「ほれみぃ!自分のせいで怒られてもうたやろ!」


「もう僕に振らないでくださいよ!マジで怒られちゃいますって!」


 リグレッドはサッチにそう言われ、改めてイサギの方を見ると怒りマークが3つほど増えていたので即時おふざけを取りやめて次へ進んだ。


「お、おふん!・・・ほな、順を追って説明させてもらうわ。まず『対フラミュー=デリッツ防衛作戦』の方やが、まあ読んで時の如くやな」


 一呼吸おき...


「ほいで何でこないなことせなアカンのかやが、フラミュー=デリッツの連中がマーベラットを攻め落とす言い始めたんや」


「・・・まーべらっと?」


 氷戈は聞いたことあるような無いような語に首を傾げた。

 すると、隣に居たギルバートが得意げに解説を始めようとしたが


「資源国家マーベラットとはな...」

「ちょいまち!」


 リグレッドはそれを止めた。

 これに対し怪訝そうな顔で問う。


「なんだ?また格好つけたいとか言うのではないな?」


「ちゃうわ!・・・いやな?どうせなら氷戈にだけやなくてここに居る全員に話したってくれへんか?よう分からんっちゅう奴も多いやろ?」


 リグレッドが部屋にいる全員に問いかけると、半数ほどが頷いて見せた。

 あとの半数は「そんなことも知らないのか」と呆れる者やそもそも興味ない者など多種多様であるが、彼らを差し引いても需要は大きいだろう。


「なるほどそういうことか!貴様にしては気が利くではないか」


 そう満足そうに立ち上がったギルバートは、目の前の壇上へと上がりまるで演説の如く話し始めた。


「では、改めて...」


 こうして資源国家を謳いつつ知名度がさほど無い国、マーベラットの成り立ちが語られるのであった。

関西弁ってエセだとやっぱり分かっちゃうものなのかな?



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