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第九話

 パーティはそれからひと月ほど自由行動で都で羽を伸ばした。


「都ともなると、監視の目が光るか……」


 アルフレッドはここしばらく盗賊団につけられていることに気付いていた。


「それにしてもなぜだ、よく分からんな」


 アルフレッドは歩調を速めて裏通りに入って行った。つけていた盗賊もアルフレッドを追った。と、曲がり角でアルフレッドは盗賊を待ち伏せしていた。


「おい、何か用か。俺が気付かないと思っているのか」


 アルフレッドは短剣で盗賊を脅しにかかった。逃げようとした盗賊の手をつかんで、その腕をひねり上げた。


「答えて貰おうか」


「わ、分かった! 話す! 話す!」


 盗賊はじたばたしたが、アルフレッドは地面に押さえつけた。


「よし、話せ」


「頭領だ。頭領からの命令なんだよ。お前アルフレッドだろ?」


「そうだ。俺に何の用だ」


「頭領はお前に会いたがっている。仕事を頼みたいそうだ。正確には、お前たちのパーティに」


「なぜ俺たちのパーティを知っている……と、そうか。ここ最近の情報は入手済みか」


「そうだ。ザカリー・グラッドストンと戦ったこともレ=ラ=マイラの件も知っている。頭領は腕利きの冒険者を探しているのだ」


「で? 何を頼もうというんだ」


「それは頭領の口から聞くといい」


「話は分かった。ここの支部はどこにある」


「都の東ブロック三十七番地。ゴールデンライオンという酒場だ。オーナーのルボシュに『ライオンに会いに来た』と言え。盗賊ギルドの支部へと案内してくれる」


「ふうむ……では少し時間を貰おうか、仲間たちとも話さねばならん」


 アルフレッドはそう言うと、盗賊の男を解放した。盗賊は「話は伝えたぞ」そう言って去って行った。


 アルフレッドは宿に戻ると、久方ぶりに仲間たちを呼び集めた。


 話し合いはレストランで食事をしながら行った。


 アルフレッドの話に、エイブラハムがまず応じた。


「俺もつけられているのは気づいていたが、なるほど、そういう事情があったか」


「盗賊団の仕事か……裏の仕事になるんじゃないのか。どうなんだろう」


 エアハルトは危惧した。


「さて、それはまず話を聞いてみないと何とも言えませんが、盗賊ギルドが自前で出来ないことを依頼するほどですから、危険を伴うかもしれませんね」


 ベルナールが言うと、フローラが口を開いた。


「裏の仕事は嫌というほどのことはありませんが、人間関係に巻き込まれると厄介ですからね」


「盗賊ギルドって合法なの?」


 エメラインが言った。アルフレッドは笑った。


「もちろんさ。表向きには合法だ。警察とは持ちつ持たれつ。とは言え、王都にある本部ともなると国王や上級貴族たちともつながりがあって、裏の仕事を引き受けることもある。あまり深入りしない方が身のためではある」


「そうなんだ。怖いわね……」


「ここは都だ。王都とは比較できないが、支部の規模としてはかなり大きい」


「まあ、ひとまず話だけでも聞いてみるか?」


 エイブラハムが言うと、一同頷いた。

 それから翌日。パーティは夜に集結すると、ゴールデンライオンへ向かった。ゴールデンライオンはその辺の普通の酒場とは違って、ホステスやホストが接客していた。店員が「いらっしゃいませ」と声をかけてくるので、アルフレッドは「オーナーのルボシュに話がある」と伝えた。


「かしこまりました。ではあちらのカウンターへどうぞ」


 店員はそう言って、お辞儀をする。


「ありがとう」


 店員にチップを渡すと、アルフレッドらはルボシュのもとへ向かった。


 ルボシュは「いらっしゃいませ。何か御用でしょうか」と会釈する。


「ライオンに会いに来た」


 アルフレッドは言った。


 するとルボシュの表情がかすかに動いた。


「ほう、あんたらが噂の冒険者たちか」


「そうだ。俺が手下を捕まえたアルフレッドだ。せこい真似をするもんだな」


「なるほど。分かった」


 そう言うと、ルボシュはカウンターの端を開けて、冒険者たちを招き入れた。


「ついて来い。頭領に会わせてやろう」


 ルボシュはカウンターの奥へと進んでいった。一同はそれについていく。やがて、ルボシュは突き当りの扉の前で立ち止まると、ノックした。のぞき窓が開いて、「用件は?」と女の声がした。


「ライオンに会いに来た奴だ」


 ルボシュが言うと、覗き窓が閉じて、扉が開いた。ルボシュはアルフレッドらを促した。


「頭領は奥にいる」


 そう言って、ルボシュは店に戻って行った。


 扉の向こうにいた女は、アルフレッドらを見て、「あなたたちが噂の冒険者か」そう言って肩をすくめた。


「案内するわ。来て」


 女は歩き始めた。アルフレッドらはまた女についていく。


 部屋の奥ではまたいくつかの部屋があり、盗賊たちがカードゲームに興じていたり短剣を磨いていたり、退屈そうにソファで寝ている者たちがいた。女は最奥の部屋の中に声をかけた。


「イェレミアス。お待ちかねの客よ」


「誰だ?」


「ライオンに会いに来た」


「そいつは驚きだな。通してくれ」


「ええ。さあどうぞ」


 女は言って、立ち去った。


 冒険者たちは部屋に入った。正面のソファにイェレミアスが座っていて、両脇に女をはべらせていた。


「待ちかねたぞアルフレッド。さあかわいい蝶々たち、少し席を外してくれ、仕事の話がある」


「承知いたしました」


 女たちは部屋から出ていった。


 イェレミアスは扉を閉めると、「さて……と」と言って冒険者たちにソファを勧めた。


「俺たちに仕事を頼むとはどういう了見だ」


 アルフレッドが言った。


「そうだな」イェレミアスは口を開いた。「結論から言うと、とある遺跡の魔物たちを片付けて欲しい。俺たちはその遺跡に盗賊の秘宝プリンス・オブ・シーフと呼ばれる宝珠があることを突き止めた。しかし、遺跡の中にいる魔物たちはいずれも強力で、派遣した部下たちは壊滅した。そこで、腕利きの冒険者を探し出しては魔物の討伐を頼んできた。しかし、成功した冒険者は一人もいない。部下を監視に付けさせているが、それは事実だ」


「それほどの魔物とは、いったいどんな奴だ」


 エイブラハムの問いに、イェレミアスは答えた。


「その昔、宝珠を迷宮に封印した盗賊ギルドの大頭領フールドランは、大魔導士ロンゴレラに莫大な金銭と引き換えに強力な守護者となる魔物を作らせた。人間に近い外見を持つ人造人間とクリーチャーから成る、オリジナルモンスターたちだ。とにかく迷宮への侵入者は敵と見なされ、襲い掛かってくる」


「人造人間にクリーチャーか。ベテランなら倒せそうなものだが……?」


「連中の肌は鉄のように固く、なまくらな剣は通じない。それに加えて連中は睡眠も空腹も感じないらしい」


「ほう……」


「どうだ。ザカリー・グラッドストンを撃退したというお前たちの腕を貸してはもらえないだろうか」


「報酬はどれくらいだ」


「一人二百万でどうだ」


「すると千二百万というところか」


 エイブラハムは仲間たちを見やる。


「どうだみんな。この仕事受けてみるか?」


「やばくなったらすぐに引き返せばいい。ひとまず受けてみるか」


 アルフレッドが言うと、他の仲間たちも賛同する。


「よし。では案内人をつける。そちらの準備が整ったら知らせてくれ」


 イェレミアスは手を打ち合わせると、立ち上がった。


「よろしく頼むぞ」


「さてなあ……まあ敵の強さを見てからだな」


 エイブラハムは言って肩をすくめた。そうして、冒険者たちはいったん宿へと戻ることにした。

 翌日、冒険者たちは錬金術師の店に立ち寄りポーションを買い込み、また万が一に備えてダンジョンから脱出できるテレポートアイテムを購入しておく。


 それから一行はゴールデンライオンに向かった。ルボシュは彼らの姿を認めると、「出発か?」と問うてきた。


 エイブラハムは「ああ。案内人を迎えに来た」と答えた。


「少し待て」


 ルボシュは言って奥に引っ込んだ。しばらくして、戦闘服を着た女の盗賊がルボシュとともにやって来た。昨日、奥の扉にいて冒険者たちをイェレミアスのもとへ案内した女だ。


「お前か」


 エイブラハムは言って、「では宜しく頼む」と言葉を投げた。


 女の名はイヴァンナと言った。そうして、彼女の案内で冒険者たちは遺跡に向かった。



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