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第七話

 その夜、エメラインは夢にうなされていた。黒い怪物が襲ってくる。エメラインは走っていた。怪物は勢いを増して襲ってくる。


 逃げなきゃ……逃げなきゃ……殺される!


「なぜ逃げる? あれはお前ではないか」


 どこからともなく声が響いてきた。


 何? 誰? エメラインは走るのを止めなかった。


「お前は生まれてくるべきではなかった。あれがその証だ」


 何? 何を言ってるの? 私は……私が何をしたっていうの?


「哀れな……己の運命を知らぬ。お前の存在が許されるとでも……?」


 黒い怪物はどんどん迫ってくる。


 いや! 助けて! どうして! 私が何をしたっていうの!?


「いずれ分かる。覚醒したお前を生かしておく者などおらぬ」


 いやあああああああああああああ!


 黒い怪物はをエメラインを包み込んだ。



 エメラインは目を覚ました。


「はあ……はあ……」


 エメラインは時計を見た。汗をかいている。午前四時。エメラインはタオルを持って部屋を出ると宿の浴場へ向かった。薄暗い浴場にエメラインは入って行った。湯につかると少しは落ち着いた。


「何だったんだろう……変な夢」


 エメラインは吐息して、明かり窓から見える月を見上げていた。


「…………」


 エメラインは目をつむって、湯に身を委ねた。何も湧いてこない。あの夢続きも何も。夢は夢だ。


 やがてエメラインは湯から上がると、体を拭いてから服を着て部屋に戻った。またベッドに潜り込むと、安らかに眠りについた。



 アルフレッドは目覚めると、欠伸をして背筋を伸ばした。


「ああ、寝た寝た。何かよく分からん仕事だったが、無事に終わってよかったぜ」


 さて……と。アルフレッドは服を着てカフェで朝食をとろうと部屋を出た。そこにエメラインが出てきた。


「おはようアルフレッド」


「ああ。おはよう」


「朝ご飯?」


「ああ。一緒に行くか?」


「うん」


 二人は一緒に宿を出ると、カフェに入った。客はまばらだ。


 モーニングをオーダーして、二人は特に会話するでもなく食事が運ばれてくるのを待った。アルフレッドは新聞を取ってくると、記事に目を通し始めた。


「連続殺人が起こってるらしいぞ。気を付けないとな。エメライン、一人歩きは止めた方がいいぞ」


「大丈夫よ。新調したこの魔法のローブ、常時シールド展開してるから。強盗のナイフなんて通さないよ」


「ああ……そうだったな」


 アルフレッドはダッシュウッド伯爵の報酬でエメラインが装備を新調したのを失念していた。


 そこへモーニングが運ばれてきた。トーストにスクランブルエッグ、スープにサラダ。


「しかし、お前さんも強くなったな。ただの森の民だと思っていたのが、どういうわけか天才魔術師とはな。お前はずっとあの村にいたのか?」


 アルフレッドはトーストを口に運びながら言った。エメラインはスープを一口飲んで答えた。


「いいえ。死んだお爺ちゃんから言われたんだけど、私は本当はあの村で生まれたんじゃないって」


「何だって? そのお爺さんは何か言っていたか?」


「ううん……ただそれだけ。私も怖くなって先が聞けなかった」


「ふうむ。もしかすると、お前さんの出生に何か秘密があるかも知れんな」


「秘密? アルフレッドは何か心当たりがあるの?」


「生まれながらに強力な魔力を有する一族がこの世界にはいる。閉鎖的で気難しい連中だが」


「私がその一族だっていうの?」


「そこまで確信はない。ただ、魔法使いの世界では連中は有名な存在だからな。当たってみるのもいいかも知れんな」


 アルフレッドは言って、スクランブルエッグを食べた。


「…………」


 エメラインはトーストを頬張って思案顔だった。それから言った。


「アルフレッドって色んなこと知ってるのね」


「そりゃあもう十年近くこの仕事をして、あちこち行ってりゃ色んなしがらみもあるからな」


「そう……」


 しばらくすると、仲間たちがやって来た。


「よう、おはようさん」


 エイブラハムが言うと、ベルナールにエアハルト、フローラも挨拶する。アルフレッドとエメラインも挨拶を交わした。


「一晩明けると、どうにも夢を見ていたんじゃないかという気になってくるな」


 エイブラハムが言うと、ベルナールは「全くですね。長生きはしてきましたがこんなことは初めてです」と応じた。


 エアハルトは肩をすくめて、フローラは「いい経験になりましたね」と微笑んでいた。


 かくしてこの城下町で一週間ほどのんびりして、パーティはさらに南へと向かった。



 ある日の道中、野営することになり、一同はキャンプを張った。そして、夜も更けてきたところで、パーティは襲撃を受けたのだ。


 敵はアサシンの一団だった。仮面をつけていて全身に黒い戦闘服を装備しており、手には毒を塗った短刀を有していた。


 アルフレッドは素早く剣を抜くと、アサシンを一人切り捨てる。次いで襲い来るアサシンの腕を魔剣で切り落とし、返す一撃で逆袈裟に切り捨てる。


 フローラはメイスでアサシンの一撃を受け止め、神霊光線で敵を倒した。


 エイブラハムも魔剣を暴風のごとく振るい、アサシンたちを切り捨てていく。


 ベルナールはマジックミサイルを放ち、エメラインとエアハルトらはファイアストームとブリザードで敵を一掃した。


 アサシンを全員片付けた冒険者たちは、身元を調べた。


「何者だこいつら。おい、アルフレッド、お前を狙ってきたんじゃないか」


 エイブラハムが言うと、アルフレッドは「どうだろう」そう言って、アサシンの一人が身に着けていた指輪を取った。指輪の紋章を見て、「これは……」とエアハルトとベルナールを呼んだ。紋章は二頭の赤い蛇が絡み合って頭をむき合わせている形をしていた。


「おいこれ、見覚えがないか」


 アルフレッドの問いにエアハルトは眉をひそめた。


「ああ、こいつは……」


 するとベルナールが言った。


「赤のレ=ラ=マイラの紋章ですね」


 他の三人はレ=ラ=マイラについて何の知識も持っていなかったので、エアハルトが説明した。


「レ=ラ=マイラとは、限られた魔術師たちから成る血族だ。青の一族と赤の一族がいる。こいつらは赤の一族の手の者だ。彼らは秘密主義的で、その素性は定かではないが、その血族に生まれし者は、生来強力な魔力を有していることで知られている」


「何ですのそれ? 秘密結社か何か?」フローラは問うた。


「まあ……そんなようなもんだが、何でそいつらが俺たちを襲ってきたのか意味が分からない」


 すると、死体をあさっていたエイブラハムが、「おい、どうやら答えを持っているようだぜ」と、封書を取り出した。エイブラハムは封書を仲間たちに渡した。封書にはこう書かれていた。



 我々の敵、エメラインが覚醒した。エメラインを殺せ。道連れの者たちも一緒に葬るべし。

 エメラインは絶句した。


「え……何それ。どういうこと?」


「どうやらお前の出生にはやはり秘密があるようだな」アルフレッドは言った。「恐らくお前はレ=ラ=マイラの一族と関りがあるに違いない。そうでなければこの封書の意味が通じない」


「私を殺しに来たってこと?」


「ここに書いてあるだろう」


「あなたがなぜあんな森の民の間で生きることになったのか、事情があるはず。そして、それは危険を伴う秘密に近づくことになる気がしますね」


 ベルナールが言った。


「俺たちまで殺そうとしやがって。ふざけるなよ」


 エイブラハムは苛立っていた。


 フローラは不安そうにしているエメラインの肩にそっと手を置いた。


「エメライン、大丈夫ですよ。私たちがいます。一人にはしません」


「連中の本部は南の都の郊外だったな。殴り込みをかけるか」


 アルフレッドは言った。


「それも良いかも知れんな」


 エイブラハムはやる気満々だった。


「エメライン、どうだ? この機会に自分の秘密と向き合ってみる気にはならないか?」


 アルフレッドの言葉にエメラインは不安そうだった。


「でも……私のせいでみんなが危険な目に……」


「どの道同じさ。連中はこっちを消しにかかってきたんだ。黙っていたらやられるぞ」


「…………」


 エメラインはしばらく沈黙していたが、やがて顔を上げた。


「分かりました。私、レ=ラ=マイラの一族とかいう人たちと戦います」


 方針は決した。冒険者たちは旅路を急ぎ、南の都へと向かった。

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