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第三話

 仲間たちがそろうと、いよいよ出立となった。一同はアルフレッドが最初に怪物と遭遇した川に向かった。そのまま川を渡る。


「その娘がいたという森の村だな」


 エイブラハムは剣を抜いて前進する。全員戦闘態勢に入っている。


 それから小一時間ほどして、一行は気づいた。


「囲まれてるぞ」


 エアハルトは魔法で空中に舞い上がった。森から出てしまうと目立つので四、五メートルほど宙に浮いた。それからエアハルトは遠視出来る霊眼を飛ばした。このメイジは初めて怪物を確認した。


「なんだこいつは……。おい、徐々に来てるぞ」


 エイブラハムとアルフレッド、ベルナールは剣を構える。フローラは、「ターンアンデッドを試してみます」そう言って聖印を握り締めていた。


 そして、四方から十体ほどの怪物の群れが現れた。フローラが念を込めてターンアンデッドを発動すると、怪物たちは全て灰となって崩れ去った。


「おいおい……こいつらアンデッドか」


 エイブラハムは崩れ落ちた怪物の残骸を剣でつついた。


「そのようですね」フローラが言って肩をすくめた。「それもそれほどレベルも高くないようです」


「やはりパーティを組むのは正解だったようだ」


 アルフレッドは言って、空中のエアハルトに問うた。


「どうだ? まだ来そうか?」


「いや、とりあえず今のでおしまいだな」


「エメラインの村は探せるか?」


「ちょっと待ってくれ……」


 エアハルトは霊眼を飛ばして探査していく。やがて。


「見つけた……が。これは……」


「どうした?」


「修羅場だぞ。あちこちに食い荒らされた死体が転がっている」


 そこでエイブラハムが言った。


「いったん下りてこいエアハルト」


「ああ」


 エアハルトが下りてくると、エイブラハムは思案して言った。


「とりあえずその村に行ってみよう。それから、ベルナールとエアハルトの霊眼で連中のアジトかねぐらにしている洞窟などを探してみよう。ダンジョンがあればそこを攻略する」


 そういうわけで、一同はエメラインの村へ向かう。夜までには何かしらの収穫が欲しかった。



 異臭が鼻をつく。


「村はすぐそこだ」


 エアハルトの霊眼が村を捉える。やがて、一行は森の民の村へ出る。


「ちっ……何てことだ」


 アルフレッドは悪態をついた。惨殺死体があちこちに散乱している。


 冒険者たちは村の中を捜索する。フローラが浄化の魔法で死体を処理していく。


「得るものはないか」


 エイブラハムは苛立たし気に唸った。


「まあ仕方ない。連中のアジトを探そう」


 そうして、森を出て、ベルナールとエアハルトが霊眼を使う。この辺りの岩山のダンジョンは探索され尽くしているので、何か手掛かりが映りそうなものであった。


「見つけた」ベルナールが言った。


「どこだ」アルフレッドは問う。


「北の洞窟ダンジョンの一つですね。入口にあの怪物が二体立っている」


「よし、では森を抜けて、いったん近くの村で宿を取ろう。洞窟にはそれから向かうとしよう」


 エイブラハムの言葉を受けて、エアハルトが言った。


「俺は町に戻ってマップを取ってこよう。一度クリアされているから酒場にマップが残っているだろう」


「そうだな。また後で村で合流しよう」


 エイブラハムが言うと、エアハルトはテレポートでラストルーラに瞬間移動した。


 アルフレッドらは森を北に抜けて、村に到着した。午後半ばといったところであった。宿をとっておいて、エアハルトが戻ってきてからアルフレッドらは夕食を共にした。



 翌朝、集まった五人はダンジョンに向かった。例の怪物が三体入口を固めていた。


「魔法は温存した方がいいと思うが」アルフレッドは言った。「俺とエイブラハム、ベルナールの三人もいれば十分だと思う」


「そうか?」エイブラハムは問うた。


「ああ。怪物の動きは鈍い。一撃は重たそうだが、注意していれば当たることはないだろう。それに俺の魔剣でも真っ二つに出来た」


 アルフレッドは言った。


「ふむ……では行くか? ベルナール」


「了解しました」


 そうして、アルフレッドたちは剣を抜くと、突入した。


 怪物たちはアルフレッドらに気づいて、唸り声を上げて向かってきた。アルフレッドらが散開すると、怪物たちもそれぞれに分かれて襲ってきた。


 アルフレッドはもう分かっていたので、積極的に攻勢に出た。怪物のパンチをかわすとその腕を切り落とし、そのまま跳ね上げた剣で怪物の胴体を両断した。


 見ると、エイブラハムもベルナールも余裕で片付けているようだった。


 アルフレッドたちは怪物三体を倒し、ダンジョンの入口に集まった。


「言った通りだったろ」


 アルフレッドが言うと、エイブラハムは笑った。


「確かにな。あれじゃあ魔法は温存した方が良さそうだ」


 いよいよダンジョンに入ることになる。エアハルトがマッパーを務める。先頭はアルフレッド。続いてベルナール、エアハルト、フローラ。しんがりはエイブラハムとなった。アルフレッドは松明を持って洞窟の中を覗いた。いつになってもこの最初の緊張感は慣れない。こういう場合人間にとって暗闇は恐怖でしかない。アルフレッドは洞窟に踏み入った。仲間たちが後に続く。


「まずは真っ直ぐだ」エアハルトは言った。「広間に出る。途中交差点があるから気を付けて」


「分かった」


 アルフレッドたちは前進した。交差点ではエイブラハムとベルナールがそれぞれ両サイドを固めた。三番目の交差点で前と左右から怪物に襲われたがこれを難なく片付ける。


「この次が広間だ」エアハルトは言った。


 アルフレッドは先頭にいるので広間の中を覗き込んだ。怪物たちが十体ほどいて歩き回っている。


「ファイアボールを一発使おう。こっちに出来るだけおびき寄せてくれ」


 エアハルトの提案でアルフレッドとエイブラハム、ベルナールの三人で怪物を引き付ける。


「ヘイ! うすのろども! こっちだぞ!」


 アルフレッドは叫んだ。そこでベルナールもファイアボールを二発撃ち込んだ。


 後退する冒険者たち。怪物たちは咆哮しながら前進してくる。そこでエアハルトのファイアボールが炸裂する。怪物たちの半数近くが半壊して崩れ落ちた。


 残る怪物たちにアルフレッドとベルナール、エイブラハム、フローラも加わってかたをつける。


「この部屋に仕掛けがあるようだ。西の壁にあるレバーを動かすことで北の壇が開いて地下へと降りる道が開けるらしい」


 エアハルトはマップの書き込みを見て言った。


 仲間同士で西の壁を探す。


「これか?」アルフレッドはレバーらしきものを見つけた。「おいみんな」


「これだな」エイブラハムは頷いた。「しかしいきなりブービートラップとかは勘弁だぜ」


「だがやるしかない。レバーを下ろすぞ」アルフレッドは言って、レバーを下ろした。


 すると、床が大きく開いてみんな揃ってその穴に落ちることになる。


「だからブービートラップは勘弁だって言ったのにな!」


 エイブラハムは落下していきながら罵った。


「大丈夫だ。みんな、飛行の魔法をかけるぞ」


 エアハルトが言って、腕を一振り。すると全員の体が空中でふわふわと静止する。


「で、どうするかね。このまま穴を降りるか?」


「冗談じゃない。戻るぞ」


 エイブラハムは言って、上昇していく。しかし、床が再び閉ざされようとしている。


「エアハルト、魔法であの忌々しい床を吹っ飛ばせ」


「承知した。落下物に気を付けろ」


 そう言うと、エアハルトはファイアボールを連射した。上空で炎が爆発し、床を粉々に打ち砕いた。みな壁に寄って落ちてくる落下物を回避する。それからようやく元いたフロアに戻ると改めて西の壁のレバーを探す。


「これじゃないでしょうか?」


 ベルナールが言って、仲間たちに声をかける。


 それは、壁の穴の中に巧妙に隠されていたレバーであった。穴は壁と同一色で遮蔽されており、人間には見つけるのは困難だろう。だがエルフの目を誤魔化すことは出来なかった。


 ベルナールはレバーを引いた。すると、今度は震動がして、北の壇が両側に開くように動いて、地下への階段が現れた。


「おお」エイブラハムは地下を覗き込んだ。「地下なのに明るいぞ」


「どうやら魔法の明かりが灯っているそうだ」エアハルトは言った。


 アルフレッドたちは用心しながら地下へと降りていった。


「すぐに大広間にぶち当たる。そこで何かの祭祀をしていたそうだ」


 エアハルトが言った。


 アルフレッドたちはすぐに大きな鉄の扉の前で止まった。


「この中か」


 エイブラハムはベルナールとエアハルトに霊眼で広間の探査を頼んだ。しかし。


「駄目だ。見えない」ベルナールは言った。


「魔法の障壁か何かで塞がれてる」エアハルトも頷いた。


「出たとこ勝負だな」


 エイブラハムは唸るように言って、「行くぞ」と鉄の扉を押した。


 扉は軋むような音を上げて押し開けられた。


 わっ! と怪物たちの群れが襲い掛かってきた。


「ターンアンデッド!」フローラが聖印に念を込める。怪物たちは灰と化した。


「な、何だ?」


 アルフレッドは前を見た。


 かなり大きな広間だ。とても明るい。怪物たちはまだたくさんいて、こちらに向かってくる。


 フローラが祝福の魔法をかける。全員の戦闘力が上昇する。エアハルトとベルナールは魔法を連発し、アルフレッドとエイブラハムは切り込んだ。フローラも前進する。怪物たちを圧倒し葬り去っていく。さすがの高レベルパーティだ。


 怪物が片付いたところで、アルフレッドたちは広間の巨大な祭壇の前に立っている黒衣の人物を目に留めた。怪物たちに気を取られて気が付かなかった。


「何者か知らんがここまでだ」アルフレッドは言った。


 すると、黒衣の人物はゆっくりと振り返った。突如、全員金縛りにあったようにプレッシャーを感じた。


「な、何だ……こいつ」アルフレッドは剣先が震えているのを見た。


 他の仲間たちも同じくだ。


 黒衣の奥に潜む深紅の双眸。


「手下どもでは相手にならなかったわけだ」


 その声はざらざらしていて、やすりで体をこすられるような感覚だった。


「ライトニングボルト!」エアハルトが電撃を撃ち込んだ。


「マジックミサイル!」ベルナールは魔法の矢弾を。


 しかし、電撃も矢弾も黒衣の魔導士の前で弾かれた。


「畜生! こなくそ! 魔剣よ目覚めよ!」


 エイブラハムが突進して輝く魔剣を振り下ろした。黒衣の魔導士は、何とそれを素手で掴んで止めた。


「なっ!? 馬鹿な!」


「愚か者め」


 黒衣の魔導士は、剣を掴んだままエイブラハムを無造作に持ち上げると、アルフレッドとフローラのいるところまで投げつけた。アルフレッドたちはエイブラハムを受け止めて倒れた。


「ハハハハハ……人間どもよ、これは始まりに過ぎぬ。やがて災いが降りかかる。どうあがいたところでお前たちに勝ち目はないのだ。この私を止められる者などいない」


 黒衣の魔導士は笑声を上げると、無防備な態勢でこちらに歩いてきた。


「ふざけやがって……! フローラ! 強化魔法マックスでくれ!」アルフレッドは言った。


「分かりましたっ……! 神々よ、かの者の剣に最大なる祝福を! 邪悪を退ける偉大な力を!」


 フローラは強力な聖なるパワーをアルフレッドの剣に付与した。


 アルフレッドはダッシュすると黒衣の魔導士に切りかかった。


「これでも食らえ!」


「むっ……」


 黒衣の魔導士は腕を上げたが、アルフレッドの魔剣はその腕を切り飛ばした。


「まだまだあ!」アルフレッドは一気に決めるつもりだった。更に切りかかる。


 と、黒いオーラが剣の前に出現し、アルフレッドの一撃は受け止められた。


「な、何!?」


「わしの腕を切り飛ばすとは、忘れて久しい痛みが蘇るわ」


 黒衣の魔導士はもう一方の腕を上げると、黒い波動を撃ち込んできた。


 アルフレッドは波動に体中を切られて吹っ飛んだ。


「アルフレッドさん!」


 フローラがすぐに回復魔法で体力マックスにしてくれる。


 ベルナールとエアハルトはありとあらゆる魔法を撃ちまくった。しかし、黒衣の魔導士は悠然と歩いてくる。


 エイブラハムが怒鳴る。


「フローラ! さっきの魔法はまだ打てるか!」


「駄目です! あれは一度しか使えません!」


「仕方ない! アルフレッド! 俺が突っ込んで囮になる! お前さんはその魔剣を奴の心臓にぶち込んでやれ!」


「死ぬなよエイブラハム!」


「そう簡単にくたばるか! 行くぞ!」エイブラハムは走り出した。


 アルフレッドも駆け出す。


「この化け物野郎!」


 エイブラハムは正面から黒衣の魔導士に突入した。そしてそのまま魔法剣を繰り出す。


「エアハルト! 私の剣にもパワーを!」


 ベルナールも切り込む。


 黒衣の魔導士はそれらを片腕を上げ、黒いオーラで受け止めた。


 アルフレッドはその脇をすり抜け、黒衣の魔導士の胸めがけて魔剣を突き出した。手応えはあった。見ると、アルフレッドの魔剣は黒衣の魔導士の胸を貫通していた。


「貴様……調子に乗るなよ」


 黒衣の魔導士はアルフレッドの首を掴んで持ち上げると、物凄い力で締め上げてきた。


 アルフレッドは死を覚悟した。


「ホーリーアロー!」


 フローラの渾身の聖なる矢弾が黒衣の魔導士の腕を打ち砕く。


 アルフレッドは地面に落ちた。が、剣を持つ手は放さなかった。


「畜生があ!」


 アルフレッドは突き刺さったままの剣をスイングした。


 黒衣の魔導士の肉体が逆袈裟に切り裂かれた。しかし。


「人間ども……私を倒すことは出来ぬ……お前たちにとっての災厄はこれから降りかかるのだ……私を止めることは出来ぬ……アハハハハハハハハ……!」


 黒衣の魔導士は、黒い霞に姿を変えると、そのまま天井の隙間から出て行った。


 全員呆然としていた。


「おい、みんな生きてるか」


 エイブラハムは荒い息で言った。


「何とかな」


 アルフレッドは言った。


「フローラ、助かったぜ」


「はい。でも恐ろしい相手でした。アルフレッドさんはあれをアンデッドだと思ったのですね」


「そうだ。大当たりだったろう?」


「そうですね」


 フローラは少し泣いていた。


 ベルナールとエアハルトは祭壇に向かっていた。


「うっ……」


 二人とも鼻と口を押えた。


 祭壇には人間の死体が積まれており、死体をつなぎ合わせたあの怪物の未完成品が何体か横たわっていた。


 一同それを見て、人造ゾンビの正体を確認することになる。


「いずれにしても、仕事は完了だ。それがせめてもの救いだな」


 エイブラハムは言った。


「男爵に報酬を吹っ掛けてやろう。だが、黒衣の魔導士の件は報告せねばな」


 かくして、謎の黒衣の魔導士との激戦を終えて、パーティは洞窟を出た。太陽は落ちそうになっていた。全員エアハルトに捕まり、一緒にラストルーラへテレポートで帰還した。

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