表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/34

第十九話

 一年ぶりの王都へやってきたアルフレッドらは、ちょっとした浦島状態であったが、断片的な情報は東部にいながらも入手していた。尤も、グラッドストンとベアトリクスは動きを見せておらず、暗黒士の情報も入っていなかった。


 冒険者たちは宿にチェックインを済ませると、教会へ向かった。グラッドストンとベアトリクスの情報が欲しかった。酒場に持ち込まれる情報では追いきれまいと踏んでいたのだ。


 教会のスタッフに用向きを伝えると、上級神官の執務室まで案内してくれた。


「どうぞ」


「ありがとう」


 アルフレッドらはお礼を言って執務室に入った。


 上級神官のシモンが仕事をしていた。


「冒険者か。アルフレッドだね。君たちの名は知っている。エイブラハム、エアハルト、エメライン、フローラ、ベルナール」


「ご存じでしたか」アルフレッドは言った。


「まあね。何かと目立つ情報は入ってくるものだ」


「では早速ですが本題に入ってもよろしいですか。グラッドストンとベアトリクスの件です」


「なるほど」


「奴らを倒さねば、またいつ先年のような惨事が起きるとも限りませんからね。もしかすると何か足取りをご存じないかと」


「昨年の件以来、探索魔法は常に奴らを捕らえている。居場所は分かっている。グラッドストンの迷宮城へは三度にわたり討伐隊を差し向けた。しかし……」


「しかし……?」


「討伐隊はいずれも壊滅。生きて戻った者はほとんどいない。ベアトリクスの魔城へも二度部隊を送り込んだが同じくだ。そのような状況だ。さすがの騎士たちも恐れをなして手を上げる者はいなくなった。我々としては、冒険者の力を借りねばなるまいと検討していたところだ」


 そこでエイブラハムが口を開いた。


「討伐隊に魔法使いや聖職者はいたのか?」


「いや、騎士団から志願兵を送り込んだのだ」


「そいつは無茶ってもんだ。魔法なしであのクラスの化け物に当たるのは自殺行為だ。それに、数を集めればいいというわけでもない。剣と魔法、バランスの取れた編成でないと無理だ」


「そのようだな」


 シモンは言って、眉間を押さえた。


 しばらくの沈黙があって、アルフレッドが言った。


「グラッドストンとベアトリクスは、それぞれ拠点を築いて、一応の自身のテリトリーを持っているという認識でいいのか」


「そうだな。探索魔法では、ここ最近の移動は検知していない」


「グラッドストンの迷宮城の位置は?」


「北東部のガイレイラ渓谷の奥地だ。それとわかるはずだ。古代の迷宮城の跡地に奴は拠点を構えた」


「俺は聞いたことはないな。誰か知ってるやつはいるか?」


 アルフレッドは仲間たちを見渡すと、ベルナールが手を上げた。


「私は知っていますよ。長く生きていると、記憶にも多くのものが積み上がっていきますからね」


「危険度は?」


「入ったことはないので何とも言い難いですね」


 そこでエアハルトが口を開いた。


「まあ何にしても、精鋭騎士団が三度も壊滅したくらいだ。相応の危険はあるだろう」


「私たちだけでは危険ではありませんか? 他にもパーティを募った方がよろしいのでは」


 フローラの言葉は尤もだった。アルフレッドは頷いた。


「行くと仮定すると、俺たち以外にも幾らでも味方パーティが欲しいところだな」


「人の手配なら任せてもらおう」シモンが言った。「酒場で相手を探すよりは力になれると思う」


「ああ、だがまあ待ってくれ。今すぐ行くと決めたわけじゃない」


 アルフレッドは言って、仲間たちを見やる。


「まあ、敵の拠点も分かったことだし、一時様子を見よう。焦ることはないからな」


 そうして冒険者たちはいったん宿へと戻った。



「なあエメライン」


 アルフレッドは言った。エメラインも二十二歳になって、修羅場を経験し、すっかり大人の女性になった。


「グラッドストンとベアトリクス、そして暗黒士との戦いが終わったら、どこかで静かに暮らさないか?」


「どうしたの急に」


「何と言うか……何と言うべきか、君と出会って俺の運命も少なからず変わった。だからと言ってこう言うことを告げるのは、おかしなものかもしれないが、俺は君のことが好きだし、君は運命の人だったのかも知れない。俺は、君と離れるつもりはないんだ」


「アルフレッド……」


 エメラインはアルフレッドを抱き寄せると、その胸に顔をうずめた。


「戦いが終わったら、一緒になろう。全てが片付いたら、俺たちの未来のことを考えよう」


「うん。約束だよ」


「約束だ」


 アルフレッドはエメラインの額にキスした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ