第十九話
一年ぶりの王都へやってきたアルフレッドらは、ちょっとした浦島状態であったが、断片的な情報は東部にいながらも入手していた。尤も、グラッドストンとベアトリクスは動きを見せておらず、暗黒士の情報も入っていなかった。
冒険者たちは宿にチェックインを済ませると、教会へ向かった。グラッドストンとベアトリクスの情報が欲しかった。酒場に持ち込まれる情報では追いきれまいと踏んでいたのだ。
教会のスタッフに用向きを伝えると、上級神官の執務室まで案内してくれた。
「どうぞ」
「ありがとう」
アルフレッドらはお礼を言って執務室に入った。
上級神官のシモンが仕事をしていた。
「冒険者か。アルフレッドだね。君たちの名は知っている。エイブラハム、エアハルト、エメライン、フローラ、ベルナール」
「ご存じでしたか」アルフレッドは言った。
「まあね。何かと目立つ情報は入ってくるものだ」
「では早速ですが本題に入ってもよろしいですか。グラッドストンとベアトリクスの件です」
「なるほど」
「奴らを倒さねば、またいつ先年のような惨事が起きるとも限りませんからね。もしかすると何か足取りをご存じないかと」
「昨年の件以来、探索魔法は常に奴らを捕らえている。居場所は分かっている。グラッドストンの迷宮城へは三度にわたり討伐隊を差し向けた。しかし……」
「しかし……?」
「討伐隊はいずれも壊滅。生きて戻った者はほとんどいない。ベアトリクスの魔城へも二度部隊を送り込んだが同じくだ。そのような状況だ。さすがの騎士たちも恐れをなして手を上げる者はいなくなった。我々としては、冒険者の力を借りねばなるまいと検討していたところだ」
そこでエイブラハムが口を開いた。
「討伐隊に魔法使いや聖職者はいたのか?」
「いや、騎士団から志願兵を送り込んだのだ」
「そいつは無茶ってもんだ。魔法なしであのクラスの化け物に当たるのは自殺行為だ。それに、数を集めればいいというわけでもない。剣と魔法、バランスの取れた編成でないと無理だ」
「そのようだな」
シモンは言って、眉間を押さえた。
しばらくの沈黙があって、アルフレッドが言った。
「グラッドストンとベアトリクスは、それぞれ拠点を築いて、一応の自身のテリトリーを持っているという認識でいいのか」
「そうだな。探索魔法では、ここ最近の移動は検知していない」
「グラッドストンの迷宮城の位置は?」
「北東部のガイレイラ渓谷の奥地だ。それとわかるはずだ。古代の迷宮城の跡地に奴は拠点を構えた」
「俺は聞いたことはないな。誰か知ってるやつはいるか?」
アルフレッドは仲間たちを見渡すと、ベルナールが手を上げた。
「私は知っていますよ。長く生きていると、記憶にも多くのものが積み上がっていきますからね」
「危険度は?」
「入ったことはないので何とも言い難いですね」
そこでエアハルトが口を開いた。
「まあ何にしても、精鋭騎士団が三度も壊滅したくらいだ。相応の危険はあるだろう」
「私たちだけでは危険ではありませんか? 他にもパーティを募った方がよろしいのでは」
フローラの言葉は尤もだった。アルフレッドは頷いた。
「行くと仮定すると、俺たち以外にも幾らでも味方パーティが欲しいところだな」
「人の手配なら任せてもらおう」シモンが言った。「酒場で相手を探すよりは力になれると思う」
「ああ、だがまあ待ってくれ。今すぐ行くと決めたわけじゃない」
アルフレッドは言って、仲間たちを見やる。
「まあ、敵の拠点も分かったことだし、一時様子を見よう。焦ることはないからな」
そうして冒険者たちはいったん宿へと戻った。
「なあエメライン」
アルフレッドは言った。エメラインも二十二歳になって、修羅場を経験し、すっかり大人の女性になった。
「グラッドストンとベアトリクス、そして暗黒士との戦いが終わったら、どこかで静かに暮らさないか?」
「どうしたの急に」
「何と言うか……何と言うべきか、君と出会って俺の運命も少なからず変わった。だからと言ってこう言うことを告げるのは、おかしなものかもしれないが、俺は君のことが好きだし、君は運命の人だったのかも知れない。俺は、君と離れるつもりはないんだ」
「アルフレッド……」
エメラインはアルフレッドを抱き寄せると、その胸に顔をうずめた。
「戦いが終わったら、一緒になろう。全てが片付いたら、俺たちの未来のことを考えよう」
「うん。約束だよ」
「約束だ」
アルフレッドはエメラインの額にキスした。