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第十八話

 エアハルトの報告を受けた冒険者たちに騎士たち、兵士たちはその絶望的な状況に沈黙した。


「何というか……東はもう駄目だ」


 エアハルトは零した。やがて、騎士は言う。


「ここで、ここで何としても封じ込めなければ」


「そうだよ」エメラインが言った。「諦めちゃ駄目よ。ここで封じ込める」


 すると、「エアハルト、東の都まで飛んでくれるか。騎士団長に会いたい」言ったのはアルフレッドである。


「どうするつもりだ?」


「俺にもわからない。だがジャン=バティストにアイデアがないものか聞いてみたい」


「そうか。よし、司令部までテレポートしよう」


 アルフレッドはエアハルトに掴まった。



 司令部に突然あられた二人の冒険者にジャン=バティストはやや意表を突かれた様子であった。


「先日の冒険者か。どうしたのだ」


 アルフレッドが進み出て、東部の戦況を伝える。


「このままでは都は無事でも東部全域がゾンビで溢れ返ることになるぞ。ジャン=バティスト、何かアイデアはないのか。他に戦力は? 何か打つ手はないのか」


「……事態はそこまで深刻であったか。他に打つ手か……」


 やがてジャン=バティストは吐息した。


「陛下の判断を仰ごう。私は現場の指揮官に過ぎぬ。与えられた戦力以外に思いつくものがない」


「では文書をしたためてくれ。俺がすぐに王都へ向かう」


「分かった。お前に託そう」


 そうして、ジャン=バティストは国王グレアムへの書状を書くと、それを封筒に入れて蝋で封印した。


「行くぞエアハルト」


「よし。王都へテレポートする」


 アルフレッドとエアハルトは王都へテレポートした。



 通りを急ぎ、二人は王城へ入った。兵士に事の次第を告げると、二人は速やかに謁見の間へ通された。


 国王グレアムは、ジャン=バティストからの書状を確認し、アルフレッドらに目を向けた。


「東部は既に壊滅状態と申すか」


「は、もはや手遅れかと存じます。いえ、現在のままではそうなります。アンデッドに殺された民がまたアンデッドとして復活し、ネズミ算式に増えていくのは確実です。放置しておけば隣接する北部と南部にも飛び火しますぞ」


 アルフレッドは声も大きくグレアムに迫った。


「どう思うかコンラート」


 グレアムは大神官に意見を求めた。


「はい。アルフレッドの申す通りであれば、これの引き金はグラッドストンとベアトリクス。確かに、何か手を打ちませんと。放置してはおけませんな」


「後手後手に回ったな。どうする? 何か妙案があるか」


「全国の傭兵と冒険者、それに流れ者たちも招集しましょう。報奨金を弾めば彼らも集まるはずです」


「……兵隊は何もないところから湧いてくるものではないからな。それしかないか。今頼れるのは金で動く連中か」


「ですが、今となっては貴重な戦力です」


「よかろう」グレアムは決断した。「アルフレッド、今聞いた通りだ。集まった戦力を東に送り込む。しばし堪えてくれ。ジャン=バティストにもそう伝えよ」


「承知いたしました陛下。では我々は最前線で祈るとしましょう」


 そうして、アルフレッドとエアハルトは再び東の都へテレポートした。



 ジャン=バティストはグレアムからの言葉を受けて、新たな戦力に期待する。


「今となっては頼れる者には頼るしかないというところか」


「こう言っては何ですが、高レベルの冒険者は並の騎士よりもはるかに大きな戦力になります。期待しましょう。仕事さえしてくれればそれでいい」


「そうだな」


 ジャン=バティストは己を納得させるように頷く。


「では俺たちは前線へ戻ります」


 アルフレッドとエアハルトはまたテレポートでレミレラの町に瞬間移動した。



「どうだった?」


 開口一番エイブラハムは言った。


 アルフレッドはグレアムの言葉を仲間たちや騎士、兵士たちに告げる。


「後は祈るしかない」


「これは宣伝効果もあるはずだ。有為の才ある冒険者にも届くかもしれんだろう」


「ああ、世の中金で動く連中だけではないからな」


「私たちみたいに?」


 エメラインが言うと、アルフレッドは笑った。


「綺麗事を言うつもりはないが、これ程の非常事態であれば助けてくれる奴もいるってことさ。俺はそういう奴らもたくさん知ってる」



 それから数日後。ぱらぱらと冒険者の援軍が到着し始めた。アルフレッドの顔なじみもいて、再会を喜ぶ声もあった。そしてさらに一週間ほどの時が流れると、次々と各地から戦力が集まってきた。冒険者、傭兵、流れ者たち、そうした連中が続々とテレポートで到着し始める。その数は騎士団に匹敵し、レミレラの町は一大ベースキャンプと化した。


「奇跡だ」アルフレッドの言葉に、


「やったなアルフレッド」


 エイブラハムはそう応じ、拳を打ち合わせた。


 援軍はまだまだ各地から集まっていた。そしてこの圧倒的戦力は、神風となってアンデッドの大軍に襲い掛かった。


 焚けり狂う魔法と強靭な剣撃、無限とも言える回復力、これらの三つが組み合わさった時、援軍の破壊力は恐るべきものとなった。


 アンデッドの大軍はこの神風になぎ倒され、瞬く間に討伐されていく。それはアンデッドの増殖速度を越えて吹き荒れ、凄まじい勢いで東へ東へと突き進んでいった。


 まさにハリケーンである。飲み込まれたアンデッドの大軍はミキサーにかけられるがごとく粉砕されていった。その勢力は瞬く間に削り取られていく。


「奇跡だ」


 アルフレッドは二度目の言葉を口にした。


「やはり正規軍とは言え騎士だけでは無理があったのだろう」


 エイブラハムは言った。


 それからひと月ほど、人類の軍団はアンデッドに対し暴風のごとく反撃となって吹き荒れ、これを駆逐した。



「終わったね」


 エメラインが戦場となった町の中をアルフレッドと歩いていた。


「でも本当だったわ。助けてくれる人たちがいるのね」


「みんな誰かに救われてる」


「そうね……」


 エアハルトとフローラは戦場の後を歩きながら、ようやく終わったと安堵していた。


「エアハルト、私こんな集団戦は初めてだったけど、みんなの力のおかげね。凄い力だった」


「そうだな。大神官の当てがぴったりはまったな」


「それにしても、グラッドストンとベアトリクスはどこにいるのかしら」


「問題はそれだな。奴らを倒さない限り安心して眠れんよ。暗黒士の件もあるしな」


 ベルナールとエイブラハムは「やれやれ」といったふうに戦闘を振り返った。


「どうにか片付いたが、この死体の山を火葬するにはどれだけの炎が必要か」


「まあ……それはともかく、勝利できたことが奇跡でしたね。これだけの仲間が集まれば、グラッドストンとベアトリクスにも対抗できると示したのですから」


「ああ。だがなあ、死んじまった人間は戻ってこない。この東部の復興は絶望的だ」


「それは時間がかかるでしょうな」


 いずれにしろ、人類はこの未曽有のアンデッドの大軍に勝利した。


 王国は東部の復興に尽力することになる。避難民たちは東部に続々と帰還したが、破壊された家屋を見て涙する姿もあった。国王グレアムは一刻も早い復興を目指すべく、騎士団には現地に留まり諸々の作業に当たるよう命じた。


 余談ではあるが、集まった援軍の者たちには百万マーネが支給された。


 そしてアルフレッドらはこの復興作業に手を貸すことにする。


 アルフレッドとエイブラハムは瓦礫の撤去などの力仕事に手を貸し、エアハルトにエメライン、ベルナールは魔法の念力を使用して同じく力仕事のサポートなどに当たった。フローラは魔法を使って水と食料を作り、また炊き出しも行った。


 アルフレッドらのように現地に留まってボランティアに当たったのはごくわずかであった。それでも、アルフレッドらは現地の人々とともに地道な復旧作業に従事した。


 夏が来る前にどうにか死体を全て焼き払うことが出来た。暑さで死体の腐敗が進めば衛生的によろしくないことは明らかであり、これも急ぎで行われた。アルフレッドらも数え切れない死体を運んだ。


 フローラや派遣されている神官たちは、浄化の魔法で死体安置所などの汚れていた場所を綺麗にした。また聖職者たちの魔法では定期的に水を作って風呂を用意した。


 こうして復興作業はゆっくりとではあるが、前進し、アルフレッドらもそれから一年近くこの地に留まり復興に従事した。


 多くの町や村が一から作り直すことになったが、それでも前に進んだことには変わりはない。石工や大工職人らが集まり、材料の石材や木材が東部地域に運び込まれる。


 アルフレッドらはその様子を見て、ここを発つことにした。


 一年間の苦楽を共にした住民とは別れを惜しんだ。


 そうして、アルフレッドらは王国東部を後にした。

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